OL&サラリーマン→?&?
「これで『ペット』と『執事』が集まった!まだ足りないかな!?そろそろいいかな!?いや、やっぱりまだ足りないか!五十人位必要かな!?それとも三人位かな!?」
神は飛び跳ねる。
真っ白の部屋でくるくると回転しながら、神は球体を胸に抱きかかえている。
「やっぱりまだ足りないな!まだまだまだまだ足りないな!面白い素材はいないかなあ!」
突然、神は大事そうに抱えていた球体を真上に放り投げた。球体はきらきらと輝きながら昇っていく。軽く放り投げたように見えるが、それは止まる気配なくそのまま上がっていき、とうとう人間の視力では見えないであろう位置まで上がった。
神はしばらくそれを見つめていたが、やがてスッと目を閉じた。腕を大きく広げる。数秒後、前回と同様に球体が現れる。しかも今度は一つではない。瞬く間に球体の数は三桁を超えた。
「そろそろ面倒だしなあ!今度は一気にいってみようか!」
神は目を開けた。汚れた瞳が、美しい輝きを放つ球体を淀んで映す。
「さあ……次の出番は君たちだ」
~3人目と4人目の『ヒーロー』と『ヒロイン』~
「あ~さみぃ~」
隣で伊呂波先輩がマフラーに顔をうずめながら両腕をこする。寒がりな彼は、冷えの厳しいはこの季節いつもコートを着込みマフラーをしている。というか好きだ。外見的にも名前的にも女らしいので、身長170越えで名前も天道晶なんて男っぽい名前の私とつり合いがとれるんじゃないかと思うのだがどうだろう?
「今日暇か?飲みに行こうぜ。奢ってやるから」
「マジですか!?やった!行きます!暇です!」
嘘です。友達との約束があったけどこれは仕方ない。私は毎日食事を誘っているけど、先輩に誘われる機会なんてめったにない。すぐさまラインで伝える。文句を言われたが、すべてにおいて先輩を優先するのは今に始まった事ではないので問題なかろう。
今は会社の先輩だが、彼、伊呂波優樹とは高校から付き合いがある。中世的な顔立ちなうえ小柄で華奢なのに性格は存外男らしい自慢の先輩だ。というか好きだ。大好きだ。いい加減気付いてくれてもいいのではないだろうか。
先輩はもう一度、寒いなと呟く。テンションがマックスまで上がって調子に乗っている私は(自分的)決め顔でこう言った。
「そんなに寒いなら私が温めてあげましょうか?どうぞこの胸に」
「キモい」
……自分ながら気障というか、クサいことを言った自覚はある。しかし、仮にも女子、おまけに長い付き合いの可愛い後輩に”キモい”はひどくないだろうか。
「お前は後輩だけど可愛くないぞ?」
「心読まないで!?」
「タメ口!!」
バシィ!!
蹴られた……痛い。すごく痛い。先輩は私が先輩の身長を越した高校二年生の頃から時々こうやって蹴ってくる。いや、殴りもする。恨めしげに頭一つ分小さい伊呂波先輩を見ると、先輩はアハハと楽しげに笑った。
「可愛い……!」
バシィ!!ドゴォ!!ペチッ!
夏は焼けるように熱く、冬は凍えそうに冷たいコンクリートの上に寝るのは苦痛しかない。そう思わない?
「いい度胸だなあ……?飯行くのなしにするぞ?」
「さっせんしたぁぁぁぁ!!」
即土下座だ。コンクリートだろうが氷の上だろうがあっつあつの鉄板のうえだろうが関係ない。先輩は若干引いてるが、関係ない。いや、バイオレンスに見えても根の優しい先輩は嫌がるかも知れない。それは、忍びないな……。
「いや、本気で土下座されても……俺には他人のふりするくらいしか出来ないぞ?」
「え、ひど」
案外、冷たい。
とりあえず、立って歩を進める。何だかいじめにあった気もするが、こういう何気ない時間が何より楽しいのだ。
「そういえば観たか?昨日のあれ」
唐突に先輩が切り出した。私もそのことを語ろうと思っていたので一瞬でピンときた。
「ああ!観ましたよ!すっごく面白かったです!昨日の……」
「「スペシャルヒーロー特集!」」
そう、私と先輩の付き合いはこれ、『ヒーロー』だ。私と先輩はよく行く飲み屋のある大通りに着くまで、ずっと語り合っていた。『ヒーロー』のカッコよさや『ヒロイン』の魅力について、かなり白熱した討論になって来た。
そのとき、
「危ない!!」
先輩が道路にいきなり飛び出した。驚いて振り返ると酔っぱらいが、ふらふらと道路に飛び出していた。酔っぱらいはそのまま道路で寝転んでしまい先輩は肩を組んで急いで起こそうとする。
向こうからは大きなトラックが迫ってくる。力のない先輩では中々起こせない。私も加われば運べるかもしれないが、もう間に合わないかもしれない。しかし、行かなければ先輩は……
「先輩!右持ってください!」
「晶!?」
迷うまでもない。私は先輩のように誰が相手であっても自分の命を顧みずに行動することは出来ない。でも、最愛の人が危険に去らされているのに動かなければ『ヒーロー』マニアの名が廃る。
「この人重い……!」
もうだめかもしれない。トラックは眼前に迫ってきている。嫌だ。死ぬのは怖い。でも、それよりも、そんなことよりも、先輩が死ぬなんて絶対に嫌だ!してよ……私を『ヒーロー』にして!!!
―――――ヒーローになりたいとは面白い。いいだろうその願い叶えてやろう。そうだ。隣のやつも面倒だから入れよう。『ヒーロー」は決まったから……よし、今日から君たちは『ヒーロー』と『ヒロイン』だ!
ああ……『ヒロイン』なら女の私じゃ……?でも先輩が『ヒロイン』のほうが似合うか……似合うな。そう考えたのを最後に私の意識は途切れた。




