『魔法使い』は愁い、『執事』は憂いに思う
―――――フワ~終わった?自己紹介が終わって喋ろうかなーと思ったらなんか深刻そうにはなすんだもん!待ちくたびれて、ほんの少し寝てしまったよ!全く神様を待たせるとか前代未聞の冒涜だよね!このゲームをするのは君たちが初めてなんだからチュートリアルを飛ばすことは出来ないって言ったでしょ!言ってない?まあ、どっちでもいいんだけどさ!神様……いや、これからはゲームマスターと呼んでもらおう!ゲームマスターはチュートリアル行うのが面倒くさくなってきたからちゃきちゃき行くよ!
相変わらず心地よい声を心地悪い声量で話す“神様”改め『ゲームマスター』はそこで言葉を切った。
この出来事がいっそ現実味がないくらい緩く行われた行為であることにいい加減気付いた一同は一言一句聞き逃さないようにと体をこわばらせ、耳を澄ませた。砂の上をザクザクと歩きながら。
「歩きながら話聞くことに関してはどうでもいいんだ……」
未和が思わず呟くと、賛同するように晶が頷いた。肩に乗っている『リス』改め赤尾も深刻そうに頷く。
「本当読めないよねー話の流れぽんぽん変わるし。それに、深刻そうな話ってさっきの異世界歩き初心者講座のことでしょ?あれ本当はゲームマスター……長いからGMでいっか。GMの役割なのにね。そういえば、コノハくんの世界に四字熟語ってあるの?」
「お前も十分唐突だけどな。でもそういえば、違う世界なんだよな。蓑島いわく俺たちも違うけど、ほぼ変わりないみたいだし。何か気になることあったら何でも言えよ?」
「まあ、コノハくんは天才魔法使い少年だから大丈夫だろうけど、困ったことあったら『ヒーロー』にいってね」
「それ持ち出すんじゃねえよ!この晶あんぽんたん!」
伊呂波が晶を殴り歩きながらも再び(一方的な)言い争いが始まった。未和は一人複雑そうな表情でそれをみている少年、コノハに声を掛けた。
「二人ともさっきの講座忘れたのかなあ。一、何かが起きるときは突然、体力は出来るだけ温存。でしょ?コノハくん」
「ああ、そっすね……まあ、異世界初めてで、こんだけ元気ならいいんじゃないですかね」
「あはは、まあ元気なのはいいことだよね。……コノハくんさ、この場で誰よりも知識豊富だから何かあったら一人で対応しなきゃーて思ってるでしょ。でも、コノハくん一番年下だし、頼りないかもだけどみんな逃げ足速そうだしそんな気負わなくても」
「そんなわけない。俺がプレッシャーを負う理由がない。俺たちはたまたま同時に神の暇つぶしに巻き込まれただけだ」
お前には関係ない、そう言外に訴えられ未和は言葉を失った。燃えるような瞳は怒りを表しているように見えるが、奥底は押し殺された悲しい色をしていた。まだ、幼さが顔に残る子供がするような目ではない。
(打ち解けてはくれない、か。それもそうだろうけど……でも、ここまで人の感情が分かるのは能力のおかげかな。せっかく分かるんだから何とかしたい)
ゆっくり話を出来るときが来るだろう、そう未和が考えたところでいきなり頭の中にメロディが流れてきた。
「ん……このメロディどっかで聞いたことある……」
「?」
「あ、これド〇クエだ!私昔やってたんだよね!」
「ああー聞いたことあるなと思えば……そりゃコノハくんは知らないわな」
伊呂波が苦笑気味に笑ってコノハの肩に手をおいた。赤尾が三和の携帯のメモ機能を再び取り出して打ち出した。
『簡単にいえば俺たちの世界でめちゃくちゃ有名なゲームだよ。RPGっていうジャンルは知ってる?ていうかそもそもゲームあるの(・_・?)』
「ゲームはあるけどやったことない。この音楽のやつもあったとしても俺知らないだけかもしれないし」
『あったとしたら、ゲームやったことなくても知ってるはずだよ(;^_^Aコマーシャルソングいつの間にか口ずさんじゃったり……俺はしたことないけど』
「……テレビとか見ないから。でも、そんな有名なものあったらクワが言ってるだろうからないんだろうな」
コノハは一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに無表情に戻ったためその変化を見たのは赤尾だけだった。
「あ、メロディやっと終わった!フルだったみたいだね」
『( ・◇・)桑?(・◇・ )』
「どうしたの?赤尾君」
『いえ……(ё。ё)』
赤尾はキュキュッと一声鳴いて未和の肩に戻った。
――――――『神のみぞ知らぬ物語』へようこそ諸君。この”げーむ”はいわばRPGといわれるジャンルにあたる。パーティで旅をしながら魔物を倒すとレベルがアップし、最終ボスを倒したらクリアという単純なシナリオさ。ただし、君たちに与えられた命は一つずつ。死んだら永遠にこの世からログインだから気を付けるように。それぞれの役職に見合った最低限の能力は備えたけどレベル1だから頑張ってね。それぞれ衣装とかまあ最低限の物は用意したから、始まりの町『サラワクチャンバー』の宿のたんすを見てごらん。では、健闘を祈る。
先ほどまでの『神』の声とは違う耳障りではないけれど心地よくもない平淡な声。静かに流れてくるそれは、簡潔に説明を終えるともう何も聞こえなくなった。
「終わったの!?あれだけ長引かして重要そうに言ってたのにあっけなさ過ぎじゃない!?」
「何もかもがあべこべだったからもう違和感っつうか何とも言えないもやもやが残る方が『神』らしいだろ。逆にちゃんと説明される方が恐い」
「流石『ヒロイン』!フォローが上手いけれど無言で弁慶の泣き所を蹴らないで痛いすごく痛いです!」
「もう、二人ともちゃんと真っ直ぐ歩いてくださいよ。どれくらい先か分からないのにテンション上げすぎです!特に晶さん」
『・△・)ツ・o・)ノ・△・)ツ・o・)ノ彡☆』
先ほどあったばかりとは思えない程に和やかなムードで騒ぎ出す。
コノハは一人神妙そうな顔で俯くが誰も気付かない。
「……魔法は使える。大丈夫。俺は一人でも……」
不安を打ち消すように仰いだ空は、先ほどまでの青空が嘘のようにどんよりと曇っている。唇をぐっと噛みしめた。しかし、
「歩くの遅いよコノハくんー早く!」
「別に急かすほど離れてねえだろばか。あ、でも具合悪いとかならすぐ言えよ」
「町もう見えてきたよ。早く……一緒に行こう」
『“ヘ( ̄ー ̄ )』
コノハは噛みしめていた唇をそっと緩めて、そんなに離れてもいないのに突っ立って待っている四人に早足で近づいた。
曇り空からは一筋の光が差し込んでいた。
一日過ぎました……
次からようやくスタートという感じです^^;




