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『ヒロイン』のターン

 伊呂波優樹、26歳。大手とは言いきれなくともそこそこやり手の会社に勤めること早3年が経ち仕事にも慣れた。高校の時、趣味であるヒーローについて研究する同好会”HKD”を立ち上げて以来俺に懐いてくれる犬みたいな後輩と飲みに行こうとしたら、車に引かれそうな人を見た。結果的に俺と後輩は引かれてしまった。だが、俺は死んでいなかったらしい。目が覚めたそこは、天国でも地獄でもない。砂漠in異世界。そして、俺は『ヒロイン』になったらしい。


 俺は昔から誰かが危ない目にあいそうだとか困ったりだとかする光景をみると飛び出してしまう癖がある。自己犠牲とかそういうのじゃなくて勝手に気が付けばそこにいるのだ。もしかしたら、ピンチに颯爽と駆けつけ何でも解決してしまう『ヒーロー』に年甲斐もなく長い間研究しすぎた罰なのかもしれない。

だからって、だからって……


「何でお前が『ヒーロー』なんだよ……!」

「え、そこ!?」

 犬みたいな後輩改め『ヒーロー』になった晶が目が覚めてからの出来事を聞き、改めてさっきの自称『神』の話と繋げてみて俺はようやく小説のようなありえない世界について理解できた。だがしかし、俺が『ヒロイン』とか冗談じゃない。


「納得できない!(自称)神ふざけんな!俺も『ヒーロー』にしろ!ていうか、お前何にも解ってないな?最強の身体能力はいいとしてもラッキースケベ運とかラブコメの主人公の特権じゃねえか。一度寝たら誰かがちゅーしないと起きれないのも全然ヒロインじゃねえよ!いいか?まず、ヒーローっていうのは」

「はいはいストーップ!伊呂波先輩それじゃ話進みませんよ!私だってツッコみたい所は色々あるけどまずは、全部聞いてからにしましょ」

「お前に諭されるとか……ひくわ」

「何で!?そこは『ちょっとの間見ない間に大人になったな……』って惹く・・ところでしょ!ひくところじゃないでしょ!あと、先輩ちゅーとか可愛イダッ」

 俺は迷わずそれまで、スープを飲むのに使っていたスプーンを晶に投げつけた。綺麗に頭に当たったのでスッとしたが、最強の肉体はどうしたんだろうかと少しガッカリに思う。

「そこは取れよ……反射神経とかも強化されるんじゃないのか」

「知りませんよーあんまり体の変化ないっぽいんですよね……あ、でも寝てる先輩おんぶして長い間走るなんて普通出来ないか。あ、でも先輩小っちゃいし……」

「ちっさい言うな!160後半じゃボケ!」

「私より小さいじゃないですか~」

 もう一度スプーンを投げた。今度は投げると分かっていたからか、本気で投げたにもかかわらず箸で掴まれる。晶はわりと器用だし運動が得意な奴ではあったが、ここまでではないだろう。見た目は全く変化ないが、最強の身体能力とやらは備わっているのかもしれない。

「あ、もしかしたら……」

 晶ははっと何かを思いついた表情をすると、立ち上がり俺の真横に立った。何がしたいのか分からず下から見上げると、顔を真っ赤にして顔を逸らしながら、これが『ヒロイン』の実力か……と呟いた。しかし、にこりと笑うといきなり俺の脇の下に手を差し込み高々と持ち上げた。

「わわっ何を……!?」

「ラッキースケベ運上がってるんでしょ~私。接触したら何かならないかなと思って」

「ふざけんな馬鹿おろせ!」

 俺は怒鳴ったが晶はそんなものどこ吹く風で不純な動機に似合わない程目を輝かせている。この時、俺は通常運転すぎる後輩のせいでここが違う世界なんてことはすっかり頭から抜け落ちていた。


「お疲れ様です」

 数分後、晶の頭に手加減なしの拳骨を落とし席に戻ると、すでに食べ終えていたらしいこの異世界トラベラーの仲間たちがこちらを見ていた。

「蓑島さんだっけか?こんな時だってのに騒がしくして悪い。つか俺も今はどうでもいいところで時間割いたな……ほんと悪いな、そっちのやつも」

「呼び捨てでいいですよ。そんなに気にしないでください。あ、それで、色々コノハくんに話きいたんですけど……」

 『執事』蓑島の順応能力があがったというのも本当かもしれない。俺は一番起きるのが遅かったとはいえ、まだ混乱中で何か壮大なドッキリなのではないかとか、夢を見ているのではないのかと考えてしまう。五感含むあらゆる感覚がそんなはずがないと訴えているのに。隣の『魔法使い』コノハは最初から魔法の存在する世界から来ているらしいので、一度も驚いてもいないようだ。

「あれが俺の世界の創造主…………脳味噌いじくられなくて良かった……」

 わりとダメージを受けているかもしれない。すっかり疲れている。だが、蓑島がよしよしと頭を撫ぜているのはいいのだろうか。そういうの嫌がりそうな感じなのに。そう疑問に思ってるとそれを感じ取ったのか元は人間だったらしいリスが彼女の肩をおりてこちらにやって来た。

「ん?何か食べたいのか?パンとかちぎろうか?」

 リスは何故か自分と同じくらいの丈の携帯を引きずって持ってくる。俺に見えやすいように置くと文字を打ち始めた。

『はじめまして。赤尾正っていいます。見た目はあれですけど、中身男子高校生ですから癒しとか求めないでくださいね……』

「へー高校生か。じゃあ、俺がここの年長者だな。安心しろ。元人間な時点で癒しのために何かしてやろうとか思わないから。よろしくな赤尾」

『(///ω///)……よろしくお願いします。それで、(自称)神の話の続き聞きたいと思うんですけど、あの魔法使いの話を先に聞いてもらってからでいいです?(*- -)(*_ _)』

「別に構わないけど、どうして?」

『あいつの世界の常識的に異世界来ることって珍しくないらしいので、簡単な諸注意だけしてもらって歩き始めた方がいいということになったんです。特徴の一つに暗くなるのが速い場合も多いらしいので……わざわざ(自称)神の戯言のせいで街に行けなくなって野宿する必要もないかと 凸(゜皿゜メ) 』

「ああ、歩きながら(自称)神の話くのか。いいよ」

 リスこと赤尾と距離が少し縮まったかもしれない。リスにもかかわらず(?)妙に打つの速いが、絵文字が感情を表せない彼なりの表現方法なんだと思ったら少し和んだ。


―――――ーこの先どうなるのか分からないけどあのまま、死ぬよりましだろう。今の状況は、パーティ状況、そこそこ良好。気になる点、神が妙に静かなところ……あ、そういえば晶も静かだな。


 元の世界と同じ真っ青な空を見て、俺は少しだけ心が軽くなった。

更新遅れすぎですね……ごめんなさいm__m

そして、進まない!もっと内容盛りだくさんになる予定だったのに……!


次こそは一週間以内に更新を……更新を……頑張ります^^;

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