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闇夜の爪  作者: べこちゃん
闇を撫でる爪
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6

千歳の耳元で、電話のコール音がする。

クロウはそんな彼女を横目にトラックを宿舎に向け出発させていた。

コンクリートの車道を走りながら闇の中を駆ける。


『はい、もしもしー』すぐに電話から気だるそうな女性の声が発せられた。


「千歳です。運搬完了しました」


千歳は報告する。

暫くの間があり、電話ごしにキーボードを叩く音が聞こえてくる。

『うん、ご苦労様。じゃあ、早速クライアントに金の催促でもしようかしらね』

この女性の名はセシリー・パーユーロン。

風見の特務監査という役職についており、副業で運搬屋の社長をしている。

つまり二人の上司にあたる。

彼女は金に五月蝿いくせに面倒くさがりな性格をしているが、思慮深く優秀である。

これは余談であるが、彼女は自身をナイスバディーと自称している。

だがスリーサイズは秘密にしており、聞きだそうとすると怒りだす。

優秀ではあるが彼女は少しばかり、茶目っ気が強い。おまけに守銭奴である。


「もう疲れましたよ……最悪です」

千歳はちらりと、クロウを横目で見て「オマケにクロウさんは相手してくれない」と付け加える。

運転席のクロウはそれを聞くと眉を少しだけピクリと動かす。

電話からは、クロウにも聞こえる位の大きな笑い声がでている。

『まっ、クロウがいる時点で心配はしてないわ。それより、お土産忘れないでよ?』

「分かってますよ……ワインでしたっけ?」

『そうそう、高いやつよ」

「分かりました」

『なら、ちょっとクロウに代わってくれる?』

はい、と言いながら、クロウに携帯を手渡す。

クロウは左手でそれを受け取り、耳元にもっていった。

「……何だ?」


『どうせ面倒な奴にに出くわしたんでしょ』声色が急に変わるセシリー。

「ああ、お前の予想通りにアレを狙いにきた。始末はしておいた」クロウはそう言って自身の行為を報告する。

『そう……一応警戒しておいて。狙いがシェル・キャトルなら多分また狙いにくるわ』セシリーは念を押す。

この運搬は風見にとっては重要な意味を持っている。

風見本社は次期、主力兵器計画にシェル・キャトルの量産案を出していた。

今回、サーマシバルにシェル・キャトルを運んだのはプロトタイプ型の機体運用テストと戦闘データ入手が目的である。

この計画が正式に採用されれば世界の均衡は一気に崩れる。

それ程までに重要な任務なのだ。

『あ、でもねクロウ。内臓の修復はまだ途中なんだからくれぐれも無理はしないこと。でないとまたアニエスが私にちょっかいだして……』

言い終わる前にクロウは電話を切った。

聞こえてくる切断音は一定のリズムを刻んでいる。

その音を聞いて千歳は少し慌てる。

「いっ、いいんですか?」

「構わない。あいつがアニエスの話をしだすと止まらないからな」

そう言い切り、クロウは携帯を千歳に返す。

また二人の間に沈黙が走る。

トラックはもうすぐ、宿舎に着こうとしていた。

そんな時、クロウは口を開いた。

「なあ千歳……俺は愛想が悪いか?」クロウは前触れもなく、千歳に訪ねる。

「悪いです」彼女は正直に応えた。

「……そうか」


また彼は眉をピクリとさせ、静かになるのだった。


目の前には何とも質素な宿舎がたたずんでいた。

すぐに、宿舎から一人の軍人がトラックに向かって走り寄る。

クロウはそれを見るとトラックの窓を開けた。


「少佐から話は聞いております。あちらに駐車場がありますので、どうぞお使いください」


軍人は少し先に見える駐車場を指差す。

クロウは無表情で分かった、と言い窓を閉めて駐車場に向けトラックを走らせた。


「そんな表情で、喋るから愛想が悪いって言われるんですよ」



千歳は眠そうに欠伸をしながら、流し目でクロウを見つめる。

クロウは無視して前を向いている。

しかし、相変わらず、眉がピクリとしている事に千歳は気づいていた。


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