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闇夜の爪  作者: べこちゃん
闇を撫でる爪
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サーマシバルは、十年戦争の前から残る軍事国家で、東の『ウォータービレイ』西の『シールト』南の『フォレストライア』北の『ガイア』の四つの都市を中心に成り立っている。

クロウと千歳はその後、何事も無くウォータービレイに到着した。

そのままサーマシバル東方軍司令部に荷物の引き渡しをする最中であった。

彼らは今、軍基地内部にある工場にいる。

機械油の臭いが鼻につき、その臭いに慣れた人間でなければあまり長居したくはない所だ。

トラックで内部に入り、『荷物』を下ろす。

辺りには、軍人と整備士達が集まって来ており、皆の視線は自然とトラックに集中していた。

車内からクロウだけが出てくると、一人の軍人が彼に話しかける。

「サイモン・リベロだ。運搬ご苦労……コレが」リベロはトラックのコンテナを見つめながら言う。

「……ああ、依頼通りだ 」抑揚の無い口調でクロウは答える。

すぐにリベロは部下に命じ、トラックのコンテナを開かせた。

部下の兵と整備士たちはコンテナに群がり、端末に接続してロックを解除する。

白い蒸気を放ちながらコンテナはゆっくりと開く。

整備士は待ちわびたような顔つきでその光景を凝視していた。

彼らの視界には黒くどっしりとをした重圧感を持った『マシンナリーアーマー』の姿があった。

マシンナリーアーマーとは民間軍事企業であるカザミ重工が独自開発した完全武装型機動兵器である

マシンナリーアーマーには必ず、胸部分に丸型の乗降ハッチがあり、其処から乗り込む仕組みになっている。

重量は乗用車二台分程で大きさは基本的に三メートルから五メートル。

機体によってはAI機能を搭載しているため無人でも使用可能であり、あらゆる戦局で使用可能な万能兵器。

今、彼らの目の前にあるこの機体は正式名称 PG-201 シェル・キャトル。

黒のカラーリングを全身に施されている。

牛をモデルにした頭部をしており、肩には砲身の短い可動式砲が装着されている。

また120ミリ砲が2つ背中のバックパックに収納されているため火力に関しては十分すぎるものを持っている。

スピードはないが、圧倒的な火力と装甲、光学迷彩や索敵機能を持つカザミ重工が開発したマシンナリーアーマー最高傑作。

十年戦争末期に開発されたが、この機体を有人使用する事ができず、AIによる無人使用を余儀なくされていた。

だが、現在では有人でも使用可能となっている。

4メートル程の大きさで、両腕に装備された三砲身ガトリングが荒々しく存在感を放っている。

整備士も兵もその姿に感動を覚えた。

その姿は正に兵器そのもの。

目前の敵を全て薙ぎ払う存在。

誰しもがその姿に目を奪われてしまった。


「確かにシェル・キャトルで間違いありません」


一人の整備士が大きな声で報告する。

その声は確信に満ち、興奮を隠しきれていない。

リベロはそれを聞くと、視線をクロウに戻した。


「確認した……取りあえず今日は軍の宿舎に泊まっていけ」

「分かった」

彼は何の感情もないかのような声色で答える。

すると、リベロは微かに苦笑いを浮かべた。

「相変わらずのようだな……彼女に宜しく伝えておいてくれ」

「ああ」そう言うと、クロウはトラックに戻っていく。


トラックの中で千歳はまじまじとシェル・キャトルを見つめていた。

そうお目にかかれるものではない。

彼女にとってはあの兵器もまた良い記念に成り得た。


「やっぱり、あの機体は他のマシンナリーアーマーとは違いますね……ところであの人とは知り合いなんですか?」

車内に戻ってきたクロウに千歳は忙しそうに指示を出すリベロを指さしながら尋ねる。

どうやらクロウとの応対から気になったようだ。

好奇心の強い彼女は質問せずにはいられなかった。

「……それより、アイツに報告したか?」クロウはお茶を濁すように、質問を質問で返した。

「あっ、まだでした!」千歳は思い出したかのように、携帯を取り出し電話をかける。

それと呼応するようにクロウはトラックにエンジンをかけ工場から出ていく。



彼らが去った工場では、リベロがシェル・キャトルに向け静か囁く。

「……また会ったな。牛野郎」彼の表情は少しだけ、悲しげだった。


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