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桃色の桜並木を抜けていくと整地された土の上に、瓦屋根の荘厳な門が二人を待ち構えていた。
観音開きの門は木造で細かい装飾が施されており、金具には錆が浮き出ている。
それだけで、この門がどれだけの歴史を歩んできたかが覗える。
石垣の壁が左右に連なり、威圧感を放つ。
だが、二人はそんな事を気にする素振りも見せず、門を潜っていく。
門の先はさらに上り坂が続き、小高い山のようになっている。
それをゆっくりと登って行くと一軒の大きなお屋敷が姿を現した。
瓦屋根の平家造り、母屋らしき一際大きな屋根の奥には離れの屋根がいくつか見え、それだけでこの屋敷の大きさが覗える。
さらに広い庭には池があり鯉が悠然と泳いぎまわり、ししおどしか風税良くなっている。
また、庭の一番奧には薄いピンク色の花びらを携えた桜の木が鎮座しており、見応えある景色を創り出していた。
太い柱によって支えられた玄関。
よく見ればあちらこちらに傷が見受けられるが、みそぼらしくは感じられない。
寧ろ、古き威厳というものが感じられる。
その威厳ある玄関先に到着した千歳は息を深く吸い、ゆっくりと吐く。
そして、彼女の細腕を玄関にかけて横に動かし開いた。
屋敷の中は仄暗く杉のみで構成された床がひたすら奥に伸び続けている。
すでに長い年月を経てか床には隙間や反りができており、また表面に節や入り皮という何とも和を感じさせる味わい深い表情を見せていた。
そしてその床の上では一人の着物姿の老女が悠然とした態度で立ち尽くしていた。
「遅いじゃないか、どこで道草を食っていたんだい?」
白髪や深いシワ、細い顎や曲がった腰などは高齢を感じさせるが、目つきはしっかりとしていて力強い。
この老女こそ現、坂上の頭首であり千歳の義理の祖母である坂上 ヨネである。
突然の出迎えに千歳は面をくらうがすぐに口元をゆるませる。
「お婆様がせっかちすぎるんですよ」
そう言いながら千歳は屋敷内に足を踏み入れ、その後にクロウも続く。
「ちょっと、何か言うことがあるんじゃないかい?」
微笑みを浮かべながらヨネは千歳に向かって問いかける。
すると千歳は少し恥ずかしそうな表情を見せながら、少しうわずった声で「ただいま、お婆様」
と言う。
その微笑ましい光景の隣では相変わらずクロウの無表情が空気を読まずに置いてあるのであった。
やがて、ヨネの案内で屋敷の中に入る千歳とクロウ。
杉の道をゆっくりと進んでいくと庇のある縁側出てくる。
さらにそれを抜けていくと大きな和室が姿を見せた。
手前から奥まで三つの和室が連なり、ひたすら畳が奥まで続いているのが分かる。
奥の壁際には何体もの鎧を身に着けた機械人形が腰を据えており、違和感と言わざる得ない空間を創り出している。
だが、そんな光景を三人は気にすることなく日よけのスダレがかかった縁側を歩いていく。
庭の池には鯉が優雅に泳ぎながら息を吸い、しし威しが石を叩く清涼な音が響き渡っていく。
やがて、縁側を半周し、西側の屋敷に着く。
ヨネは音を立てずに障子を開ける。
すると、十畳ほどの書斎部屋が現れ、そこに二人を向かい入れた。
「適当に座布団を使ってくれて構わないよ」
ヨネはそう言いながら、壁際に積まれた座布団を手に取り、二人の足元に置いていく。
二人はそれに従い座布団の上に座りだす。
「さてと……先ずは遠い所ご苦労だったね」
そう労いの言葉をかけながらヨネは座布団の上に綺麗に正座をする。
それを見て千歳も慌てて正座に直す。
「いえ、このくらい。それよりお婆様……これを」
千歳は笑みを崩さずに先まで抱えていた刀を畳の上に丁寧に置く。




