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闇夜の爪  作者: べこちゃん
闇を撫でる爪
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4

車内に戻ってきたクロウからは硝煙と血の臭いがした。

その臭いを気にしない者など殆どいるはずがない。

千歳はその臭いに憤りと罪悪感を覚えた。

もし、自分がクロウに忠告していれば相手を再起不能にする程度で済んだかもしれない。

どんなに悪人だと分かっていても人の命は尊重しなければならない。

彼女は常にそう思っている。

そしてそれがこの世界ではどれだけ綺麗事であるかも彼女には理解できていた。

戦争が終結を迎えて五年が経過した現在においても、利己的な感情が他者の命を貪り続けている。

そうしなければ生きていけないほどに世界は衰えてしまっている。

それが現実だ。

それでもなお、彼女は命を重んじるべきであると感じている。

だが、自身の体は恐怖で縮こまることしか出来なかった。

その哀れな自分に憤りを感じていたのだ。

だが、当のクロウ自身は何事もなかったかのように、トラックのエンジンをかけ、アクセルを踏む。

すぐにトラックはまた揺れ始めた。

暫しの静寂が彼らの間に訪れる。

「大丈夫でしたか?」

答えなど分かりきっていた。

それでも、沈黙と罪悪感から逃れたく問う千歳。

「大した連中じゃなかった。少し、傷が痛んだがな」腹部をさすりながら、ハンドルを握るクロウ。

「まだ治ってなかったんですか……永久の樹に行った時からですよね?」

クロウは並みの人間とは体の構造がまるで違う。

怪我を負っても二、三日には回復する。

しかし、前回の仕事で受けた傷は既に一週間以上が経過したにもかかわらず治ってはいなかった。

つまり彼の受けた傷は並みの傷ではないという証拠でもあった。

「……少し急ぐぞ」

クロウはその傷について深くは語りたがらない。

話題を無理やり終わらせようとトラックのスピードを速める。

千歳は無言で頷きながら助手席の窓を開ける。

吹き抜ける風が、彼女の黒く美しい髪を揺らす。

車内の硝煙と血の臭いはすぐに風の優しい匂いに変わっていくのだった。



クロウらが去ってしばらくの後、辺りはすっかり日が沈み暗闇に染まりだしていた。

辺りに残る微かな血の臭い。

此処には、無惨にも四つのヤタガラス達の死体が転がっていた。

一体は頭部だけが綺麗に無く、二体は喉を裂かれ、最後の一体に関しては体中のあらゆる部位が散乱している。

そんな光景を静かにだが、怒りに満ちた目で見つめる男がいた。

銀色の短い髪をもち、左目は赤く、右目は青い。

隣にはボディが真っ黒に染まったバイクが置いてあり、エンジンはまだ温かく、先まで稼働していたのが分かる。

彼の名はシラサギ。

ヤタガラスのフクロウが指揮する隊の副長である。

ヤタガラスは、幾つかの部隊に分けられており、それぞれに一人の隊長と二人の副長がいる。

彼はその副長の一人だ。

今、此処に転がっている死体はフクロウ隊の隊員だった。

フクロウ隊は、ウォータービレイに運ばれる予定の兵器の奪取をリーダーであるグレイ・バルトから命じられていたのである。

フクロウ隊の隊長フクロウはシラサギに特殊兵器奪取を命じた。

シラサギ自身は自ら出るまでもないと思い、部下だけを奪取に向かわせた。

つまりはたらい回しと言う事だ。

その結果、彼は四人の部下を失った。

彼は後悔していたと憤怒に心を乱されていた。

よく考慮するればこうなることは予想出来たはずなのだ。

グレイ・バルトが直々に奪取しろと命じた兵器。

それこそ、とてつもない兵器に決まっている。

それを、ただの運搬屋に運ばせる筈がない。

必ず腕の立つ人間が複数、もしくは風見の執行部隊が同行しているに違いない。

完全に彼のミスだった。

しかも、それにより四人も部下を死なすなど大失態にも程がある。

彼には時間が無い。

即刻、部下を殺した者への報復と『特殊兵器』の奪取を成功させなければ、良くて降格、悪ければ自分が同胞達から殺される事になってしまう。

ヤタガラスの仲間意識は強い。

そして、それと同じくらいに失敗には厳しい。

「待っていろ」 そう言うと、シラサギは仮面を着け、乗ってきたバイクに跨り『ウォータービレイ』に向かうのだった

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