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その瞬間、クゥエルの体に変化が起こった。
背骨から黒い棘のような物体が生え始め、全体は外骨格のような装甲に覆われだしたのだ。
さらに頭部からは三本の紐状の触角が現れ、顎もとからは黒光りした鋭利な牙が飛び出す。
その姿は正に怪物であった。
鉄の雨はそんな異形の姿となったクゥエルを直撃し、辺りは砂塵が舞う。
テンゼンの機体内部のコックピットにはその光景が映し出される。
「……やったか?」
パイロットのヤタガラスはまじまじと画面を見つめ、操縦桿を握る。
手からは汗が滲み出て、異様な緊張感がヤタガラスの心を乱していた。
やがて、砂塵は風に吹かれだし、視界が回復する。そして画面に映るのはクゥエルの異形な姿だけであった。
地面には鉄矢が所狭しに散乱しているが、信じられない事に彼の装甲には傷一つついてはいない。
ヤタガラスはその光景に目を疑うが、すぐにテンゼンを動かそうと操縦桿を動かす。
だが、遅かった。
内部の画面いっぱいにクゥエルの体が映し出されと思うと、急に何も映さなくなり、そして、次に画面から飛び出してきたのは黒い装甲に包まれたクゥエルの腕であった。
その腕はヤタガラスが悲鳴を上げる事すら許さずに頭部をすぐさま鷲掴みにする。
仮面はその握力ですぐに砕け散り、コックピットは血に染まる。
クゥエルの右手からは肉片がこぼれ落ち、生々しい音をたてて散らばっていく。
テンゼンは完全に沈黙し、彼は右腕を引き抜いて斧を振り回しバラバラに解体を始める。
見る見るうちにテンゼンは姿を変え、最後には原型すらとどめていないスクラップ同然となってしまう。
その時、放たれたクゥエルの咆哮は空気を震わしていく。
せれはまるで歓喜の声のようであった。正に悪魔のような姿だ。
次々に迫り来るテンゼンをものともせずに蹴散らしていき、目にも留まらぬ早さで動きまわる。
常人の動体視力ではとても彼の動きを捉える事はできず、ただ黒い線が辺りを行き来しているようにしか見えていない。
黒い線が動き回るたびに鮮血が飛び散り、耳をつんざくような悲鳴が上がっていく。
そして、また一人クゥエルは狙いを定め襲いかかる。
鷹の仮面をつけた大男だ。
片手には大きな両刃の大剣を持っており、腕は幹のように太く筋肉質。
その腕にその大剣は正にお似合いであった。
鷹は迫り来るクゥエルの黒い外骨格のような刺々しい腕を片手で強く掴み、動きを止め大剣をクゥエル目掛けて振り下ろす。
大剣はその重量を武器にクゥエルの体を両断しようとする。
しかし、彼の斧がそれを許さず大剣を上手く受け止めた。
だが、上から襲いかかる衝撃の勢いにクゥエルの足は沈み、膝を曲げる。鷹はそれを見逃さず、クゥエルの固い腹部の装甲を蹴り飛ばした。
衝撃を受け、クゥエルの体は後退する。
即時に鷹は大剣を振り上げながら荒々しい猛進し、空気に亀裂を生じさせる程の大剣の苛烈な凶暴性を孕む刃がクゥエルの頭部に向け振り下ろされた。
彼は両手で斧を持ち、頭部を守るように斜めに構え大剣を受け流した。
狙いを逸らされた大剣は地面を打ち鳴らし深々と亀裂を生じさせる。
クゥエルの装甲に覆われた顔は心なしか恍惚として見える。
斧をすぐさま回し、鷹の右肩を切り落とす。
血しぶきは虚空に舞い上がり、辺りを赤く染め上げる。
続いて、黒い三本の触手が鷹の体をえぐるように風穴をあけだし、それを合図に雄叫びを上げる。
鷹は歯を食いしばり残っている左手で大剣を横なぎに振ろうとするが、そのスピードは遅く威力も弱い。
簡単にクゥエルの装甲に弾かれてしまう。
「ヨワイナ」
何とも形容しがたい機械のような濁声を吐きながら、クゥエルは仮面ごと鷹の顔面を掴み、大地に組み伏せさせる。
鷹は地面ごと頭部を砕かれ、死を迎える。
それは本当にあっという間の出来事であった。




