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やがて、陽は完全に沈み、闇が世界を覆う。
ジンの体は何とか動かせるくらいには回復したものの万全には程遠いコンディションであった。
「では、私は行きます」
闇の中で一点のみ赤く発光している。
それは間違いなくアイの瞳である。
「コイツを忘れてんぞ」
ジンは赤い発光に向けて、ロッド状に収納された二本の神無を投げる。
しばらく、沈黙が訪れ、闇から一本だけジンの手元に帰ってくる。
「片方はあなたが持っていて下さい」
「おいおい、それじゃあ『連槍』じゃなくなるじゃねえか」
神無を見つめながらジンは発光に向けて言う。
「良いんですよ。それは私達の友情の証しです」
「友情……青臭いこと言うな」
そう言ってジンは笑みをつくる。
彼の目には見えてはいないが、アイもまた笑みを浮かべていた。
虫の鳴く声が心地良く響き、夜風は二人の肌を優しく撫でる。
雲は風に流され綺麗な三日月が顔を見せる。
月光は暗闇を淡く照らし、ジンの目にもアイの姿が写り込む。
「綺麗な目だな」
彼女の瞳は宝石のような美しさとはまた違う煌びやかさを持っており、気がついたらジンはそう呟いていた。
夜の闇は徐々にその美しい光を飲み込んでいく。
「また会いましょう。ジン」
「ああ、またなアイ」
風はまた吹き出し、雲は風にのって動き出す。
月はまたその姿を隠し、ジンの視界は黒く染まるのであった。
「やっと見つけましたわ……ジン」
闇の中、麻耶の溢れんばかりの歓喜に満ちた声が何処からか聞こえてくる。
彼の背に冷や汗が過ぎる。
どうやら、彼の夜はもう少し波乱が続きそうである。
日の出が新緑の大地を照らし、丘は何層にも連なっている。
空は雲一つ浮かんでいない快晴であり、今日もまた暑くなりそうであった。
宿の外でモミは大きな欠伸をしながらその光景を眺めていた。
彼女はジンが帰ってくるのを昨日からずっと待っていた。
そんなすぐには帰ってこれない事くらい彼女は分かっている。
だがそれでも、ただ待ってはいられないでいたのだ。
モミは永久の樹をひたすら眺めている。
そんな時、彼女の瞳に一つの人影がこちらに迫ってきている事に気がつく。
しかし、迫ってくる人物はジンではない事にモミはすぐに分かった。
背格好が明らかにジンより小さいのだ。
やがて、視認できる位置まで人影は近づいてくる。
「あなたの名前はモミですか?」
アイの声がモミの鼓膜を揺らしたのはその後、すぐであった。




