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闇夜の爪  作者: べこちゃん
永久の樹と白き鬼
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ジンはがっかりだと言わんばかりに流し目でアイを見つめる。

そんな彼に対してアイは不適な笑みを浮かべ口を開く。

「その槍はあの神楽十刀に勝るとも劣らない、かの有名な鶴賀 陽水の造った七名槍の一本 『連槍 神無』なのですよ」

腰に手を当て、自慢げな態度をとるアイ。

それにより彼女が大きく見えてくる。

「へー」 しかしながらジンにはアイの話した事の七割も理解出来ず、生返事をする。

失望と言わんばかりにアイは冷たい視線を送る。

「……あなたには一般的な教養が必要なようですね」

そうため息をつき、とりあえず、それでサッサと片付けてきて下さいと続け、ジンの背中を押す。

鳥はそんな彼らに構うことなく捕食を続けている。

緑の空間はすっかり鮮血の海に変貌していた。

「分かったから押すなよ」

頭を掻きながら大鳥を見据える。

口元をニヤリと歪ませるジン。

「今日の晩飯は焼き鳥だな」

ジンは思いっきり地面を蹴り上げ、空中に舞う。

そのまま、大鳥の嘴に足を引っかけてさらに背中の方向に飛び上がった。

鳥は眼中にもなかった存在からのアプローチに拒絶をしめした。

体を大きく動かし、ジンを振り払おうとする。

彼は二本の槍を大鳥に突き刺し、振り落とされないように踏ん張りだす。。

槍はいとも簡単に鳥の羽毛に覆われた体を突き抜け、森に叫び声がつんざく。

大鳥は翼をはばたかせ、飛ぼうとする。

疾風が木々を激しく揺らし、緑色の葉と茶色の羽が空間に漂う。

「逃がすかよ!」

鳥の背中で踏ん張り、槍を引き抜こうとするジン。

しかし、槍は差した時は簡単に体を突き抜けたが、抜く時は何かが引っかかって簡単にはいかなかった。

彼は違和感を感じた。

槍を引き抜こうとすればするほど、鳥はもがき苦しんでいるように見えた。

それでも、ジンは無理やり抜こうとさらに力を入れる。

それに呼応するかのように絶叫は大きくなっていく。

「うるせえんだよ!」ジンがそう叫んだ瞬間、槍は抜けた。

槍の先には細長い臓物を引き連れていた。

腸から順に内臓器官が芋づる式で取り出されていく。

神無を握るジンの手には大量の血が伝っていき、彼の髪や服、顔にも飛び散っていく。

その時、ジンの顔は大きく歪む。

緑の森に赤い雨が降る。

それと共に響く音。

地響きが広がり大きな巨体は人形のごとく生気を感じない物へと変わる。

「……おいおい。冗談じゃねえよ」

ジンは血だらけの死骸を見つめる。

背中には大きな穴が開いている。

内臓を引きずり出した時に広がったものだ。

其処からは血がまるで涙のように零れだし、血溜まりができている。

このままでは二時間もしないうちに死骸は腐敗し始めるだろう。

臓物の山は酷い悪臭を振りまいていた。

そんな時、ジンの鼻にポツリと水が当たる。

雨が降り出したのだ。

赤い血が雨によって流されていき、段々と森は元の緑に戻っていく。

「……ちょうど良いな」彼の頬に水が伝う。

赤く染まった髪は元の白を取り戻していく。

アイはどこから持ち出したのか傘をさしている。

「いつまでもそうしていると風邪をひきますよ?」

「……良いんだ。馬鹿は風邪をひかねえから」

ジンはアイの忠告を無視し、クレイウルフを見る。

死骸にかぶりつき、牙を使い肉を削いで洞の方向に持っていく姿が目に入る。

「アイツは何処に行くんだ?」

「私が説明するより見た方が早いですよ」

「……それもそうだな」

彼はそう呟くとクレイウルフの後を追って洞の中に入っていく。

それを確認した後、アイは死骸と臓物の山を見つめる。

「さて、コレはどうやって処理しますかね?」



洞の中は先ほどまで雨が降っていたせいか湿気があり、ジメジメとした空気が充満していた。

時折、天井から落ちる水滴の音が洞内を反響し、心地良い音色を奏でている。

それはジンの耳にも届く。

彼はゆっくりと暗い内部を見渡す。

微かにだが、獣臭く彼の鼻を刺激する。

クレイウルフはくわえていた肉を地面に落とす。

生々しい音が洞内に木霊し、すぐに奥から二匹の幼体のクレイウルフがその肉に群がり始める。

「ああ、なるほどな」

ジンはこの光景を見て、今までの事に合点がいったのか納得と言わんばかりに首を小さく縦に振る。

彼はそれが分かると、出口に向かって歩きだす。

外と中との明るさの違いから目を眩しそうに細める。

外に転がっていた死骸は見る影も無く、綺麗さっぱり消えてしまっており、アイの表情にはどこか疲れが見えた。

「おい、あの死骸は何処いったんだ?」

「片付けました」

アイの言葉に耳を疑う。

物理的に考えてジンが洞に入ってから出るまでの短時間では到底、不可能な話だ。

だが、実際にあの巨大な死骸は消えている

「一体、どうやったんだ?」

「……乙女には秘密があった方が魅力的ではありませんか?故に、それは秘密です」

人差し指を立て唇まで持っていくアイ。

どうやら、教えてはくれないようだ。

ジンはすぐに興味を失くし、大きな口を開いた洞を見つめる。

洞からは大きなうねり声のような反響音が聞こえ、冷たく湿った空気を吐き出している。

とても、過ごし易い環境とは思えない。

しかも、まだ幼体であるあの二匹には酷すぎる。

本当なら、この暖かい緑の世界を走り回るべきなのだ。

それでも、このような場所に隠れていなければ生きていけない。

ジンは何ともやるせない気持ちになるのだった。

「さてと、案外早く用が済んじまったな」ジンは気を変えようとそう呟く。

「その件なのですが……」

アイは何とも言い難い表情を浮かべながら言う。

「何だよ?」

「できれば、見つからなかった、と報告して欲しいのです」

「アイツらの存在が露呈する恐れがあるからか?」

ジンがそう言うと、アイは静かに頷く。

「あなたの話を聞いている限り、その人達が悪い方でない事は分かります。ですが、ほんの些細な事でこの事実が悪人に漏れてしまえば……」

アイの脳裏にはエルヴィスの顔が過ぎる。

洞を静かに見つめ、ため息をついた。

彼女はその後は口にしなかった。

だが、ジンには彼女の言いたい事がしっかりと伝わっていた。

やはり、アイの言うとおりにするのが一番良いのは理解出来る。

だが、モミのあの表情を思い出すと伝えるべきなのではと考えてしまう。

どちらの選択が一番正しい答えなのかそれは誰にも分からない。

ジンは頭を抱えて悩みだすのだった。

そんな時、アイの右目が反応を示す。

それと同時に誰かが先ほどジンが抜けてきた藪から現れる。

黒い髪の長身で仏頂面の男。

その姿は紛れもなく、クロウであった。


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