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闇夜の爪  作者: べこちゃん
永久の樹と白き鬼
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大蛇の口がアイの体目掛けて飛んでくる。

アイがそれに気づいた時には、もう避けようがなかった。

だがその瞬間、、ジンが空中から大蛇の頭の上に舞い降りてくる。

地面に大きな衝撃が走る。

大蛇の頭が地面に沈む。

「よう、元気そうだな。お嬢ちゃん?」

アイはいきなりの、しかも有り得ないジンの登場の仕方に唖然としていた。

そんな彼女に対して、笑みを浮かべおどけてみせるジン。

彼の足に踏まれた大蛇の頭は地面にすっかりめり込んでしまっている。

「どうして此処にあなたがいるのですか!?」

少し、慌てた口調で訊ねるアイ。

「そんなのお前を追ってきたからにきまってんだろ、っと!」

ジンは話しながら右足を垂直に上げて勢い良く下ろす。

鈍い音が森に鳴り響いていく。

そしてまたもや、地面に衝撃が走る。

頭がさらに埋まりだす。

アイはただただ、呆然と彼を見つめた。

「大体、話の途中で理由も言わずに去るのはどうかと思うぞ、っと!」

先と同じ動作で大蛇の頭を叩きつける。

骨の砕ける音が鈍く反響する。

「オマケにお前は何か変なものを落とすしよ!」

さらに繰り返す。

頭には彼の足跡がくっきりと刻みこまれている。

「だから、親切に追いかけて来てやったら、変な所ばかり通りやがって!」

またもや、繰り返す。

もはや砕ける音は聞こえてはこない。

ただ、地面に頭が埋まっていくだけである。

「おかげで、余計な怪我をしちまったじゃねぇか!」

言わずもがな、繰り返す。

頭は完全に埋まり、大蛇の体は沈黙する。

その力はあまりに常人離れしていた。

「あの……謝りますから、そのくらいにしてあげて下さい」

見るに耐えなくなり、引きつった顔でアイは止めに入る。

大蛇の頭はもう、地面に飲み込まれ消えていた。

しばしの沈黙。

そして肩をすくめる。

「……しゃあねぇな!」

トドメの震脚を放ちジンはしぶしぶギーブルの頭から離れる。

大蛇の大木のような体は人形のように動く気配が無い。

「さて……」

ジンは槍を地面に突き刺し、灰色の毛を逆立て威嚇しているクレイウルフを見る。

明らかにジンを警戒している。

だが、彼はそんな事を気にする様子もなく近づいていく。

「彼は今、極度の興奮状態ですから危ないですよ」

アイはそんなジンに抑揚の無い声で注意を呼びかける。

しかし、そんな注意を彼は無視し、クレイウルフの目の前に中腰になり、手を差し出す。

「お前に合わせたい奴らがいるんだ。ちょっとばかし、付き合ってくれよ」

そう囁きながら、顎下に手を伸ばすとクレイウルフの顎が大きく開かれ、鋭い犬歯が姿を見せる。

次の瞬間、彼の絶叫が森に木霊する事になったのは言うまでもない。


ジンは自分の手を抑えながら悶絶する。

彼の手から赤い鮮血が地面に滴り落ち染み込んでいく。

「痛ってー!」

「だから危ないと言ったでしょう」

アイは呆れた混じりに息を吐き出し、彼に近づいていく。

「凶暴過ぎるだろ! コイツ本気で噛みついてきたぞ!」

歯型がくっきり残っている手をアイに見せつけるジン。

何とも生々しい傷跡で微かに腫れ始めている。

その姿に肩をすくめながら笑みを浮かべるアイ。

「彼が本気で噛みついたら普通、手なんて簡単に切り離されてしまうんですがね。あなたはかなり頑丈にできてるみたいですね」

そう言いながら、彼女は袖口から治療器具を取り出す。

「……何で、そんな所から出てくんだ?」

「乙女の秘密です」

彼女がそう言うと風は強く吹き始めた。

森はまだざわめいていた。

上空に鳥が飛んでいた。

それはあまりに大きな鳥であった。

翼長40mはあろうその鳥は大空を覆う。

嘴は鋭く尖り、その眼光は恐ろしく輝いている。

その姿は正に大空の王と呼ぶに相応しい貫禄があった。

突如として現れたその鳥に、ジンの顎は地面につくのではないかと心配してしまう程開かれている。

その鳥はそのまま地面に横たわる大蛇に向かって急降下し、大木の幹のように太い体を荒々しく鷲掴みにする。

けたたましい声を上げ、大蛇の体に嘴を突き刺す。

その瞬間、先まで全く動く気配が無かった大蛇は狂ったように体を痙攣させる。

だが、鳥は激しく暴れる大蛇の堅い頭を足で掴み、簡単に握り潰した。

飛び散る肉片が森を赤く染める。

そんな恐ろしい光景を二人は静かに傍観していた。

「……何だよアレ?」 ジンはアイを見ながらその光景を指差す。

「……鳥の捕食光景ですね」 見たままを無表情に伝えるアイ。

クレイウルフはその光景を見ても怖じ気ず牙を向けている。

「で、どうすんだよ?」

ジンは鳥を見据えながら静かに問う。

冷静に見えるがその内心はとても落ち着いてはいられなかった。

すると、アイは「追っ払います」と答える。

口で言うのは簡単だが、実際とんでもない事だ。

この異常な森でもアレ以上の怪物はそういないだろう。

「出来んのか?」

白い髪の毛をガシガシと掻きながらジンは眉間にしわを寄せている。

「大丈夫。あなたが拾ってくれたソレがあれば楽勝ですよ」

そう言いながらアイはジンの手に握られている二本のロッドを指差した。

よほどの兵器なのだろうかアイの自信は相当のものであった。

だが、ジンにはそれがガラクタにしか見えないでいた。

「コレがか?」

両端の小さな刃はなんとも頼りない。

コレでは目の前の鳥はおろか人を殺すのも苦労しそうな程だ。

「グリップのスイッチを押して下さい」

ジンはアイの指示に従いスイッチを押す。

するとグリップは伸び、両端の刃が飛び出し、ロッドは長さ250cm程の槍へと変貌した。

「うお!」 急にその姿が頼もしげに見えてきたジン。

心なしか子供のような笑みを浮かべている。

「凄いなコレ!で、コイツはどう使うんだよ?」

「普通にお使い下さい」 淡白に答えるアイ。

彼は頭が悪い。

故に普通にと言われると、相手に突き刺すという選択肢しか思いつかなかった。

だが、そんな単純な話でもないだろう、そう彼は五秒ほど悩み、根を挙げた

「……普通にってどうやんだよ?」

「普通にブスリとですよ。それくらい分からないでどうするんですか」

「……本当にそれだけか?」

「イエス」

その瞬間、ジンは期待を裏切られた気分を味あう。

心なしか二本の槍の光沢がくすんで見えだす。



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