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ジンはアイに自分が何しにこの場所に来たのかを説明し終えた。
彼女は合点がいったのか無言で頷く。
そのまま、おもむろに口を開く
「大体の事情は分かりました。確かに、この森にはクレイウルフはいます」
彼女はハッキリとそう断言した。
だが、ジンにはそれが納得出来ないでいた。。
「何でそんな事が分かるんだよ。直接、見たのか?」
彼はアイについて何も知らない。
彼女の力もその一つ。
知らぬものを想像で埋められるほど彼は賢くはない。
故に疑問が浮かぶのも無理はなかった。
「それには先ず、私の目的から語らないといけませんね。少し、長くなりますよ?」
アイがそう訊ねるとジンは「構わない」と一言で答える。
すると、少しだけアイは億劫そうにしながら口を開く。
「実は私、正義の味方をやっているんです」
「嘘つけ」
「ええ、嘘です」
ジンはわざとらしくため息をつく。
「物事を語る時は少しジョークを混ぜるものですよ。では、本題に入ります。私はクレイウルフを捕獲しようと企む悪の者共を成敗して欲しい手とある人物に依頼されまして、しぶしぶこの様な辺鄙な地に訪れた訳です」
間髪を入れず淡々と話続けるアイ。
それに対してジンは無言で耳を傾けている。
徐々に空は曇り始めていた。
「私の右目は自身を中心に半径500m以内の全ての物体を即座に把握する事ができます。故に私は即座にクレイウルフを見つける事が出来た訳です。因みに、あなたもこの目で見つけました」
アイはそう言いながら、自分の右目を指差す。
心なしか自慢げに見える。
彼は彼女の言葉を素直に受け取り、関心をしめした。
「なるほど……とんだ化け物能力だな。ところで、目的の犬は見つけたんなら、その悪の者共が消えるまで捕獲しておけばより確実じゃないのか?」
その瞳をジッと見つめるジン。
彼の言う通り、彼女の目の届く場所にクレイウルフがいるとしても手が届かないのでは、もしも、の事態には対処出来ない。
それならば手元に置いておく方が無難である。
「それはですね……!」
途中で言葉を止め、目を見開き始める。
慌てた表情が浮かび上がっていく。
ジンはその変化に驚き、問いかけようとしたが、アイはそれよりも早くその場から走り出した。
その刹那、彼女の服の袖から何かが落ちた。
それにも関わらず、彼女はお構いなしであった。
「おい!」
ジンは訳が分からず、アイに声をかけるが彼女はそんな呼びかけに聞く耳持たず、走るスピードを上げ始める。
舌打ちをしながらアイが落とした物を拾い上げる。
銀色で30cm程の大きさのロッドでグリップにはスイッチのような物がついており、両端には小さな刃がついている。
「なんだこりゃ?」
ジンはそう呟きながら、その二本のロッドを器用に片手で持ち、もう片方の手で自分の槍を担ぎ上げ、小さくなっているアイを急いで追いかけ始めた。
全力で追いかけていたが、アイとの距離は一向に縮まってこない。
「くそ、 速すぎだろ!」
ジンは悪態をつきながら、獣道を走る。
所々伸びる枝が彼の行く手を遮っており、彼はそれをかき分けていく。
ついに、ジンはアイの姿を見失ってしまい、仕方なく彼女の足跡を頼りに追う。
足跡は道なき道を真っ直ぐ進んでおり、低木が密集している藪の中に消えている。
彼はその藪の中に飛び込む。
尖った葉や枝が彼を包み込み、痛みが体を駆け抜けていく。
「……痛ってえな」
頬を少し切り、赤い血が低木に流れ落ちていく。
ジンが藪を抜け出し時には服や髪に葉や枝が乗っており、中々みそぼらしい格好になっていた。
自分の瞳に写り込む光景に呆気にとられてしまうジン。
其処には大きな空間が広がっており、美しいくらい真っ白な大蛇が地面を這っていた。
その大きさは全長で20mをゆうに超えており、体は大木の幹のように太い。
口の先端部分は異様に尖っており、まるで槍のようだ。
また、表面の皮膚は見るからに堅そうである。
そして、あろう事かそのとんでもない白色の大蛇とアイが私闘を繰り広げていたのだ。
彼女が闘っているその先には小さな洞穴があり、灰色の毛並みを持ったクレイウルフが歯を剥き出しにして大蛇に威嚇している。
その姿はまるで洞穴の中に何か守るべきものが彼らにはあるかのようだ。
ジンは咄嗟にそう考え、急いで彼らの加勢に入ろうと走り出した。
アイは二本のショートアックスで白大蛇を攻撃する。
だが、体の何処を攻撃してもギーブルの皮膚には傷一つすらつけられず、むしろ、ショートアックスの方が刃こぼれし始めていた。
大蛇は尖った口をアイに向け勢い良く突いてくる。
まるで、槍が空を切るかのようなスピードだ。
だが、アイは寸前でそれを避け、首もとを切りつける。
しかし、堅い皮膚に邪魔され弾かれてしまう。
「コレでは無理ですね」
アイはそう呟き、距離を置きながら両手に握っていたショートアックスを地面に投げ捨てる。
「切り札は最後にとっておくものですよ」
誰に言う訳でもなく、そう口にしながら服の袖にそれぞれの手を入れる。
「コレさえあればあなた……など?」
そう、彼女が取り出そうとしていたのは先程、落としたロッドであった。
勿論、そのロッドは今はジンの手にあり彼女の手元にある筈がない。
「もしかして……落とした?」




