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だが、そんなイタチごっこも唐突に終わりを告げた。
突如としてクロウはブレーキを踏み、車体を止める。
急にブレーキをかけたせいか千歳の体が一瞬、前のめりに崩れる。
「どうしたんですか!?」
千歳は何が起こったのか理解出来ていなかった。
慌ててクロウの顔を見ながら尋ねる
だがクロウはその問いに何も答えず、無言のままシートベルトを外し、「中で待っていろ……」と言うと車外に出ていってしまう。
照りつける真夏日が容赦なく彼を襲う。
後方からは四台のバイクが、かなりのスピード迫ってきていた。
遠目からでもバイクの運転手達は皆、鳥の仮面を着けているのが分かる。
クロウにはこの集団が一体、何なのか理解していた。
犯罪組織ヤタガラス。
『 灰色の鴉』ことグレイ・バルトが三年ほど前に創設した組織。
彼らの特徴は、組織メンバー全員が鳥の仮面を着用していることだ。
彼らに定まった思想などは存在しない。
形だけは組織を成しているが、特に制約があるわけでもなく、自身がヤタガラスを名乗り、鳥の仮面を着ければそれだけでヤタガラスのメンバーとなれてしまうあまりにも自由な組織。
ただし、既存する仮面は限られているため組織に入りたければ、既存のメンバーから仮面を奪い取るしかない。
ヤタガラスの名を聞けば誰しもが恐れを抱き、蹂躙を受け入れてしまう。
だからこそ腕の立つ悪漢はヤタガラスの名を欲し、仮面を奪い合う。
そうなれば自然と強者のみが残る。
実に理にかなったシステムである。
彼らの目的はただ一つ。
鴉のように盗み、街を食い荒らす。
ただそれだけだ。
十年戦争で疲弊し切った世界において彼らは徐々にその勢力を伸ばし、今や世界二大勢力であるサーマシバルとアルテマ教団にに匹敵する力を有している。
クロウは迫り来るヤタガラスを漆黒の瞳で捉えながら、腰のホルスターから二丁の銃を取り出した。
左手に握られた銃は五十口径の黒光りしたシンプルな形をしており、明らかに対人用としては大きすぎる銃だった。
一方、右手の銃は対照的で全体が白く銃の砲身は刃になっており恐ろしい輝きを放っている。
バイクが50メートル付近まで近づいてきている。
クロウは躊躇なく左の黒い銃をヤタガラスの一人に目掛けて放った。
グリップを握っていた手が反動で微動する。
放たれた銃弾は火花を散らし轟音を響かせていく。
高速で接近していたヤタガラスの一人はその銃弾を避けることが出来ずに頭を吹き飛ばされる。
刹那、火薬の甘い匂いがクロウを包み込んだ。
正に、問答無用とはこの事を言うのだろう。
他のヤタガラスは仲間が突然無惨な死体になったのと、クロウのいきなりの先制攻撃に明らかな動揺が走っている。
それは当然のことである。
彼らは確かにクロウが運んでいる品を狙っていた。
だが、まだ何も危害をくわえてはいない。
この時点で彼らが襲われる理由などないのだ。
クロウはただ「ヤタガラスであるから」という理由だけで人を殺したのである。
それはあまりに命を軽く扱いすぎている。
だが、彼はそれに何の疑問も抱くことはなかった。
彼はヤタガラスたちのの隙を逃さず、続けて『黒』を放つ。
銃弾はまた一人のヤタガラスを捉え、今度はバイクごと吹き飛んでいく。
吹き飛ぶと言うより肉片になるの方が正しいかもしれない。
爆風に巻き込まれ、残りの二人は怪我を負う。
二人とも、足の骨が折れ悲痛な叫びを上げていた。
クロウは黒をホルスターにしまい、ゆっくりと彼らに近づく。
左の『白』の刃が太陽の光に反射している。
それから数分もしないうちに、彼らの悲痛な叫びはピタリと止む。
クロウの握っている『白』の刃は鮮血に染まり、地面に滴り落ちていく。
彼の黒い髪と頬には血がこびりついている。
彼はそれを何でもないかのように拭う。
その間、彼の顔は全くの無表情であった。




