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フォレストライア付近の草原はすっかり緋色に染まり、風が優しく波たたせている。
そこには少女がいた。
柔らかそうな淡い青色の髪が肩まで伸ばしており、背丈や顔つきからして十代前半といったところである。
「何か用ですか?」
少女の回りには鳥の仮面を付けた男が三人おり、夕暮れを背に少女は男達に吐息のような囁きをこぼす。
少女の名前はアイ。
そして、アイを囲んでいる男達はヤタガラスである。
アイの問いに彼らは答えない。
三人ともただ、無言でナイフや拳銃といった凶器を取り出すだけである。
コレが問に対する彼らの答え。
アイは思案を巡らせひとつの結論にいたる。
「なるほど、これが世にいうナンパというやつですね」
彼女は本気でそう言ったのだが、彼らは挑発されていると受け取ったに違いない。
一人のヤタガラスが腰を低くしながらナイフをちらつかせて近づいてくる。
そして、素早くアイの胸を狙い下から突き上げる。
ナイフは風を切り正に疾風になる。
「遅すぎですよ」
彼女は余裕でナイフが握られている手の首を掴み、そして片腕で軽々と持ち上げ地面に叩きつける。
鈍い音が微かに響いていき、ヤタガラスは地面にすっかりめり込んでいた。 それは信じられない光景であった。
叩きつけられた本人はあまりの衝撃に気絶している。
アイとヤタガラスの男との身長差はかなりのものであったが、そんな事をまるで感じさせない力強さを彼女は持っていた。
地面にめり込んでいるのがいい証拠だ。
彼女を囲んでいた二人は咄嗟に距離をおく。
「……何だよこのガキは?」
「俺に聞くな!」
「お前がヤリたいって言ったんだろうが! 何だよ、コレ。あり得ねえだろ!」
「てめえだって、人の事言えないだろうが!」
彼らはこんな事態なるなど微塵も予想しなかっただろう。
見た目ただの少女であるアイ。
だが、その強さは予想を斜めいくものだった。
二人の口論は激しさを増すばかりである。
「……あの」 アイの無機質な声と共に二人は固まる。
「めんどうなので、お暇してもよろしいですか?」
彼女は正直な気持ちをストレートに表現する。
二人は無言で見つめ合い「覚えてろよ!」と一言吐き捨て、脱兎の如く逃げ出すのだった。
彼女はやれやれと呟き、目的地に向けて走り出そうとした時、目の前に埋まったヤタガラスが目に入り込む。
「忘れ物ですよ」
彼女は地面にめり込んでいるヤタガラスの男を掴み上げ逃げ出す二人に向け、思いっきり投げつける。
男は綺麗に弧を描き、二人に直撃し、三人は上手い事山積みになるのだった。
それを見て彼女は満足そうに笑みを浮かべる。
「さて、行きますか」
何ごともなかったような口振りをしながら、遠くにそびえている永久の樹に向け走り出す。
草原を踏み散らしていく彼女の姿はさながら、小さなバッファローである。
その速さは尋常ではない。
あっという間に彼女の姿は見えなくなるのだった。




