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闇夜の爪  作者: べこちゃん
永久の樹と白き鬼
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それから十年が経過した現在。

エルヴィスは後悔していた。

彼は自分が一番正しいと思う節がある。

故に、彼が自身の行動に後悔するなど稀な話である。


「頼むよ。アイ」エルヴィスの懇願する声が室内に残響していく。


『嫌です』


アイと呼ばれる電話の主は抑揚がない声で拒否する。

エルヴィスの懇願など容易く一蹴されてしまう。

それでも、しつこく頼み続けるエルヴィスにアイはため息をつく。


『私があなたの為に動く必要も理由もましてや、義理もありません』


淡白な言い方だ。

それでもエルヴィスは引き下がる気配はない。


「廃棄されかけた君を助けてあげたろ?」何とかアイと自分の接点をあげる。


『ああ、あなたはそう解釈していたのですね。まったくもって恩着せがましい。そもそもの原因があなたの力量不足なのですから、あなたの行動は当然の贖罪であり、私は一切の恩を感じる必要性は皆無です』


「……君はいつから、そんなに賢くなったんだい?」


『私からしてみれば、いつからあなたはそれ程までに馬鹿に成り果てたのですか、と言いたくなります。あの脳内が銭勘定で構成されているような輩に私的依頼を出すなど、そう言わざるを得ません』


確かに、アイの言うとおりである。

少し頭を使えば容易に想像がつくことだ。

それに気がつかなかった理由は彼の悪い癖にあった。


『あなたは夢中になると肝心なところがおざなりになります。これで少しは自覚してください』


「分かったから彼女よりも先にクレイウルフを見つけて、依頼を失敗させてくれよ。君なら容易いだろ。そうすれば、僕の貯金は氷河期を迎えずにすむ」


『ですから、そんな自業自得に付き合う筋合いはないと言っているではないですか』その声色から、アイが今どんなに呆れた表情をしているかが、容易く予想が出来る。


「知的探究心に僕は素直になっただけさ……。助けてくれよ。それにほら、久しぶりにクロウにも会えるだろうしさ」


そう言うと電話越しのアイは沈黙した。

の静けさが暫く続き、『……兄さんもいるんですか?』と多少なりに食いついてくる。

エルヴィスはその瞬間、勝利を確信した。


「そりゃあ、勿論」


さらに促すように言葉を足す。

あとはアイの回答を待つ。

だが、結果は明らかであった。


『そうですか……分かりました。お受けしますよ』


予想通りの回答にエルヴィスは安堵する。

そして、自身の機転を自賛した。



そんなエルヴィスとアイのやり取りなど知る由もなく、クロウとセシリーを乗せた小型トラックはサーマシバルの南の都市フォレストライアに到着しようとしていた。

先程までの荒れた大地はすっかり姿を消し、青々しい緑が一面に散らばっている。

澄んだ空気が心を落ち着かせ、風はドライヤーの熱風から涼しいそよ風に変わっている。

実に長閑な光景だ。

都市という割にビル群が並んでいるわけではなく、自然と町が見事に融合を果たしている。


「やっぱり、此処は良いところよねー。来て正解だったでしょ?」


外の心安らぐ風景を楽しみながら、セシリーはクロウに同意を求める。

彼女は自分の判断が正しいことを認めて欲しいようだ。

それに対してクロウは無表情に同意した。

彼がセシリーの気持ちに答える為にそう言ったのか、それとも本心でそう言ったのかは分からない。

だが彼女はその言葉を聞き、とても満足そうな表情を浮かべるのだった。


「これで、犬探しさえなければいいのに」 短く、本音を漏らすセシリー。


確かに、永久の樹がある地帯はかなり広く、銃の使用も許されない。

その地帯に住む生物に襲われた場合に一般人には対処の使用がない。

正直、彼女一人では到底なし得ない依頼だ。

だが、彼女にはクロウがいる。

余程のことがない限り、彼がいれば何とでもなると彼女はそう考えている。

それだけ、セシリーはクロウに信頼しているのだ。


「頼むわよ。クロウ」


「ああ」


無論、彼は何を頼まれているのか理解していない。

ただ、彼女に必要なものは肯定であることを学習しただけの回答である。

そうこうしている内に、小型トラックはフォレストライアに到着した。



クロウとセシリーがフォレストライアに到着した頃、ジンもまた偶然にも其処にいた。

麻耶からの歪んだ愛情表現から逃げ延びた彼は其処でしばしの間、休息をとっていたのだ。

彼は傭兵として、十年戦争後期に参加していた。

たった一本の槍で戦場を駆け回り、それは正に鬼のような強さであった。

だが、今はそんな面影は見られない。

どこにでもいるような体格の良い白髪の男。

第一印象はそのような程度だろう。

彼は特に何の目的もなく、街を渡り歩く雲のような人生を送っていた。

所謂、風来坊という奴だ。

彼自身、その生き方に何の不満もなく、自由に暮らしていたのだが、あることをきっかけに今は麻耶から逃げ惑う毎日になってしまっている。

無論、彼が本気を出せば、麻耶など容易くあしらえる。

場合によっては殺すことも難しい話ではない。

しかし、それをしないのは彼がもう殺しはしない、という誓いを立てているからだ。

それは、とても大切な友人との誓い。

その誓いがあるが故に、彼は麻耶を殺すことはしない。

それが逆に彼女へのアドバンテージとなってしまっているのだから皮肉な話である。

結局、彼が選べる道は逃げ惑うことだけなのだ。

大きな槍を携えながら、ジンは目先の不安を思いながらため息をつく。

彼は今日泊まる宿を探していた。

しかし、何処も武器の持ち込みは厳禁。

拳銃など小ぶりなものなら誤魔化せただろうが、彼の槍はとても隠しきれる大きさではない。

というより、このご時世に何の仕組みもされていない槍を好んで使うものなど彼くらいなものだ。

収納もできないその槍ははっきり言ってしまえば、邪魔でしかたない。

宿泊施設側からして見れば、迷惑極まりない話だ。

無論のこと、門前払いである。

既に、五件以上その扱いを受けており、彼は苛立っていた。

そんな心中で町を放浪していると一件の古い宿泊施設が目に入る。

気がつけばフォレストライアの末端に彼はいた。

恐らく、これ以上歩いても宿は見つからない。


「ここで、最後にするか……今日は野宿かもな」そう呟きながらジンはその中に入って行くのだった。


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