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闇夜の爪  作者: べこちゃん
永久の樹と白き鬼
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「クロウー」セシリーは語尾を無駄に伸ばし、目を線にして彼を呼ぶ。

「……何だ?」バラバラになっている『黒』をいじりながら、淡白に答える。

「一緒に森林浴へ行かない?」

「一人で行ってこい」考える間もなく即答である。

「えー、行きましょうよー」

クネクネと体を動かし、甘ったるい声を発するセシリー。

あまりもその姿は見苦しかった。

「……三十路手前で恥ずかしくないのか」

クロウのその一言がオフィスに木霊し静寂が訪れる。

セシリーとクロウはお互い睨み合い硬直状態になる。

だが、その均衡はすぐに崩れた。

この状況にまるで合わない明るい声で千歳がオフィスの出入り口から入ってきたのだ

「只今、戻りましたー」

「千歳ちゃん!」セシリーは千歳の姿を見るといきなり大きな声で呼びかける。

「は、はい!?」

いきなりの事に驚く千歳は思わず声が裏がえってしまう。

椅子から立ち上がり、千歳の元まで詰め寄るセシリー。

「森林浴行きたいわよね!」

必死に訴えかけるセシリーの瞳は血走っていた。

その形相は金に目がくらみ恐ろしい色になっている。

だが、千歳の表情は変わることはなく「いいえ、別に」と一蹴されてしまう。

セシリーの期待は数秒で裏切られてしまった。

叫喚しながらデスクに戻り、書類をぐちゃぐちゃにするセシリー。

千歳はそんな彼女を見て、クロウに尋ねる。

「一体、どうしたんですか……暑さで頭がやられてしまったんですか?」

そう疑わざるを得ない。

それ程までにセシリーは狂乱していた。

セシリーとて好きでそのような行動をしているわけではない。

彼女一人ではとても行けない場所に永久の樹がある故にクロウの付き添いが必要なのだ。

機会を逃せば大金が遠くへ翔いてしまう。

永久の樹がある地域は、サーマシバルの都市であるフォレストライアから少し南下したところにある。

殆ど未開の地なため、何が起こるかとても予想出来ない。

自然保護区でもあるため銃弾などの発砲も許されない。

戦時中にもそれは守られ、数少ない戦争被害がなかった場所でもある。

自然がほぼ全て残されている地は人にとってどれほど危険か想像するのは容易い。

「知らん。ただ、面倒な事に決まってる」実際、クロウの言っている事は事実であった。

「もう、いいわよ! 私一人で行くから!」

それでも好機を逃すわけにはいかない。

その感情が彼女を無謀な旅に出向かせるには十分であった。

勢いよく立ち上がり、乱暴に扉を開け出て行く。

出て行く際、薄情者と吐き捨てドアを思いっ切り閉めるのだった。

木目の濃い上品な色合いのドアはセシリーの乱暴な扱いに悲鳴を上げる。

「……怒っちゃいましたね」

「そうだな」

「追った方がいいですよ」他人事のように千歳は言う。

「お前は?」クロウの一言に千歳は目を泳がす。

「ほら、私は都会っ子じゃないですか。森林浴ってのはちょっと……」言葉を濁す千歳。

「神楽は都会ではないだろ。虫か」

「……はい」

彼女は虫が苦手なのだ。

クロウは仕方ないと言った顔つきでセシリーの後を追う。

オフィスに千歳を残して。

「行ってらっしゃーい。あ、お土産頼みますよー」先とはうって変わり元気な声が聞こえてくる。




一時間ほどが経過し、一台の小型トラックが荒れた道をけたたましく走っている。

中には頬を膨らませながら拗ねているセシリーと無表情でハンドルを握っているクロウがいた。

「まだ、怒ってるのか?」

あれから何とかセシリーと一緒にトラックに乗り、出発したクロウだったが彼女のご機嫌は宜しくなかった。

セシリーはふくれっ面で窓に顔を向けている。

車内は走るたびに小刻みに揺れる。

「別にー、三十路手前の私は怒ってなんかいないわよ」

ようやく出てきた言葉はいじけた声色をしていた。

明らかに、クロウのあの発言は彼女の心に深く突き刺さっている。

大変、気まずい空気が車内に充満していく。

「悪かった」

彼には何故、セシリーはそこまで怒りを見せているのか理解できなかった。

人間が歳をとることは至極当然の話だ。

それでも流石にこの空気には耐えらなくなり、セシリーに詫びた。

セシリーはそんなクロウを見て小さく笑いながらため息をつく。

「いいわ、許してあげる。私も大人気なかったしね」

クロウはそれを聞き、安堵する。

だが、それも束の間、「次、言ったら分かってるわよね」とつけ足される。

今まで聞いたことのないようなドスの利いた声が彼の鼓膜を揺らし、安堵感を吹き飛ばしていった。

笑みとは裏腹に眼光は凄ましい。

それに、合わせるようにトラックもまるで恐がるかのように軽く揺れる。

「ああ、分かった」

クロウのその一言を聞くと、セシリーの凄ましい眼光は消えていき、いつもの優しげな瞳に戻っていく。

一息つきながら窓を開け、外の景色を眺める。

ドライヤーの熱風を吹き付けれているのと大差ない風が彼女の緋色の髪を撫でていく。

まだ、都市部を出て一時間程しかたっていないにも関わらず、辺りはひどく荒れ果てていた。

あっちこっちに荒ら屋が点在し、アスファルトの道はヒビだらけ。

今にも倒れてしまいそうな枯れ木ばかりが生えている寂しい光景だ。

時折、動物の死骸が転がっており、それを鳥たちが食い散らかしている。

死骸の腐った臭いがセシリーの鼻孔を刺激する。

「……どんなに、都市を着飾っていても、戦争の爪痕は残っているものよね」

辺りの光景を悲しげな表情で見つめながら、呟くセシリー。

彼女の言うとおり、いくら都市を着飾っていてもこのような荒れ果てた場所は、はいて捨てる程に存在している。

それでも、残っている大国はそれを放置し都市部にばかり目をおいてソレを見ようとしない。

この光景は世界の姿そのもの。

大都市などは人々の儚き虚構にしか過ぎないのだ。

この姿を人々は否定している。

認めたくないからだ。

自分達がこのような悲惨な世界にしてしまった原因であるという事実から目を背けているのだ。

恐らく、この先もこの光景は変わらず続いていくだろう。

彼女はそう感慨にふけりながら車窓を閉めた。



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