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クーラーの起動音が部屋の中で響いている。
その中で千歳は椅子の上で三角座りをし、まるで引きこもった貝のように俯いていた。
パソコンの画面には『機能停止』の文字が浮かんでいる。
あの後、シェル・キャトルはすぐに停止した。
元々、クロウとの戦闘でかなりの損傷をしていたのだから、シェル・キャトルの機能が停止するのは時間の問題だったのだ。
だが、起動している間、彼女は結局、指揮系統をアンノウンから取り戻す事は出来なかった。
敗北感が彼女の心を満たしていく。
同時に自分が無力で惨めったらしい子どもであることを再認識してしまった。
五年前と何ら変わっていない。
脆弱なままの存在。
そう思わずにはいられなかった。
そんな時だった。
彼女の携帯が振動する。俯きながらゆっくりと携帯を手に取ると、メールが一通届いていた。
千歳はメールの内容を確認し出す。
『次はもっと楽しませてね 』
それは馬鹿にしたような文面だった。
千歳の必死の抵抗がこのアンノウンにとっては遊び程度でしかない。
その事実に彼女の心のダムは限界を迎え、彼女は机に顔を埋め静かに涙を流す。
寒く静かな部屋にはクーラー音と彼女の泣き声が響いていくのだった。
ウォーター・ビレイの軍本部からはすでに遠く離れていた。
暗い街並みがどこまでも続いている。
正に生者が黙する街である。
流れゆく雲の合間からは月が度々、顔を見せる。
人工河川の水面は蒼色の月光を反射させ、孤独の光を世界に広げていく。
幽寂で本当に孤独に満ちた世界。
ニナ・ヘイズルはそんな世界で携帯を見つめながら、笑みを浮かべていた。
その笑みは新しい玩具を手に入れた子供の表情に似ており、無邪気さそのものであった。
ゆっくりとした歩調で黙する街を歩く。
水の流れる音が絶え間なく聞こえだし、彼女は電話をかけだす。
何回かのコール音がしてから電話は繋がる。
『種まきは終わったわ』
それだけを述べると彼女は電話を切り、一人夜のトバリを歩いていく。
やがて、彼女の姿は紺碧の闇に溶けていくのだった。




