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闇夜の爪  作者: べこちゃん
闇を撫でる爪
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『その右腕は飾りか?初めは驚かされたが、所詮はこの程度か』


自分が優勢だと信じ切っているシラサギは饒舌になりだす。

人間は必然的に自分が優位に立つとそうなる。

シラサギもまた、例外ではなかった。

一方ひたすら無言で襲い来る弾丸を避け続けるクロウ。

その表情に焦りは見られない。

いつも通りの無表情である。


『……先からちょこまかと動きやがって』

少しずつ、苛立ちを見せるシラサギ。

すでにクロウとシェル・キャトルの距離が10メートル程になる。

それでも弾丸を当てられないのは彼の目がきちんと弾丸を捉え、素早い反射速度で体を動かしているからである。

やがて、二丁の120ミリ砲は発射熱で悲鳴を上げ弾丸の雨が止む。

その瞬間を狙っていたかのようにクロウは一気に距離を詰めだした。

シラサギは舌打ちをしながら三砲身ガトリングガンを撃とうと、左腕を突き出す。

しかし、シェル・キャトルの左腕とクロウの爪は既にゼロ距離の位置にあった。

『なっ!』

クロウの意味不明な行為にシラサギは混乱する。

一方でクロウは爪をいっぱいに広げ、手のひらをシェル・キャトルの左腕に合わせる。

「その腕……貰うぞ」

静かながら、力強いその一言。

同時に、熱機関を動かすような耳障りな音がクロウの手から鳴り、一瞬にして途轍もない光が発し爆発が起こった。

辺りに爆煙がたちこもり、クロウの姿は見えない。

彼の爪から放たれたその轟音は、遠くで見ているリベロ達の耳にまで届く程のものだった。



クロウは人間ではない。

アブソリュート計画により製造された超越者である。

体をナノスキンと呼ばれる物質で構成されている。

そのナノスキンとはあらゆる形状、性質を有し、変化させることができるマイクロマシンセルの一種である。

それを使用することによりクロウは自身の体を変化させた。

彼の爪には一般的に呼ばれるレーザー兵器や荷電粒子砲とは少し違い、陽電子砲が備えつけられている。

言わば、強力な炸裂弾のようなものである。

大気中には大量の電子があるため、陽電子はそれに引きつけられるので遠距離での使用にはあまり向かない。

使えない訳ではないが、威力がゼロ距離に比べ低下してしまう。

また、磁場に影響されやすく、照準にズレが起こる場合もある。

だからこそ、彼はゼロ距離でそれを使用した。

ここまで見れば、ナノスキンは万能かもしれない。

だが、普通の人間が使用すればナノスキンは異常なまでに増殖を始め、ナノスキンの塊『グレイ・グー』に変化してしまう。

彼の体はナノスキンによる自己修復も行える。

しかし、自己修復を多用すると同じようにグレイ・グーに変化してしまう。

こうなった場合、元の姿に戻す事は不可能になり、いずれ体が消滅していく。

またそれは爪に変化させる時にもナノスキンを使用するため、過度に変化させ続ければ同じく自身の体を保てなくなり消滅してしまう。

つまり彼の切り札は同時に自身の命を危険に晒すことにもなる。


爆煙と砂塵は薄くなっていく。

コンクリートの地盤は衝撃でひび割れを起こし、荒れ果ててしまっている。

やがて、シェル・キャトルの姿がはっきりとみえだした。

左肩まで跡形もなく消し飛び、頭部も破損し、コックピットに若干の亀裂がはしっている。

クロウはシェル・キャトルの左腕があったすぐそばに立っていた。

目立った外傷もない。

どうやら、無傷のようだ。

爪は熱で蒸気をたてており、冷却棒が腕から伸び起動する音が聞こえ始める。

『……ぐっ』シェル・キャトルからかすれたシラサギの声が聞こえてくる。

『な……ん……こい』

音声機能が先の衝撃で壊れており、聞き取る事が出来ない。

「あれで、よく意識があるな」

クロウは少し、関心した声色で呟き、腹部を抑えている。

前回の仕事で受けた傷が開いたのだ。

黒いシャツに赤い血がにじむが、彼はあまり気にしている様子には見れない。

一方、中のシラサギはコックピットで血を流していた。

あまりの衝撃で頭部を強打したのだ。

シラサギはどうにかシェル・キャトルを動かそうとする。

だが、その時だった。

コックピットのメインカメラに写っているクロウの姿が消え、何も写らなくなる。

「クソ!壊れやがったか?」

右腕を画面に叩きつける。

すると数字とアルファベットの羅列が画面を埋め尽くし、一匹の黒猫が出現した。


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