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「見てください!」
パソコンの画面をニナに突きつける。
画面上には猫のアイコンが欠伸をしている。
まるで本物の猫のような仕草だ。
「可愛らしいアイコンね。AI?」
「そうなんですよー。ニコルって言うんです。私が造ったんですよー」
ニナの顔は優しいものとなり、千歳もまた顔がほころぶ。
親バカの顔とは、正に今の千歳の顔の事だろう。
「それで、コレがどうしたの?」その一言で、彼女の緩んだ顔が元に戻り、首を大きく振りだす。
「ニコルではなく、コレです」
パソコンの画面を指さし、見るように促す。
ニナはそれに従い顔を画面に近づけ、目を細める。画面には、大量のアクセス履歴が表示されており、アドレスがそれぞれ表示されていた。
そんな中、ひとつの違和感に彼女は気がついた。
「このアドレス……」
「気づきました?」そう言いながら嬌笑を浮かべる千歳。
無数に並ぶアクセス履歴にはコロン端末以外のアドレスがひとつだけ表示されていた。
もし、コロンがハッキングされていないのなら、端末以外のアドレスがアクセス履歴にある筈がない。
つまり、これは何者かのハッキングが確かにあった証拠なのだ。
「でも、先は……」
そう、先ほど千歳が調べた時には、このような痕跡は見あたらなかった筈だ。
しかし、画面には確かにアクセス履歴が残っている。
「なるほど、コロン端末か」ニナは何かに気づいたように言う。
「ええ、端末自体に仕掛けがされていて、此処からでは痕跡はステルス化で隠されていました」
コロンを直接、調べるには彼女達の目の前にある端末からしかない。
故に、このような仕掛けが施されていたのだ。
「よく、分かったわね」ニナはなぜか微笑みながら訊く。
「頭でっかちは良くないんですよ」千歳は軽くウインクをして、パソコンの接続を解除し始めた。
「コレで不正アクセスがあった事が証明できました」
喜びもつかぬ間、彼女の上着のポケットに振動が起こる。
携帯が鳴り出したのだ。慌てて、ポケットに手を突っ込み、通話ボタンを押して耳元に近づける。
『俺だ』
電話からはクロウの声が聞こえてくる。
その抑揚の無い声に千歳は安堵し、胸をなで下ろす。
「クロウさん!一体、何処にいるんです?」千歳はクロウがシェル・キャトルを止めようとしている事など知る由もなく、すぐに彼と合流しようと何処にいるのか訊ねる。
だが、クロウは先に自分の要件を放つ。
『それは後だ。それより、お前にやってもらいたい事がある』
「私に……ですか?」千歳がクロウに頼まれた事はとんでもない事だった。
「そんなの出来るわけないじゃないですか!一回もやった事ないんですよ!」クロウの無理難題に必死に拒否する千歳。
『大丈夫だ。お前ならできる』クロウは聞く耳を持たず根拠のない宣言をして勝手に電話を切った。
千歳は今にも、つぶしそうな勢いで携帯を握る。今の彼女は般若のような恐ろしい顔をする。
先の喜びなど瞬時に消し飛んでしまった。
「どうしたの?」
ニナはそんな彼女を見て恐る恐る訊ねる。
しかし、千歳は俯きながらブツブツと文句を言い続け彼女の問いかけを無視。そして、「ニナさん」と言いながら、顔を上げる。
その形相はとても十五歳の少女とは思えないほど、ひどい事になっている。
「アレ、少し借ります……」
彼女の指差した先には、コロン本体が静かにそびえている。
その眼光は凄まじく、人すら簡単に殺すのではないか、とニナは命の危機を感じ了承するのだった。




