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「すっ、凄い!」
千歳の瞳はまるで宝石のように煌びやかに輝いていた。
それは正に年相応の表情と言える。
クロウがシェル・キャトルの元に向かっている頃、千歳は『電子戦対策室』と言う場所にいた。
此処は、対電子戦における軍の拠点である。
ありとあらゆる、機材が此処には集まっており、電子関係の人間にとって此処は正に憧れの地と言える。
千歳もまた、その憧れを抱くものの一人であった。
彼女が先から見ているのは、世界にも数台しかないスーパーコンピューター『コロン』だ。
このコロンは軍の情報統括に使われ、言わば、軍の心臓のようなもの。
都市破壊兵器などの爆発による被害シュミレーションなどを行うのに使われたりなどする。
そのため、今回のシェル・キャトルの運用テストなどにもこのコロンが使用される予定だった。
サーマシバルにはコロンの他に三台のスーパーコンピューターが存在している。
彼女はこう言う、電子機器に対して目がない。
とても年頃の少女が興味を抱くようなものではない。
そういう意味では彼女は変わり者である。
何故、彼女がこの場所に居るのかと言うと、彼女が宿舎で眠っていた頃まで遡る。
クロウが部屋を出て、五分もしないうちに一人の女性が入ってくる。
それはクロウが千歳から離れるのを待っていたかのようなタイミングだった。
碧眼で少し長めの金髪をもち、白いカッターシャツに黒いズボンをはいている。
整った顔立ちをし、肌は普通より明らかに白く、まるで極寒の地に放置されていたかのように血の気がない。
そんな彼女のスラッとした腕が寝息をたてている千歳の肩に触れる。
「起きて!」千歳の肩を小刻みに揺らし、彼女を無理やり起こそうとする。
「……もぅ、朝ですか?」
すぐに千歳は寝ぼけた状態で目を覚まし、目蓋をこすり始める。
そしてまだ、眠いのか大きな欠伸をする。
「急いで非難するわよ」
「……へっ?」突然の事態に千歳の顔はかなり間抜けな顔になっていた。
その後、その女性に手伝ってもらい、千歳は荷物を持って宿舎の裏口に出てきた。
外には灰色のボディをしたジープがエンジンをかけた状態で止まっていた。
「さぁ、早く乗って」女性は千歳の手を引き、乱暴に荷物を乗せてジープに乗り込み、アクセルを掛け走らせる。
「……一体、何があったんですか?」千歳は女性の顔を見つめながら状況を把握しようと問いかける。
「私の名前はニナ・ヘイズル。此処の軍人よ」
ジープを運転しながら女性は自己紹介をし、この騒動を早口で説明していく。
千歳はその説明を訊いたとき、ある事を思い出していた。
そう、運搬途中、ヤタガラスに襲われた時の事だ。
「もしかしたら、報復しに来たのかもしれない」という考えが脳裏に浮かび上がり、千歳はニナにその懸念を伝える。
運転中のニナはその懸念を聞くと真摯に受けとめ考慮しだす。
「……かもしれないわね。 でも、どうやってこの基地に侵入してきたのかしら?」
ハンドルを握りながら避難所に向かう経路を確認し、そう答えるニナ。
この基地には入り口が一つしかない。
そこは電子ロック式の頑丈な扉がある。
中から操作するか、認証用のパスワードを入力しなければ入り口の扉は開く事はないのだ。
軍関係者でない場合、設置されている無線機で連絡して開けてもらう。
現に千歳達はそうやってこの基地に入ってきた。
「外からハッキングした可能性は?」
「……それは有り得ないわ。この基地のシステムは全てコロンが統括しているしハッキングしたらすぐに気づく。それに電子防壁が何重にも張り巡らせてあるし、コロンに侵入する事自体が不可能よ」
電子防壁とは不正アクセスに対しての防壁であり、またそのアクセス者に対してトレースを行い逆にシステム破壊などを自動的に行う。
民間での使用は禁じられている防衛システムである。
ハッカー用に開発されたシステムであり、それを突破するのは難しい。
それを知っているニナは千歳の考えをすぐに否定した。
だが千歳はどうしてもその懸念を払えないでいた。
「……ニナさん。お願いがあります」
「何かしら」
「私をコロンのある場所まで連れて行ってください」
「……行ってどうする気?」ニナの碧眼に千歳の顔が写り込む。
「本当にハッキングがなかったのか、確かめたいんです」その表情は、先ほどまでの千歳ではなく、まるで別人のように変わっていた。




