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【書籍化決定】コミュ障の天才魔法使いは、王都の片隅でのんびりお店経営はじめます~魔法学園主席の少女は実力を隠して静かに暮らしたい~(旧タイトル:厭世の魔法人形屋)  作者: 八星 こはく
第一章 魔法人形屋『ルクス』

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第6話(ハインツ視点)受け入れるために

「クリスタ、クリスタ」

「なあに、おかあさま」

「……なんでもないの」


 泣きそうな顔で必死に笑いながら、クラウディアがクリスタを抱き締める。変なおかあさま、と言いながら、クリスタも楽しそうに笑った。

 なにも知らなければ、平凡で幸せな親子のひと時だと思うだろう。


(だが、このクリスタは偽物だ)


 魔法人形のクリスタを見た時、真っ先に浮かんできた感情は恐怖だった。

 自分がとてつもなく恐ろしい依頼をしてしまったのではないか、あの魔法使いはとんでもない奴なのではないか、と身体が震えた。

 けれど妻の笑顔を見て、やはりこれしかなかったのだと確信した。


「ねえ、おかあさま、おとうさま。そろそろ夜ごはんの時間だわ」


 不意に、時計を指差しながらクリスタがそう言った。その瞬間、部屋の空気が一瞬ぴりつく。


 魔法人形は食事をとることができない。フィーネから説明されたことの一つだ。

 本物そっくりに見えるが、身体の中は人間とは構造が全く違う。だから、食事や排泄をすることは不可能だと言っていた。

 それは、本人も分かっているはずである。


「クリスタ、でも……」


 泣きそうになったクラウディアの腹に、そっとクリスタが手のひらを当てた。


「おかあさま。いっぱい食べないと、赤ちゃんにも悪いんでしょ? それに、おかあさまは痩せすぎだわ」

「……クリスタ」

「弟か妹に会える日が楽しみね。わたくし、姉としてダンスを教えてあげるの。ディアナが弟を世話しているみたいに、わたくしもちゃんと面倒を見るわ」


 ディアナというのは、クリスタの友人だ。ハインツの旧友であるヘンスラー伯爵の娘で、クリスタとは同年齢である。

 そのため、幼い頃からディアナはよく屋敷に遊びにきていたし、クリスタもよくヘンスラー伯爵邸へ出かけていた。


(葬式の時、あの娘はいつまでも泣いていたな……)


 クリスタが病で屋敷から出られなくなった時は、ダンスの稽古や家庭教師の授業を投げ出し、毎日のように見舞いにきていた。

 クリスタが死んでからは引きこもりがちになり、彼女もずいぶんと痩せてしまったと聞いている。


「……ディアナにも、会いたいわ」

「会いにいきましょう、クリスタ。きっと会ってくれるわ。ヘンスラー家にすぐ使いを出すから、出かける支度をして……」

「ううん、いいの、おかあさま。今日は家族で過ごすと決めているから」


 立ち上がりかけたクラウディアの手を引っ張り、クリスタは優しく笑った。


「それにディアナとはちゃんと約束もしたもの。守ってくれるわ」

「……どんな約束をしたんだ?」

「弟か妹が生まれたら、会いにきてねって」


 その時、クリスタはもうここにはいない。そんなこと、クリスタだって分かっているのだろう。

 病で倒れ、ベッドで眠っている間、クリスタはどんなことを考えていたのだろうか。

 どんな気持ちで、親友に弟妹のことを頼んだのだろう。

 心臓が締めつけられるような気持ちになる。必死に涙を堪えたのは、娘を困らせたくなかったからだ。


「それより、ご飯にしましょう? おかあさま、いっぱい食べなきゃだめよ」

「……分かったわ」

「おとうさまも!」


 急に近づいてきたクリスタが勢いよく抱き着いてきた。慌てて抱き返すと、耳元でそっと囁かれる。


「おとうさま。今日のことは、ディアナには言っちゃだめよ」

「……クリスタ?」

「あの子とはもう、きちんとお別れをしたもの」


 すぐにハインツから離れ、クリスタは再びクラウディアのもとへ戻った。足元が覚束ないクラウディアを支えながら、食事をするために居間へ歩き出す。


(きちんとお別れをした、か)


 ハインツが知らないうちに、クリスタはずいぶんと大人になっていたのかもしれない。

 軽く深呼吸をし、ハインツも二人の後を追う。クリスタの足どりは軽く、記憶にある彼女よりもずっと明るい。

 クリスタが偽物だから、じゃない。彼女が理解しているからだ。


 ——この一日は、別れを受け入れるためにあるのだと。


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