第81話:『おばちゃん、新しい影の足跡を追う』
新しい影の気配を感じた翌朝。
トモエたちは街の外れにある小さな丘へ向かっていた。
ユウトが不安そうに言う。
「おばちゃん……
新しい影って……
どんな影なんやろ……?」
トモエは歩きながら答えた。
「わからん。
せやけど……
影の王が怖がるくらいや。
普通の影やないのは確かや」
カイルは地図を見ながら言った。
「昨日、影が揺らいだ場所……
あの広場から北へ向かったところに、
“影の流れ”が集中している地点があります」
リリアは胸に手を当てた。
「影の流れ……
そんなもの、今まで感じたことなかった……」
セイルは静かに言った。
「新しい影は、
“世界の影の変化”によって生まれた存在。
その影はまだ形を持たず、
流れのように漂っているのでしょう」
トモエは拳を握った。
(形を持たん影……
それは……
まだ“心”になりきれてへん影)
(せやけど……
放っといたら危ないかもしれん)
「よっしゃ。
まずはその場所、見に行こか」
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◆ ◆ ◆
◆ 丘の上 ―― “影の風”が吹く場所
丘に着くと、
風が不自然に揺れていた。
ユウトが身をすくめる。
「おばちゃん……
なんか寒い……
風が……変や……」
カイルは魔力を探りながら言った。
「これは……
“影の風”……
影が形を持つ前に起こる現象です」
リリアは震える声で言った。
「影が……
風に混ざってる……?」
セイルは頷いた。
「新しい影は、
まだ“心”を持っていません。
だから風のように漂い、
人の心に触れたときだけ反応する」
トモエは風の中に手を伸ばした。
すると――
風が一瞬だけ、
トモエの指先にまとわりついた。
まるで“触れようとしている”ように。
トモエは息を呑んだ。
(この風……
影や)
(せやけど……
今までの影と違う)
(痛みも、怒りも、孤独も、絶望も……
どれも感じへん)
(ただ……
“空っぽ”や)
ユウトが不安そうに言う。
「おばちゃん……
この影……
なんも感じへん……
怖い……」
カイルは眉を寄せた。
「影が“空っぽ”ということは……
まだ誰の心にも属していない……
“未成熟の影”……」
リリアは震えた。
「そんな影……
どうやって生まれたの……?」
セイルは静かに言った。
「光と影が調和したことで、
世界は“新しい心の形”を生み始めた。
その中で……
まだ名前のない影が生まれたのです」
トモエは風を見つめた。
(名前のない影……
心を持たん影……
それは……
世界が変わった証拠や)
「せやけど……
この影、放っといたら危ないで」
ユウトが叫ぶ。
「なんで!?
空っぽやのに!?」
トモエは静かに言った。
「空っぽやからや。
空っぽの影は……
“誰かの心を探しとる”」
カイルは息を呑んだ。
「つまり……
誰かの心に入り込んで、
その人の影になろうとする……?」
リリアは震えた。
「そんな……
そんな影……
危険すぎる……!」
セイルは頷いた。
「新しい影は、
“宿主”を探している。
心が弱った人に触れれば、
その影は一気に形を持つでしょう」
トモエは拳を握った。
(この影……
誰かに取り憑く前に……
見つけて止めなあかん)
「よっしゃ。
この影の“本体”を探すで!」
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◆ ◆ ◆
◆ 影の足跡
丘を調べていると、
カイルが何かに気づいた。
「おばちゃん!
これ……!」
地面に、
黒い“染み”のような跡があった。
ユウトが覗き込む。
「なんやこれ……
影の……足跡……?」
リリアは震える声で言った。
「影が……
地面を通った……?」
セイルは静かに言った。
「これは“影の残滓”。
新しい影が通った証拠です」
トモエは跡を指でなぞった。
(冷たい……
でも、痛みはない)
(この影……
ほんまに空っぽなんや)
カイルは跡を追いながら言った。
「この足跡……
街の方へ向かっています」
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
街に誰か……
影に取り憑かれるかもしれへん!!」
トモエは立ち上がった。
「急ぐで!!
この影、誰かの心に入る前に止めるんや!」
虎柄シャツが風に揺れ、
おばちゃんは走り出した。
新しい影の足跡を追って――
新しい旅が始まった。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
第81話では、
新しい影の“最初の手がかり”が見つかる回
が描かれました。
光と影が調和したことで、
世界は“新しい影”を生み始めています。
その影は――
心を持たない“空っぽの影”。
痛みも怒りも孤独も絶望もない。
ただ“空白”だけを抱えた影。
しかしその影は、
誰かの心に入り込むことで形を持つ
という危険な存在。
おばちゃんたちは、
影が誰かに取り憑く前に止めるため、
新しい旅へ踏み出しました。
次回、第82話では
新しい影が“最初に狙った人物”が明らかになり、
おばちゃんたちがその心の中へ踏み込む
物語が描かれます。
これからも、おばちゃんの物語を
どうぞよろしくお願いいたします。




