第73話:『おばちゃん、世界の涙を抱きしめる』
影の王――
その本当の姿である少年が泣き続ける中、
トモエはそっとその背中を撫でていた。
少年の涙は、
ただの涙ではなかった。
地面に落ちるたび、
光と影が混ざり合い、
世界の記憶が揺れ動くような波紋が広がっていく。
ユウトが震える声で言う。
「おばちゃん……
なんか……世界が揺れてる……?」
カイルは魔力の流れを読み取りながら言った。
「これは……
影の王の涙が“世界の影”に触れている……
世界中の影が反応しているんだ……!」
リリアは胸を押さえた。
「こんな……
こんな大きな力……
どうなってしまうの……?」
セイルは静かに言った。
「影の王は、
世界の影そのもの。
その涙は、世界の痛みを呼び覚ます……
しかし同時に――
世界を癒す力にもなり得るのです」
トモエは少年の肩を抱きしめたまま、
優しく言った。
「泣いてええんやで。
あんたはずっと……
泣きたかったんやろ?」
少年は震えながら答えた。
「……うん……
ずっと……
ずっと……
こわかった……」
トモエは頷いた。
「怖かったんやな。
痛かったんやな。
もう一人で抱えんでええ」
少年は涙を流し続けた。
その涙が落ちるたび、
世界の影が揺れ、
光が差し込み、
また影が生まれ――
まるで世界が呼吸しているようだった。
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◆ ◆ ◆
◆ 世界の記憶が流れ込む
突然、
トモエの視界に光が走った。
――パァァァッ!!
次の瞬間、
世界の記憶が一気に流れ込んできた。
戦争で泣く子ども。
家族を失った老人。
孤独に震える少女。
怒りに飲まれた青年。
声を失った村人。
誰にも気づかれず消えていった小さな願い。
ユウトの声が遠くから聞こえる。
「おばちゃん!?
どうしたん!?
大丈夫なん!?」
カイルも叫ぶ。
「おばちゃん先生!!
影の王の心と……
世界の記憶が……
繋がってる!!」
リリアは涙を流した。
「こんなの……
こんなの……
人が耐えられるわけない……!」
セイルは静かに言った。
「光の継承者は、
世界の影と向き合う者。
しかし……
これほどの痛みを受け止めるのは……
本来なら不可能です」
トモエは歯を食いしばった。
(痛い……
苦しい……
胸が張り裂けそうや……)
(せやけど……
これは……
世界の痛みや)
(誰かが……
受け止めなあかんかった痛みや)
(うちは……
逃げへん)
「大丈夫や……
うちは……
まだ立てる……!」
少年が涙を流しながら言った。
「……ごめん……
こんな……
痛み……
押しつけて……」
トモエは首を振った。
「押しつけてへん。
あんたはずっと……
誰にも頼れんかっただけや」
少年は震えた。
「……たすけて……
ほしかった……
でも……
誰にも……
言えなかった……」
トモエは少年の手を握った。
「言うてええんやで。
“助けて”って言うてええんや」
少年は涙を流しながら、
小さく呟いた。
「……たすけて……
光の継承者……
ぼくを……
救って……」
トモエは強く頷いた。
「救うで。
あんたの痛み……
全部、うちが受け止めたる」
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◆ ◆ ◆
◆ 世界の影が“形”を持つ
その瞬間――
神殿全体が震えた。
――ゴゴゴゴゴゴッ!!
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
なんか来る!!」
カイルは魔力を構えた。
「これは……
世界の影が……
“形”になろうとしている……!」
リリアは震える声で言った。
「絶望、孤独、怒り、沈黙……
全部の影が……
集まって……!」
セイルは静かに言った。
「影の王の涙が、
世界の影を呼び寄せています。
これは……
“世界の影の本体”……!」
闇が渦を巻き、
巨大な影の塊が姿を現した。
それは獣でもなく、
人でもなく、
ただ“痛み”そのものの形。
ユウトが震える。
「おばちゃん……
あれ……
世界中の痛みが集まった影や……!」
カイルは息を呑んだ。
「こんなの……
どうやって……!」
リリアは涙をこらえた。
「こんな影……
誰も癒せない……!」
セイルは静かに言った。
「癒せるのは……
光の継承者だけです」
トモエは一歩前に出た。
(世界の影……
あんたはずっと……
誰にも見てもらえんかったんやな)
(うちは……
あんたを見とるで)
「よっしゃ。
世界の影――
あんたの痛み、全部受け止めたる!」
虎柄シャツが光を反射し、
おばちゃんは世界の影へと歩き出した。
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ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
第73話では、
影の王の涙が世界に広がり、“世界の影”そのものが姿を現す
という、物語の最終局面が描かれました。
影の王は少年の姿を取り戻したものの、
世界中の痛みが集まった“世界の影”が現れ、
おばちゃんはその痛みを受け止める決意を固めます。
世界の影は、
沈黙・怒り・孤独・絶望――
すべての影の集合体。
次回、第74話では
おばちゃんが“世界の影”と真正面から向き合い、
光と影の未来を決める戦い
が描かれます。
これからも、おばちゃんの物語を
どうぞよろしくお願いいたします。




