第63話:『おばちゃん、世界の影の“最初の地”へ向かう』
影の王の残した言葉が消えたあと、
湖畔には静寂だけが残った。
ユウトが不安そうに言う。
「おばちゃん……
影の王って……ほんまに“世界の影”なん?」
トモエは胸に手を当てた。
「せや。
あの影……
うちの光でも、ルクスでもない……
もっと大きな……世界の心の影や」
カイルは深刻な表情で頷いた。
「影の王は“集合影”。
世界中の負の感情が集まって生まれる……
そんな存在、記録でしか見たことありません」
リリアは震える声で言った。
「世界の影……
そんなものが動き始めたら……
世界中が影に飲まれてしまう……!」
セイルは静かに言った。
「だからこそ、光の継承者が必要なのです。
あなたの光は、世界の影に触れられる唯一の光」
トモエは深呼吸した。
(世界の影……
影の王……
うちはそんな大層なもんに立ち向かえるんか?)
(せやけど……
逃げるわけにはいかん)
「よっしゃ。
影の王の気配、追いかけるで!」
ユウトが拳を握る。
「うん!
おばちゃんと一緒に行く!」
カイルも頷いた。
「僕たちも……
世界の影と向き合います」
リリアは胸に手を当てた。
「私も……
最後までお供します……!」
セイルは静かに言った。
「影の王の気配は……
“北の大地”から流れてきています」
トモエは目を丸くした。
「北の大地……
あそこは……雪と氷の国やな」
セイルは頷いた。
「北の大地には“沈黙の谷”と呼ばれる場所があります。
そこは昔から、影が溜まりやすい土地……
世界の影の“最初の揺らぎ”が起きる場所です」
ユウトが不安そうに言う。
「沈黙の谷……
なんか怖そうやな……」
カイルは地図を広げながら言った。
「でも……
影の王の気配は確かに北へ向かっています。
まずはそこへ行くしかありません」
トモエは拳を握った。
「よっしゃ。
北の大地へ向かうで!」
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◆ ◆ ◆
◆ 北へ向かう旅路
街へ戻り、
必要な物資を整えたあと、
トモエたちは北へ向かう街道へ足を踏み入れた。
空気は次第に冷たくなり、
風は鋭く頬を刺す。
ユウトが震えながら言う。
「さむっ……
おばちゃん、北ってこんな寒いん?」
トモエは笑った。
「そらそうや。
雪国やからな。
ユウト、手ぇ冷たなってへんか?」
ユウトは照れながら手を差し出した。
「ちょっとだけ……」
トモエはその手を包み込む。
「大丈夫や。
うちの光であっためたる」
――ぽわっ。
柔らかい光がユウトの手を包み、
温かさが広がった。
カイルが驚く。
「おばちゃん先生……
光の魔法で温めるなんて……!」
リリアは微笑んだ。
「光と影の調和……
あなたの魔法は、
もう“癒し”だけではないんですね……」
セイルは静かに言った。
「光の継承者の力は、
心に寄り添う力。
それは“温もり”としても現れるのです」
トモエは照れくさそうに笑った。
「なんや、褒められるとむず痒いわ」
そんな会話をしながら進んでいくと――
突然、空気が変わった。
――スゥ……
ユウトが身をすくめる。
「おばちゃん……
なんか聞こえへん?」
カイルも耳を澄ませる。
「これは……
“声がない声”……?」
リリアは顔を青くした。
「沈黙の……影……?」
セイルは頷いた。
「沈黙の谷が近い。
影の王の“最初の揺らぎ”がここにある」
トモエは前に出た。
「みんな、気ぃつけて進むで」
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◆ ◆ ◆
◆ 沈黙の谷
谷に入ると、
空気が一気に重くなった。
風の音も、
鳥の声も、
人の気配もない。
まるで世界が息を止めているようだった。
ユウトが震える声で言う。
「おばちゃん……
なんか……
音が全部消えてる……」
カイルは眉を寄せた。
「これは……
“沈黙の影”の結界……!」
リリアは胸を押さえた。
「ここにいるだけで……
心が締めつけられる……」
セイルは静かに言った。
「沈黙の影は、
“言えなかった気持ち”が積み重なって生まれる影。
この谷の人々は……
長い間、声を失っているのです」
トモエは拳を握った。
(声を失う……
言いたいことを言えへん……
そんな苦しみが影になったんか)
(うちが……
この影を癒したる)
「よっしゃ。
沈黙の影、探しに行くで!」
虎柄シャツが風に揺れ、
おばちゃんは沈黙の谷の奥へと踏み込んだ。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
第63話では、
影の王の気配を追い、世界の影の“最初の地”である北の大地へ向かう旅の始まり
が描かれました。
沈黙の谷に満ちる“声のない影”。
それは、世界の影の一端であり、
影の王へとつながる最初の試練。
次回、第64話では
沈黙の影の正体と、谷の人々が声を失った理由
が明らかになります。
これからも、おばちゃんの物語を
どうぞよろしくお願いいたします。




