第6話:『おばちゃん、市場で大暴れする』
リューネの朝は、今日も穏やかだった。
宿屋の窓から差し込む光を浴びながら、トモエは伸びをした。
「よっしゃ、今日も市場行って、リオの店手伝って、魔法の練習もして……忙しいでぇ」
虎柄シャツを整え、宿屋を出ると、街の人々が声をかけてきた。
「おばちゃん、おはよう!」
「昨日の魔力供給、助かったで!」
「今日も市場に来るんやろ?」
トモエは笑顔で手を振った。
「もちろんや。うちは市場が好きやねん」
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◆ 市場の異変
市場に着くと、いつもと違う雰囲気が漂っていた。
人が多い。
いや、多いどころか――
「なんやこれ、祭りか?」
市場の中央に人だかりができていた。
ざわざわとした声が飛び交う。
「野菜が……全部しおれてる!」
「魔力が足りてないんや!」
「このままやと今日の売り物が……!」
トモエは眉をひそめた。
「野菜がしおれるって……どういうことや?」
ユウトが駆け寄ってきた。
「おばちゃん! 大変なんだ!」
「何があったん?」
「市場の魔力供給が弱まって、魔力野菜が全部しおれてきてるんだよ!」
魔力野菜――
この世界では、野菜は魔力を吸って育つ。
魔力が足りなくなると、急速にしおれてしまう。
「ほな、魔力足したらええんちゃう?」
「それが……市場全体に魔力を供給するには、すごく強い魔力が必要で……」
ユウトはトモエを見た。
「おばちゃんの魔力なら、できるかもしれない!」
トモエは目を丸くした。
「え、うちが?」
「うん! おばちゃんの魔力、めちゃくちゃ強いやん!」
周囲の店主たちも口々に言った。
「頼む! このままやと今日の商売が……!」
「おばちゃん、助けてくれ!」
「虎柄の神様や!」
「神様は言いすぎやろ!」
トモエは苦笑しながらも、胸に手を当てた。
(うちの魔力……人の役に立つなら、やってみよか)
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◆ 市場の魔力供給塔へ
市場の中央には、小さな塔のような装置があった。
「魔力供給塔」と書かれている。
ユウトが説明した。
「ここに魔力を流せば、市場全体に魔力が行き渡るんだ」
「ほな、やってみるわ」
トモエは塔に手を当てた。
「魔力を流すときは、“マナフロー”って言うんだよ」
「マナフロー……な」
深呼吸して、トモエは呟いた。
「マナフロー!」
――ドォォォォォンッ!
塔が眩しい光を放ち、市場全体が震えた。
「ひぃぃぃっ!」
「おばちゃん、魔力強すぎ!」
「塔が光ってる!」
トモエは慌てて叫んだ。
「ちょ、ちょっと待って! 止まれ! 止まれって!」
「止めるときは“ストップ”!」
「ストップ!」
――ピタッ。
光が止まり、塔は静かになった。
市場の人々が息を呑む。
「……どうなったんや?」
「野菜が……!」
店主たちが一斉に野菜を見に行く。
「しゃっきりしてる!」
「むしろ昨日より元気や!」
「おばちゃん、すごい!」
トモエは胸をなでおろした。
「よかった……ほんまによかったわ」
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◆ しかし、事件は終わらない
市場が歓声に包まれたそのとき――
「おばちゃん! 大変や!」
リオが走ってきた。
「どうしたん?」
「魔力供給塔のせいで、うちの店の魔道具が全部暴走してる!」
「えぇぇぇぇぇっ!?」
トモエはリオの店へ走った。
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◆ 魔道具暴走事件
店に入ると、魔道具が勝手に動き回っていた。
「火起こし石」が勝手に火花を散らし、
「風送り扇」が暴風を巻き起こし、
「自動掃除ほうき」が店内を暴走している。
「なんやこれ! テーマパークか!?」
「おばちゃんの魔力が強すぎて、魔道具が反応してるんだよ!」
トモエは頭を抱えた。
「ごめん! うちのせいや!」
「謝らなくていいよ! 止めればいいだけだから!」
「どうやって止めんの!?」
「魔力を逆に吸収すればいいんだ!」
ユウトが叫んだ。
「おばちゃん! “マナドレイン”って言って、魔力を引き取って!」
「マナドレイン……な!」
トモエは暴走する魔道具に手をかざした。
「マナドレイン!」
――ふわぁぁぁ。
魔道具から光が吸い取られ、次々と静かになっていく。
「止まった……!」
「おばちゃん、すごい!」
「魔道具が元に戻った!」
リオは深く息をついた。
「おばちゃん……ありがとう。店、助かったよ」
「いやいや、うちのせいやしな……」
「でも、結果的に市場も店も救ってくれたんだよ」
トモエは照れくさそうに笑った。
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◆ 市場の人々からの感謝
市場に戻ると、店主たちがトモエを囲んだ。
「おばちゃん、ほんまにありがとう!」
「野菜、全部元気になったで!」
「今日の売り物、助かったわ!」
トモエは手を振った。
「そんな大したことしてへんて」
「いや、大したことや!」
「おばちゃん、街の英雄や!」
「英雄は言いすぎや!」
しかし、子どもたちが言った。
「おばちゃん、すごい!」
「また魔法見せてな!」
「明日も学校来て!」
トモエは胸が温かくなった。
(うち……異世界でも、誰かの役に立ててるんやな)
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◆ 夕暮れの帰り道
市場の騒動が落ち着き、トモエは宿屋へ向かった。
ユウトが隣で言った。
「おばちゃん、今日もすごかったね」
「せやな……なんか、毎日騒動起きてる気がするわ」
「でも、全部いい方向に行ってるよ」
「そうやったらええけどな」
トモエは空を見上げた。
夕焼けが街を赤く染めている。
「明日は……何が起きるんやろなぁ」
「おばちゃんがいる限り、きっと楽しいよ」
「そんなん言われたら照れるやん」
虎柄シャツが夕風に揺れた。




