第55話:『おばちゃん、街に満ちる影の声を聞く』
街の門をくぐった瞬間、
トモエたちは息を呑んだ。
街の空気が――重い。
いつもは明るい市場の通りが、
どこか薄暗く、
人々の表情には不安が浮かんでいた。
ユウトが震える声で言う。
「おばちゃん……
なんか、街の空気……変や」
カイルも眉を寄せる。
「影の気配……
遺跡よりも濃い……!」
リリアは胸を押さえた。
「これは……
“心を喰らう影”が街に入り込んだ証……」
トモエは深呼吸した。
(街の人らの心が……
影に触れとる)
(ルクス……
あんた、何をしに来たんや)
「みんな、気ぃつけて進むで」
三人は頷き、
街の中心へ向かった。
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◆ ◆ ◆
◆ 市場の異変
市場に入ると、
いつも元気な店主たちが、
どこか怯えたように身を寄せ合っていた。
たこ焼き屋のおっちゃんが、
トモエを見るなり駆け寄ってきた。
「おばちゃんさん!!
街に……街に“黒い霧”が出たんや!!」
「黒い霧……?」
「せや!
人の心に入り込んで、
不安を増幅させるんや!!」
ユウトが息を呑む。
「影や……
影が街の人らの心に……!」
カイルは周囲を見渡す。
「影の主“ルクス”の残滓……
街の人々の心に反応している……!」
リリアは震える声で言った。
「影は……
人の心の“隙間”に入り込む……
今の街は……
影にとって格好の場所……!」
トモエは拳を握った。
(街の人らは優しい。
せやからこそ、心が揺れやすい)
(影は悪やない。
せやけど……
放っといたら、心を喰われてまう)
「よっしゃ。
影を探しに行くで!」
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◆ ◆ ◆
◆ 影の声
街の中央広場に近づくと、
空気がさらに冷たくなった。
ユウトが身を震わせる。
「おばちゃん……
なんか聞こえる……」
カイルも耳を澄ませる。
「これは……
“影の声”……!」
リリアは顔を青くした。
「街の人たちの不安が……
影の声として響いている……!」
トモエは静かに目を閉じた。
――ざわ……ざわ……
「……不安……」
「……怖い……」
「……どうしたら……」
街の人々の心の声が、
影に変換されて響いていた。
ユウトが涙をこらえながら言う。
「おばちゃん……
みんな……苦しんでる……!」
カイルは拳を握った。
「影は……
人の心の弱さを増幅させる……!」
リリアは震える声で言った。
「このままでは……
街全体が影に飲まれてしまう……!」
トモエは深呼吸した。
(影は悪やない。
心の叫びや)
(せやけど……
このままやと街が壊れてまう)
「みんな、広場に行くで!」
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◆ ◆ ◆
◆ 広場に現れた“影の核”
広場に着くと――
中央に“黒い球体”が浮かんでいた。
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
あれ……影の核や!!」
カイルは震える声で言う。
「影の主“ルクス”の残滓が……
街の不安を吸い込んで……
核になっている……!」
リリアは顔を青くした。
「このままでは……
街の人たちの心が……
影に飲まれてしまう……!」
トモエは前に出た。
(影の核……
これは“心の影”の集合体)
(倒すんやなくて……
癒さなあかん)
「ユウト、カイル。
うちに魔力を合わせて」
二人は頷き、杖を構えた。
「《光の共鳴》!!」
――パァァァァァッ!!
三人の光が重なり、
影の核を包み込む。
しかし――
影の核は光を吸い込み、
さらに大きくなった。
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
光が効いてへん!!」
カイルも焦る。
「影の核が……
光を“喰ってる”……!」
リリアは震える声で言った。
「これは……
“心を喰らう影”の性質……!」
トモエは歯を食いしばった。
(光を喰う影……
これは普通の影やない)
(ルクス……
あんたの影やな)
そのとき――
影の核から声が響いた。
『……光よ……
なぜ……
心を照らす……?』
ユウトが息を呑む。
「ルクス……!」
影の声は続けた。
『……光は……
心を救う……
だが……
影は……
どこへ行けばいい……?』
トモエは胸が締めつけられた。
(影は……
行き場を失っとるんや)
(ルクス……
あんたは“影の居場所”を探しとる)
「ルクス。
あんたの影は……
消える必要なんてあらへん」
影の核が揺れた。
『……光よ……
影を……
否定しない……?』
「せや。
影は心の一部や。
うちは影を憎まへん」
影の核は震え、
声が少し柔らかくなった。
『……ならば……
光よ……
我を……
導け……』
トモエは頷いた。
「任しとき。
あんたの居場所、見つけたる」
トモエは杖を掲げた。
「マナ・ヒールライト!!」
――パァァァァァッ!!
光が影の核を包み、
影はゆっくりと溶けていった。
ユウトが涙をこらえながら言う。
「おばちゃん……
影、救われたんやな……」
カイルも胸に手を当てた。
「影は……
消えたんじゃない……
“落ち着いた”んです……」
リリアは涙を拭った。
「おばちゃんさん……
あなたの光は……
影をも救う光……」
トモエは静かに頷いた。
(ルクス……
あんたはまだどこかにおる)
(せやけど……
あんたは敵やない)
(影の居場所を探しとるだけや)
「よっしゃ。
次はルクスを探しに行くで!」
虎柄シャツが風に揺れ、
おばちゃんは新たな影の行方を追い始めた。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
第55話では、
街に広がる影の霧と、影の核の出現
そして
ルクスの“本当の目的の片鱗”
が描かれました。
影は悪ではなく、
心の一部。
しかし、行き場を失った影は暴走し、
街を飲み込むほどの力を持つ。
ルクスは敵ではなく、
“影の居場所”を探す存在。
次回、第56話では
ルクスの痕跡を追う旅の再開と、
新たな仲間の登場
が描かれます。
読んでくださる皆さまの応援が、
私にとっての“光”です。
これからも、おばちゃんの物語を
どうぞよろしくお願いいたします。




