第53話:『おばちゃん、影の名の予兆を聞く』
影の主が消えたあと、
遺跡の奥には静寂だけが残った。
ユウトが胸を押さえながら言う。
「おばちゃん……
あの影、ほんまに消えたん?」
トモエはゆっくり頷いた。
「せや。
せやけど……“終わった”わけやない」
カイルが眉を寄せる。
「影の主は……
“名を持って現れる”と言っていました」
リリアは震える声で言った。
「影が“名”を持つなんて……
そんなこと、古代の記録にもありません……」
トモエは胸に手を当てた。
(影が名を持つ……
それは“個”として存在する影)
(影の根源とも違う。
心の影とも違う)
(これは……
新しい影の形なんや)
そのとき――
――スゥ……
遺跡の空気が揺れた。
ユウトが身を震わせる。
「おばちゃん……
なんか聞こえへん?」
カイルも耳を澄ませる。
「風……?
いや……声……?」
リリアは顔を青くした。
「これは……
“影の残響”……!」
トモエは静かに目を閉じた。
(影の主……
あんた、まだ何か言いたいんか?)
風の中から、
かすかな声が聞こえた。
『……名は……
“ルクス”……』
ユウトが息を呑む。
「ルクス……?」
カイルが震える声で言う。
「古代語で……
“光”……!」
リリアは目を見開いた。
「影が……光の名を名乗るなんて……
そんなこと……ありえない……!」
トモエは胸がざわつくのを感じた。
(影が“光”を名乗る……
それは……
光を理解したい影やからこそ)
(影は光を憎んでへん。
光を知りたいんや)
「ルクス……
あんたの名前、覚えとくで」
風は静かに止んだ。
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◆ ◆ ◆
◆ 遺跡の外で動き始める影
遺跡を出ると、
外の空気はどこか重く感じられた。
ユウトが空を見上げる。
「おばちゃん……
なんか、空の色……変やない?」
カイルも周囲を見渡す。
「影の気配……
遺跡の外にも広がってる……!」
リリアは胸を押さえた。
「これは……
“心を喰らう影”が広がっている証……」
トモエは地面に手を当てた。
(影の主が消えたのに……
影の気配が強くなっとる)
(これは……
影の主が“完全に消えた”わけやない)
(影は形を変えて……
どこかに潜んどる)
「みんな、気ぃつけて歩くで」
三人は頷き、
遺跡の外へと足を進めた。
しかし――
そのとき。
――カサッ。
草むらが揺れた。
ユウトが身構える。
「おばちゃん!!
なんかおる!!」
カイルが杖を構える。
「影……!?」
リリアは息を呑む。
「まさか……
もう“獣”が……?」
トモエは前に出た。
「出てきぃや。
隠れても無駄やで」
草むらから現れたのは――
小さな影の塊だった。
ユウトが驚く。
「ちっちゃい……!」
カイルは眉をひそめる。
「これは……
影の“幼体”……?」
リリアは震える声で言った。
「影の主が消えたあと……
残った影が形を保てず、
幼体として散らばることがあると……
古文書にありました……!」
トモエは影の幼体を見つめた。
影は震えながら、
かすかな声を漏らした。
「……さむい……
こわい……
ひとり……」
ユウトが胸を押さえる。
「おばちゃん……
この影……泣いてる……」
カイルも言う。
「これは……
悪意の影じゃない……
“迷子の影”……!」
リリアは涙をこらえた。
「影の主が消えたことで……
心の影が行き場を失って……
幼体として彷徨っているんです……!」
トモエはしゃがみ込み、
影の幼体に手を伸ばした。
「大丈夫や。
怖くないで」
影は震えながら、
トモエの手に触れた。
――パァァァッ。
光が影を包み、
影は静かに溶けていった。
ユウトが涙を拭う。
「おばちゃん……
影、救われたんやな……」
トモエは頷いた。
「せや。
影は悪やない。
心の一部や」
カイルは拳を握った。
「でも……
影の幼体がこんなに早く現れるなんて……
影の主“ルクス”は……
まだ完全に消えていない……!」
リリアは震える声で言った。
「影の主は……
“名を持つ影”。
普通の影とは違う……
消えても、どこかに残る……」
トモエは空を見上げた。
(ルクス……
あんたはどこにおるんや)
(影が迷っとる。
あんたが迷っとる証拠や)
「よっしゃ。
ルクスを探しに行くで!」
ユウトが叫ぶ。
「うん!!」
カイルも頷く。
「影の主を……
救いましょう!」
リリアは胸に手を当てた。
「私も……
最後までお供します……!」
虎柄シャツが風に揺れ、
おばちゃんは新たな影の行方を追い始めた。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
第53話では、
影の主が残した“名”――ルクス が明かされ、
遺跡の外で“影の幼体”が現れるという
新たな不穏が描かれました。
影は悪ではなく、
心の一部。
しかし“名を持つ影”は、
心の影とは違う存在。
ルクスは敵なのか、
それとも救われるべき影なのか。
次回、第54話では
ルクスの残した“影の痕跡”を追う旅の始まり
が描かれます。
読んでくださる皆さまの応援が、
私にとっての“光”です。
これからも、おばちゃんの物語を
どうぞよろしくお願いいたします。




