第36話:『おばちゃん、影の核の“過去”を知る』
第五層で影の核の本体らしき“人影”を見た一行は、
深い静寂の中、第六層へ続く階段を登っていた。
空気はさらに冷たく、
まるで心臓を握られているような圧迫感がある。
ユウトが不安そうに言った。
「おばちゃん……ここ、息するだけで苦しい」
「せやな。影の核が近いんやろな」
エリナが魔力を感じ取りながら言った。
「第六層は……“影の核の記憶領域”と呼ばれています。
影が生まれた理由、その過去が見えるはずです」
サラが魔法生物を抱きしめる。
「この子たち……泣いてるみたい……」
カイルが杖を握りしめた。
「僕……胸が痛い。
なんか……悲しい気持ちが流れ込んでくる」
バルドが前に立つ。
「気ぃつけろ。ここは敵が見えへんぞ」
トモエは深呼吸した。
(影の核の過去……)
(あんたは……何者なんや)
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◆ 第六層:影の記憶回廊
階段を登りきると、
そこには長い“回廊”が広がっていた。
壁は黒い鏡のように光り、
床には無数の影が揺れている。
ユウトが震える声で言った。
「ここ……鏡の廊下みたいや」
「せやけど……映ってるんはうちらやない」
鏡に映っているのは――
知らない人々の姿 だった。
エリナが息を呑む。
「これは……影の核が見てきた“記憶”……?」
サラが鏡に触れようとした瞬間――
――スッ。
鏡の中の影が動き、
サラの手を掴もうとした。
「きゃっ!!」
トモエがサラを引き戻す。
「触ったらあかん!!」
鏡の中の影は、
悲しげな声で呟いた。
「……助けて……」
「……苦しい……」
「……誰か……」
カイルが震える。
「これ……人の声や……」
バルドが眉をひそめる。
「影の核は……人の負の感情の集合体やったな」
エリナが静かに言った。
「つまり……ここに映っているのは……
“影に飲まれた人々の記憶”……」
トモエは胸が痛くなった。
(こんなに……苦しんでたんか)
(影って……ただの敵やないんや)
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◆ 影の核の“最初の記憶”
回廊の奥へ進むと、
一際大きな鏡が現れた。
鏡の中には――
一人の少年 が映っていた。
黒髪で、細い体。
目はどこか怯えている。
ユウトが呟く。
「……誰……?」
エリナが鏡を見つめる。
「この子……魔力が強い……
でも、制御できてない……」
サラが言った。
「なんか……ユウトくんに似てる……」
ユウトは驚いたように鏡を見た。
「僕……?」
そのとき――
鏡の中の少年が叫んだ。
「やめて!!
僕は……悪くない!!」
周囲の大人たちが怒鳴る。
「お前のせいで村が……!」
「魔力暴走の化け物め!!」
「出ていけ!!」
少年は泣きながら逃げる。
「違う……僕は……!」
鏡が揺れ、
少年の姿が黒い霧に包まれた。
「……助けて……」
「……誰か……」
「……僕は……悪くない……」
霧が少年を飲み込み、
影の核の“人影”の形になっていく。
エリナが震える声で言った。
「まさか……影の核の正体って……」
トモエは呟いた。
「……この子なんか?」
影の核の声が響いた。
「……そうだ……」
「……我は……“捨てられた子ども”の心……」
「……誰にも救われず……
誰にも必要とされず……」
「……絶望が……影となった……」
ユウトが涙を流した。
「そんな……
この子……ただ助けてほしかっただけやん……」
影の核は続けた。
「……光よ……トモエ……」
「……お前は……
“必要とされる光”だ……」
「……だが……
我は……“必要とされなかった影”……」
トモエは胸が締めつけられた。
(この子……)
(誰にも救われへんかったんや)
(その悲しみが……影になったんや)
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◆ 影の核の“願い”
影の核の声が静かに響く。
「……光よ……」
「……我を……消してくれ……」
ユウトが叫ぶ。
「なんで!?
消してほしいなんて……!」
影の核は言った。
「……我は……苦しい……」
「……存在するだけで……
世界に影を生む……」
「……光が強くなるほど……
我は……苦しむ……」
トモエは拳を握った。
(この子……)
(自分が“影”であることに苦しんでるんや)
(消えたいって……
そんな悲しいこと言わんといて)
影の核は続けた。
「……光よ……」
「……お前なら……我を消せる……」
「……どうか……終わらせてくれ……」
ユウトが涙を流しながら叫ぶ。
「おばちゃん!!
この子……助けられへんの!?
消すんやなくて……救う方法はないん!?」
トモエはユウトの肩に手を置いた。
「ユウト……」
(うちも……そう思ってる)
(この子を……救いたい)
(でも……どうしたらええんや)
影の核は静かに言った。
「……救いなど……ない……」
「……光と影は……相反する……」
「……お前が光である限り……
我は……消えるしかない……」
トモエは首を振った。
「そんなこと……ない」
影の核は揺れた。
「……なに……?」
トモエは一歩前に出た。
「光と影は……相反するもんやない」
「影があるから……光がわかるんや」
「光があるから……影も生まれるんや」
「せやから――
あんたは“不要”やない」
影の核は震えた。
「……我は……不要だ……」
「……誰にも……必要とされなかった……」
トモエは叫んだ。
「うちは……あんたを必要としてる!!」
ユウトが驚く。
「おばちゃん……!」
トモエは続けた。
「影があるから……
うちは光になれたんや」
「影があるから……
街の人はうちを必要としてくれたんや」
「せやから――
あんたは“必要な存在”や!!」
影の核は震え、
黒い霧が揺れた。
「……必要……?」
「……我が……?」
「……光に……?」
トモエは頷いた。
「せや。
あんたは……この世界の“心”や」
「悲しみも……怒りも……絶望も……
全部、誰かの心や」
「それを……“不要”なんて言わせへん!!」
影の核は揺れ、
黒い霧が涙のように落ちた。
「……光よ……」
「……トモエ……」
「……我は……どうすれば……?」
トモエは手を差し出した。
「一緒に行こ」
ユウトが息を呑む。
「おばちゃん……!」
影の核は震えながら言った。
「……我は……光と共に……
存在しても……いいのか……?」
トモエは笑った。
「ええんやで」
その瞬間――
――パァァァァァァッ!!
影の核の霧が光に包まれ、
少年の姿が一瞬だけ浮かんだ。
「……ありがとう……」
そして、霧は静かに消えた。
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◆ 第六層突破
ユウトが涙を拭きながら言った。
「おばちゃん……すごい……
影の核を……救ったんや……」
バルドが腕を組む。
「トモエ……お前は本物の光や」
エリナが微笑む。
「あなたの光は……人の心を照らす光です」
サラが魔法生物を抱きしめる。
「影の子……救われたんやね……」
カイルが呟く。
「おばちゃん先生……
僕も……誰かを救える人になりたい」
トモエは空を見上げた。
(影の核……)
(あんたは……消えたんやない)
(救われたんや)
「よっしゃ。
最終層、行くで!!」
虎柄シャツが風に揺れた。




