第31話:『おばちゃん、北の山の“影の試練”を受ける』
北の山のふもとに立った瞬間、
トモエは肌がひりつくような冷気を感じた。
「……空気が違うな」
山の上空には黒い雲が渦を巻き、
時折、紫色の光が走っている。
ユウトが不安そうに言った。
「おばちゃん……ほんまにここ、入るん?」
「入るで。ここで引き返したら、街が危ないやろ」
バルドが前に立つ。
「よし、全員ついてこい! まずは第一層や!」
エリナが結界を張りながら言った。
「この山……魔力が乱れすぎています。
皆さん、気を抜かないでください」
サラは魔法生物を飛ばし、偵察を開始する。
「……魔物の気配は薄いけど……何かが“見てる”」
カイルは杖を握りしめた。
「胸が……ざわざわする」
トモエは深呼吸した。
(ここからが本番や)
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◆ 第一層:影の森
山道を進むと、木々が黒く染まり、
まるで夜のような暗さが広がっていた。
「なんやここ……昼間やのに真っ暗やん」
ユウトがトモエの袖をつかむ。
「おばちゃん……怖い」
「大丈夫や。うちがおる」
バルドが剣を構える。
「気ぃつけろ。何か出るぞ」
しかし――
出てきたのは魔物ではなかった。
「……あれ?」
木々の間から、黒い“影”がゆらゆらと揺れている。
形は曖昧で、目も口もない。
ただ、黒い煙のような存在。
エリナが息を呑む。
「これは……“影の残滓”です」
「残滓?」
「影の核から漏れ出した負の魔力のかけら……
魔物ではありませんが、心に作用します」
サラが震えた声で言った。
「……なんか、胸が苦しい」
影の残滓が近づくと、
仲間たちの表情が曇っていく。
カイルが膝をついた。
「……やだ……また暴走する……」
「カイル!?」
ユウトも顔を歪める。
「おばちゃん……僕、怖い……」
「ユウト!」
バルドでさえ、額に汗を浮かべていた。
「くっ……胸が重い……」
エリナが叫ぶ。
「影の残滓は“心の弱さ”を刺激するんです!
このままでは……!」
トモエは影を睨んだ。
(こいつら……心を狙ってくるんか)
(なら――)
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◆ おばちゃんの“光”
トモエは一歩前に出た。
「みんな、下がり!」
影の残滓がトモエに向かって伸びる。
「シャアアアア……」
トモエは胸に手を当てた。
(怖い……)
(でも――)
(みんなを守らなあかん)
「マナシールド!!」
――ドォォォォォンッ!!
光の盾が広がり、影の残滓を弾き飛ばした。
エリナが驚く。
「おばちゃんさん……魔力が安定してる……!」
「みんながおるからや」
影の残滓が再び襲いかかる。
「シャアアアアアッ!!」
トモエは叫んだ。
「うちはな――
みんなの笑顔、守りたいんや!!」
――パァァァァァッ!!
トモエの体から光が溢れ、
影の残滓が一斉に消えていく。
「ぎゃあああああっ!!」
光が森を照らし、
黒い霧が晴れていった。
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◆ 影の正体
静けさが戻る。
ユウトが駆け寄る。
「おばちゃん! 大丈夫!?」
「大丈夫や。ちょっと疲れたけどな」
カイルも息を整えながら言った。
「……おばちゃん先生の光……すごかった」
エリナが分析するように言った。
「影の残滓は、心の弱さに反応して増幅します。
でも、おばちゃんさんの魔力は“心を照らす力”。
だから影を払えるんです」
サラが言った。
「おばちゃんさんの光……あったかかった」
バルドが腕を組む。
「やっぱりお前は街の光やな」
トモエは照れくさく笑った。
「光って……うちは虎柄のおばちゃんやで?」
「虎柄の光でもええやろ!」
みんなが笑った。
(……せやな。虎柄でも光は光や)
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◆ しかし、影はまだ終わらない
そのとき――
――ゴゴゴゴゴ……
地面が揺れた。
「な、なんや!?」
「地震……?」
「違う……影の核が反応してる!」
エリナが青ざめた。
「第一層の影が消えたことで……
“本体”がこちらに気づいたんです!」
ユウトが震える声で言った。
「おばちゃん……どうするん?」
「決まってるやろ」
トモエは山の奥を見つめた。
「進むで」
バルドが頷く。
「よし、第二層へ向かうぞ!」
サラが魔法生物を飛ばす。
「偵察開始します!」
カイルが杖を握りしめる。
「僕……もう逃げへん」
ユウトがトモエの手を握る。
「おばちゃん……一緒に行こ」
「せやな。行こか」
トモエは深呼吸した。
(影の核……)
(うちは、あんたを止めに来たんや)
「よっしゃ――
第二層、攻略開始や!!」
虎柄シャツが風に揺れた。




