第29話:『おばちゃん、北の山へ向けて仲間を選ぶ』
リューネの朝は、昨日よりさらに重かった。
空気が冷たく、街の上空には薄い黒雲が漂っている。
トモエは宿屋の窓を開け、深呼吸した。
(……いよいよ、近づいてきてるんやな)
昨日、北の山へ向かう決意をした。
だが、胸の奥にはまだ不安が残っている。
宿屋の女将・ミーナが声をかけてきた。
「おばちゃんさん……今日、街の人たちが“集会”を開くそうですよ」
「集会?」
「北の山へ行くメンバーを決めるんだとか……」
トモエは目を丸くした。
「え、みんな本気なん?」
「本気ですよ。おばちゃんさんを一人で行かせるつもりはありませんから」
(……ほんま、ええ街やな)
トモエは虎柄シャツを整え、市場へ向かった。
---
◆ 市場の“決起集会”
市場に着くと、すでに大勢の人が集まっていた。
中央には簡易のステージが作られ、鍛冶屋のバルドが立っている。
「よし、全員揃ったな!」
「今日は“北の山遠征隊”を決める!」
「おばちゃんを守るためや!」
市場がどよめく。
「おばちゃん、来たで!」
「今日こそ、うちらの覚悟見せるんや!」
トモエは慌てて手を振った。
「ちょ、ちょっと待ち! うちはそんな大層なもんちゃうで!」
「大層や!」
「めっちゃ大層や!」
「街の光や!」
(また光言われた……)
ユウトが駆け寄ってきた。
「おばちゃん! 今日は“仲間選び”の日や!」
「仲間選びって……なんやそのRPGみたいな展開」
バルドが言った。
「トモエ、お前が選べ。
誰と一緒に北の山へ行くか、決めるのはお前や」
トモエは目を瞬いた。
「うちが……選ぶん?」
「せや。お前が一番、誰を信頼してるかや」
市場の人々が一斉に前へ出た。
「おばちゃん、うちも行くで!」
「わしもや!」
「魔法で援護するで!」
「薬草持っていくわ!」
「料理は任せて!」
トモエは胸が熱くなった。
(こんなに……うちのために……)
---
◆ 候補者たち
バルドが一人ずつ紹介していく。
● バルド(鍛冶屋)
「前衛は任せろ! 魔獣相手なら負けへん!」
● エリナ(魔法学校教師)
「後衛支援と結界魔法が得意です。
おばちゃんさんの魔力の安定も手伝えます」
● サラ(郵便局員)
「魔法生物の扱いに慣れてます。
偵察と連絡は任せてください」
● リオ(市場の少年)
「僕、足速いで! 伝令役やる!」
● カイル(魔法学校の問題児)
「……僕も行く。おばちゃん先生を守りたい」
トモエは驚いた。
「カイル……あんた、ほんまにええん?」
「うん。僕……もう逃げへん」
(……成長したなぁ)
---
◆ しかし、占い師が口を挟む
「……静かに」
黒いローブの占い師が現れた。
「またあんたか……」
「あなたたちの覚悟、見せてもらったわ」
占い師は市場の人々を見渡した。
「だが――全員を連れて行くのは危険」
「なんでや?」
「影の核は“心の弱さ”を狙う。
人数が多いほど、影に飲まれる者が出る」
市場がざわつく。
「じゃあ……どうしたらええん?」
「“心が強く結ばれた者”だけを連れて行くのよ」
トモエは眉をひそめた。
「心が強く結ばれた者……?」
占い師は静かに言った。
「あなたが“本当に信じている人”を選びなさい」
---
◆ おばちゃんの選択
市場が静まり返る。
トモエは一人ひとりの顔を見た。
(誰を選ぶべきなんやろ)
(誰なら……一緒に戦えるんやろ)
(誰なら……うちを支えてくれるんやろ)
そして――
トモエは口を開いた。
---
◆ 一人目:ユウト
「まずは……ユウト」
「えっ……僕!?」
「ユウトは……うちの心を支えてくれた。
一緒に来てほしい」
ユウトは涙ぐんだ。
「……うん!」
---
◆ 二人目:バルド
「次は……バルド」
「任せとけ!」
「前衛はあんたしかおらん」
---
◆ 三人目:エリナ
「エリナ先生」
「……光栄です」
「うちの魔力、あんたがおらんと暴走するかもしれへん」
---
◆ 四人目:サラ
「サラさん」
「はい!」
「偵察と連絡、頼りにしてるで」
---
◆ 五人目:カイル
「最後は……カイル」
「……僕でええん?」
「あんたは強い子や。
自分の弱さと向き合える子は、影に飲まれへん」
カイルは涙をこらえながら頷いた。
「……ありがとう」
---
◆ 選ばれなかった人々
市場の人々は静かに頷いた。
「おばちゃんの選択なら……間違いない」
「うちらは街を守るで!」
「帰ってくるの待ってるからな!」
トモエは胸が熱くなった。
(……こんなに信じてくれるなんて)
---
◆ 出発前夜
夕暮れの街を歩きながら、トモエは空を見上げた。
黒い雲が、北の山の上で渦を巻いている。
(いよいよやな……)
ユウトが隣に来た。
「おばちゃん……怖い?」
「そら怖いで」
「でも……僕らがついてる」
「……せやな」
トモエは深く息を吸った。
「よっしゃ。明日、北の山へ出発や」
虎柄シャツが夕風に揺れた。




