第26話:『おばちゃん、街のみんなに守られる』
リューネの朝は、どこか張りつめた空気に包まれていた。
昨日、森の“黒い霧”を浄化した影響が、まだ街全体に残っているようだった。
トモエは宿屋の窓を開け、深呼吸した。
(空気は澄んでるのに……胸の奥がざわざわするわ)
宿屋の女将・ミーナが心配そうに声をかけてきた。
「おばちゃんさん……昨日のこと、本当に大丈夫でしたか?」
「大丈夫や。ちょっと怖かったけどな」
「街の人たち、みんな心配してましたよ」
「え、そんな大げさな……」
ミーナは首を振った。
「大げさじゃありません。おばちゃんさんは……街の光なんですから」
「また光言うて……うちは虎柄のおばちゃんやで?」
「虎柄の光でも、立派な光ですよ」
トモエは照れくさく笑った。
---
◆ 市場の異変
市場に向かうと、いつもとは違う光景が広がっていた。
「……あれ?」
店主たちが集まり、何やら話し合っている。
「おばちゃん、おはよう……」
「昨日の霧、ほんま怖かったで……」
「街の外に出るの、しばらく控えたほうがええんちゃうか……?」
ユウトが駆け寄ってきた。
「おばちゃん! みんな、おばちゃんのこと心配してるんだよ!」
「なんでや?」
「昨日の霧……おばちゃんが一人で浄化したって聞いて……」
トモエは苦笑した。
「いや、うちはただ叫んだだけや」
「その“叫び”がすごいんだよ!」
そこへ、鍛冶屋のバルドが腕を組んで現れた。
「トモエ! お前、昨日森に一人で行ったんだってな!」
「せやけど……」
「危険すぎるわ! 次からは俺も連れていけ!」
「なんであんたが来るん!?」
「街の英雄を守るのは、街の男の役目だろ!」
市場の人々が口々に言った。
「おばちゃん一人で危険なとこ行かせられへん!」
「今度何かあったら、うちらも行くで!」
「おばちゃんは街の宝や!」
トモエは目を丸くした。
「ちょ、ちょっと待ち! うちはそんな大層なもんちゃうで!」
「大層や!」
「めっちゃ大層や!」
「おばちゃんおらんかったら、街終わってたで!」
ユウトが言った。
「おばちゃん……みんな、おばちゃんのこと大事なんだよ」
トモエは胸がじんわり温かくなった。
(……こんなふうに言われたん、いつぶりやろ)
---
◆ 占い師、再び現る
そのとき――
「……静かに」
市場の空気が一瞬で変わった。
黒いローブの占い師が、音もなく現れたのだ。
「またあんたか……」
「昨日の霧の件、確認しに来たのよ」
占い師はトモエを見つめた。
「あなた……無理をしたわね」
「別に無理なんかしてへん」
「嘘ね。あなたの魔力、少し乱れている」
トモエは目をそらした。
(……バレてる)
占い師は続けた。
「“影”はまだ消えていない。昨日の霧は……ほんの前兆にすぎない」
「前兆……?」
「本当の災いは、もっと大きい」
市場がざわついた。
「なんやて……?」
「まだ続くんか……?」
「おばちゃん、大丈夫なんか……?」
占い師は静かに言った。
「だが――あなたは一人ではない」
トモエは目を瞬いた。
「どういう意味や?」
「あなたを守る“光”が、この街に生まれつつある」
占い師は市場の人々を見渡した。
「この街の人々の“想い”が、あなたを支えている」
「……想い?」
「あなたが救ってきた人々の心が、あなたを守る力になる」
トモエは胸が熱くなった。
(うち……そんなふうに思われてたんや)
---
◆ 街の人々の決意
バルドが前に出た。
「占い師よ。災いが来るなら……俺たちも戦う」
「そうや!」
「おばちゃんだけに任せへん!」
「街はみんなで守るんや!」
ユウトも叫んだ。
「おばちゃんは……僕たちの光や!」
「だから、僕たちも……おばちゃんを守る!」
トモエは思わず涙がこぼれそうになった。
「みんな……なんでそこまで……」
「決まってるやろ!」
「おばちゃんが、うちらを守ってくれたからや!」
「今度は、うちらの番や!」
トモエは唇を噛んだ。
(こんな……こんな温かい街、他にあるやろか)
---
◆ 占い師の予言
占い師は静かに言った。
「災いは……“北の山”から来る」
「北の山……?」
「そこに眠る“影の核”が、目覚めようとしている」
市場がざわつく。
「影の核って……なんや?」
「魔力の負の集合体よ。世界を蝕む存在」
「そんなもん、うちが行って――」
「あなた一人では無理よ」
トモエは固まった。
「……え?」
「あなたの力は“心を照らす光”。だが、影の核は“世界の闇”。性質が違う」
「じゃあ……どうしたらええん?」
「街の人々と共に行くのよ」
トモエは目を見開いた。
「みんなと……?」
「ええ。あなたは光。だが光は、誰かの想いがあってこそ輝く」
占い師は微笑んだ。
「あなたは……一人じゃない」
---
◆ 夕暮れの帰り道
市場を出ると、ユウトが隣に立った。
「おばちゃん……怖い?」
「そら怖いで」
「でも……一人じゃないよ」
「……せやな」
トモエは空を見上げた。
夕焼けが街を優しく照らしていた。
(うちは……この街の光なんやろか)
(でも……光は一人では輝かれへん)
(みんながおるから……うちは強くなれるんや)
「よっしゃ。明日も頑張るで」
虎柄シャツが夕風に揺れた。




