第23話:『おばちゃん、魔法劇場で主役になる』
リューネの朝は、今日も穏やかだった。
しかし、トモエの胸には、昨日の郵便局の騒動の余韻が残っていた。
(魔法生物って可愛いけど……暴走したら大変やなぁ)
宿屋の女将・ミーナが声をかけてきた。
「おばちゃんさん、今日はどこへ行くんです?」
「今日はなぁ……ユウトが“面白いとこある”って言うから、ついて行くわ」
「面白いところ……?」
「なんか“劇場”らしいで」
「魔法劇場ですね。あそこは楽しいですよ」
トモエは目を輝かせた。
「劇場かぁ……うち、舞台とか好きやねん」
虎柄シャツを整え、トモエは市場へ向かった。
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◆ 魔法劇場へ
市場に着くと、ユウトが手を振っていた。
「おばちゃん! 今日は劇場に行こ!」
「おはよう、ユウト。案内頼むで」
「任せて!」
二人は街の中央にある大きな建物へ向かった。
【リューネ魔法劇場】
入り口には、今日の公演のポスターが貼られていた。
『勇者と魔王の物語 〜光の絆〜』
トモエは目を丸くした。
「なんやこれ……めっちゃ本格的やん!」
「この劇団、街で一番人気なんだよ!」
「楽しみやわぁ」
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◆ 劇場の中へ
劇場の中は、魔力で光るランプが天井に浮かび、
舞台には魔法で動く背景が映し出されていた。
「すごい……!」
「魔法劇場は、魔法で演出するんだよ!」
観客席には、街の人々が続々と集まっていた。
「おばちゃんも来たんや!」
「今日は名作やで!」
「楽しんでいき!」
トモエは笑顔で手を振った。
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◆ 公演開始
舞台にスポットライトが当たり、劇団員たちが登場した。
「我こそは勇者アルト!」
「私は光の巫女・リリア!」
「そして……世界を滅ぼす魔王だ!」
観客が拍手を送る。
トモエはワクワクしながら見ていた。
(みんな上手やなぁ……)
しかし――
そのとき。
「……あれ?」
舞台の裏から、慌ただしい声が聞こえた。
「どうしよう……!」
「魔王役の人が倒れた!」
「魔力酔いだ!」
「代役がいない……!」
観客席がざわつく。
「え、どうなるん?」
「公演、中止か……?」
「楽しみにしてたのに……」
ユウトがトモエの袖を引っ張った。
「おばちゃん……なんとかできない?」
「なんとかって……うち、役者ちゃうで?」
「でも……おばちゃんならできるよ!」
(なんでそうなるん……!?)
そこへ、劇団の団長が走ってきた。
「あなたが……噂のトモエさんですか!?」
「なんで知ってんの!?」
「街の英雄だと聞きました! どうか……魔王役をお願いします!」
「なんでやねん!!」
観客席からも声が上がる。
「おばちゃん、やってや!」
「絶対おもろいで!」
「見たい見たい!」
トモエは頭を抱えた。
「しゃあないなぁ……ほな、やったるわ!」
劇場が大歓声に包まれた。
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◆ おばちゃん、魔王役デビュー
舞台裏で衣装を渡される。
「これが魔王の衣装です!」
「黒いマント……角のついた兜……」
「似合ってますよ!」
「似合ってたらアカンやろ!」
ユウトが笑った。
「おばちゃん、かっこいいよ!」
「褒められてる気ぃせぇへん!」
団長が言った。
「セリフは……覚えなくて大丈夫です! 即興で!」
「即興!?」
「あなたならできます!」
(なんでそんな信頼されてんねん……)
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◆ 舞台へ
スポットライトが当たり、トモエが登場した。
「……我こそは……魔王トモエや!!」
観客が大爆笑した。
「名前そのままやん!」
「虎柄の魔王や!」
「強そう!!」
勇者役の青年が震えながら言った。
「ま、魔王……! お前を倒しに来た!」
「倒されへんで! うちはまだ買い物もしてへん!」
観客が爆笑する。
巫女役の少女が言った。
「魔王よ……なぜ世界を滅ぼそうとするのですか!」
「滅ぼすわけないやろ! みんな仲良うしたらええねん!」
観客が拍手喝采。
勇者が困惑しながら言った。
「え、えっと……じゃあ……どうすれば……?」
「まずは腹ごしらえや!」
トモエはポケットから、昨日の残りの“たこ焼き”を取り出した。
「これ食べて落ち着き!」
勇者と巫女がたこ焼きを食べる。
「……うまい!」
「魔王……あなたは優しいのですね……!」
観客が涙を流しながら笑っていた。
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◆ しかし、事件は起きる
舞台の魔法装置が突然暴走し、背景の炎が本物の火になった。
「うわぁぁぁっ!」
「火が出てる!」
「危ない!!」
団長が叫んだ。
「魔力装置が暴走してる! 止められない!」
「おばちゃんさん、助けて!!」
トモエは叫んだ。
「マナシールド!!」
――ドォォォォォンッ!!
光の盾が舞台全体を包み、炎を弾き飛ばした。
観客が息を呑む。
「すごい……!」
「魔王が……舞台を救った!」
「魔王やなくて、おばちゃんや!」
トモエは火を見つめ、手をかざした。
「マナドレイン!!」
――ふわぁぁぁ。
炎が吸い取られ、舞台は静かになった。
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◆ 大団円
勇者役の青年が叫んだ。
「魔王トモエ……あなたは……世界を救った!」
「せやろ? うちはやるときはやる女やねん」
観客が総立ちになり、拍手が鳴り止まなかった。
「おばちゃん最高!!」
「魔王トモエ、続編希望!!」
「また舞台出てや!!」
トモエは照れくさそうに笑った。
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◆ 帰り道
劇場を出ると、ユウトが言った。
「おばちゃん、今日もすごかったね」
「せやろ? うちはやるときはやる女やねん」
「劇団の人、また来てほしいって言ってたよ」
「いや、うちは役者ちゃうねんけどなぁ……」
ユウトは笑った。
「でも、おばちゃんが出ると……みんな笑顔になるよ」
「そうか?」
「うん。街の人、みんなそう思ってる」
トモエは空を見上げた。
夕焼けが街を優しく染めていた。
「よっしゃ。明日も頑張るで」
虎柄シャツが夕風に揺れた。




