第19話:『おばちゃん、魔法鍛冶屋で炎上する』
リューネの朝は、今日も穏やかだった。
しかし、トモエの胸には少しだけワクワクがあった。
(今日は鍛冶屋さんに行くんや。異世界の武器とか見てみたいわぁ)
昨日は魔法植物園で大暴れしたが、街の人々はすっかり慣れてしまい、
「おばちゃんが何かやらかす=街が救われる」
という謎の信頼が生まれていた。
宿屋の女将・ミーナが声をかけてきた。
「おばちゃんさん、今日はどこへ行くんです?」
「鍛冶屋さんや。ユウトが“絶対おもしろい”って言うからな」
「鍛冶屋……気をつけてくださいね」
「なんでや?」
「火と魔力を扱う場所ですから……おばちゃんさんの魔力が暴走したら……」
「……確かに危なそうやな」
トモエは苦笑しながら虎柄シャツを整え、宿屋を出た。
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◆ 魔法鍛冶屋へ
市場に着くと、ユウトが待っていた。
「おばちゃん! 今日は鍛冶屋行こ!」
「おはよう、ユウト。案内頼むで」
「任せて!」
二人は市場の奥にある、黒い煙突がそびえる建物へ向かった。
【魔法鍛冶屋・バルド工房】
扉を開けると、熱気と金属の匂いが押し寄せた。
「おお……暑っ!」
「鍛冶屋だからね!」
中では、筋骨隆々の男が巨大なハンマーを振り下ろしていた。
「どりゃああああっ!!」
――ガァァァンッ!!
火花が散り、金属が赤く輝く。
男はトモエたちに気づき、ハンマーを置いた。
「おう、ユウトか。そっちの虎柄は……誰や?」
「この人、トモエさん! 街の英雄だよ!」
「英雄ちゃうわ!」
男は目を丸くした。
「お前が……噂の“虎柄の魔力おばちゃん”か」
「なんでその呼び名が定着しとんねん!」
男は豪快に笑った。
「俺はバルド。この工房の親方や。今日は見学か?」
「せや。異世界の鍛冶屋、興味あってな」
「なら、特別に見せてやるよ」
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◆ 魔法鍛冶の世界
バルドは赤く熱した金属を取り出し、魔力を込めながら叩き始めた。
「どりゃああああっ!!」
――ガァァァンッ!!
金属が青く光り、形が変わっていく。
「すごい……!」
「これが魔法鍛冶や。魔力を金属に流し込み、強化するんだ」
トモエは目を輝かせた。
「うちもやってみたいわぁ」
「ははは! 素人には無理だ。魔力の制御が難しいからな」
ユウトが小声で言った。
「おばちゃん、魔力制御……苦手だよね」
「言うな!」
バルドは続けた。
「まぁ、見てるだけなら安全だ。火花に気をつけろよ」
そのとき――
「……へっ……へっ……」
(あかん……! このタイミングでくしゃみは……!)
「へくしっ!!」
――ドォォォォォンッ!!
トモエのくしゃみが爆発し、鍛冶場の火が一気に燃え上がった。
「うわぁぁぁっ!!」
「火が暴走してる!」
「おばちゃん、またやった!」
バルドが叫んだ。
「こらぁ! 火が魔力を吸って暴走してるぞ!」
「どうしたらええん!?」
「魔力を吸収して火を弱めるんだ!」
「任しとき!」
トモエは火に向かって手をかざした。
「マナドレイン!!」
――ふわぁぁぁ。
火の魔力が吸い取られ、炎が弱まっていく。
「よし……あとちょっとや!」
しかし――
「ゴォォォォォッ!!」
炎が最後の力を振り絞り、巨大な火柱となって襲いかかってきた。
ユウトが叫んだ。
「おばちゃん!!」
トモエは叫んだ。
「マナシールド!!」
――ドォォォォォンッ!!
光の盾が現れ、火柱を弾き飛ばした。
炎は消え、鍛冶場は静かになった。
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◆ バルドの驚き
バルドは呆然とした顔でトモエを見つめた。
「……お前……何者だ?」
「ただの大阪のおばちゃんやで?」
「いや、絶対違うやろ!」
ユウトが笑った。
「おばちゃん、すごいんだよ!」
「せやろ? うちはやるときはやる女やねん」
バルドは腕を組んだ。
「……気に入った! お前、うちの工房で働かんか?」
「働かんわ!」
「給料は弾むぞ!」
「うちは鍛冶屋ちゃうねん!」
バルドは大笑いした。
「ははは! まぁ、また遊びに来い。お前みたいな奴、嫌いじゃない」
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◆ 魔法武器の贈り物
バルドは棚から小さなペンダントを取り出した。
「これは……“マナガードの護符”や。魔力暴走を少し抑えてくれる」
「え、うちに?」
「お前みたいな魔力バカには必要だろ」
「誰が魔力バカや!」
ユウトが笑った。
「おばちゃん、似合うよ!」
「そうか?」
トモエは護符を首にかけた。
――ぽわん。
体の中の魔力が、少しだけ落ち着いた気がした。
「なんか……楽になったわ」
「それは良かった」
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◆ 帰り道
鍛冶屋を出ると、ユウトが言った。
「おばちゃん、今日もすごかったね」
「せやろ? うちはやるときはやる女やねん」
「バルドさん、めっちゃ気に入ってたよ」
「濃いおっちゃんやったなぁ」
ユウトは笑った。
「おばちゃんが来てから、街の人みんな元気になってるよ」
「そうか?」
「うん。みんな笑ってる」
トモエは空を見上げた。
異世界の空は、今日も優しい色をしていた。
「よっしゃ。明日も頑張るで」
虎柄シャツが夕風に揺れた。




