第124話:『おばちゃん、霧の谷の“呼び声”を聞く』
ノルディアの朝は、
まるで新しい世界が始まったかのように澄んでいた。
雪は光を反射し、
街には人々の笑い声が戻り、
凍っていた心が少しずつ温かさを取り戻していく。
ユウトが伸びをしながら言った。
「おばちゃん!!
なんか……
今日の空、めっちゃ綺麗やな!!
昨日までのノルディアと全然違うで!!」
トモエは空を見上げた。
「せやな。
影が消えたら……
こんなに明るいんやなぁ」
カイルは微笑んだ。
「ノルディアは本来、
“光と氷の国”なんです。
影が消えた今、
本来の姿に戻りつつあるんですよ」
リリアは胸に手を当てた。
「よかった……
本当に……よかった……
みんな……
笑ってる……」
セイルは静かに言った。
「影の冬は終わった。
だが……
世界の影はまだ残っている」
エルミナは深く頭を下げた。
「……皆さん……
本当にありがとうございました……
ノルディアは……
あなた方の恩人です……」
トモエは照れくさそうに笑った。
「そんな大層なもんやないで。
うちはただ……
困っとる人を助けたかっただけや」
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◆ ◆ ◆
◆ 旅立ちの準備
ノルディアの人々は、
トモエたちに食料や防寒具を持たせてくれた。
ユウトは大きな袋を背負いながら言った。
「おばちゃん!!
これ全部持っていってええんか!?
めっちゃ豪華やで!!」
カイルは苦笑した。
「ノルディアの人たちの“感謝”ですよ。
ありがたく受け取りましょう」
リリアはマフラーを巻き直しながら言った。
「なんだか……
旅立つのが寂しいね……
でも……
行かなきゃ……」
セイルは静かに言った。
「霧の谷は、
ノルディアの南に広がる“境界の地”。
影の冬が終わった今、
次に動く影がいるとすれば……
あそこだ」
エルミナは不安そうに言った。
「……霧の谷は……
古くから“迷いの地”と呼ばれています……
どうか……
お気をつけて……」
トモエは頷いた。
「心配せんといて。
うちらは強いで」
ユウトが胸を張った。
「せや!!
おばちゃんがおるからな!!」
トモエはユウトの頭を軽く叩いた。
「調子乗りぃな」
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◆ ◆ ◆
◆ ノルディアを後にして
街を出ると、
ノルディアの白銀の景色が広がっていた。
雪原は静かで、
風は優しく、
影の気配はもうどこにもない。
カイルが地図を広げた。
「霧の谷までは……
ここから南へ二日の道のりです。
途中に“白霧の森”がありますが……
そこが少し厄介で……」
ユウトが首をかしげた。
「森なんか怖ないやろ?
氷の峠よりマシやで!!」
リリアは不安そうに言った。
「でも……
“白霧”って……
なんだか嫌な響き……」
セイルは静かに言った。
「白霧の森は、
“記憶を揺らす霧”が出ると言われている。
影の冬とは関係ないが……
油断は禁物」
トモエは前を見据えた。
(記憶を揺らす霧……
なんや嫌な予感がするな)
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◆ ◆ ◆
◆ 白霧の森の入口
二日後。
トモエたちは“白霧の森”の入口に立っていた。
森は静かで、
木々は白く、
地面には薄い霧が漂っている。
ユウトが眉をひそめた。
「おばちゃん……
なんか……
この森、変やで……
音がせぇへん……」
カイルは魔力を探った。
「霧の魔力……
かなり強いです……
これは……
自然の霧じゃない……」
リリアは震えた。
「怖い……
なんだか……
胸がざわざわする……」
セイルは静かに言った。
「白霧の森は、
“心の記憶”を揺らす。
過去の影を見せることもある」
エルミナは不安そうに言った。
「……どうか……
気をつけてください……
この森は……
影とは違う危険があります……」
トモエは森を見つめた。
(心の記憶……
また心の試練かいな)
「よっしゃ。
行こか、みんな」
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◆ ◆ ◆
◆ 森の中で起こる“異変”
森に入ると、
霧が濃くなり、
視界が白く染まった。
ユウトが叫んだ。
「おばちゃん!!
なんも見えへん!!
手ぇ離したらあかんで!!」
トモエはユウトの手を握った。
「離さへん。
絶対に離さへん」
しかし――
その瞬間だった。
霧が渦を巻き、
仲間たちの姿がかき消えた。
カイルの声が遠くから聞こえる。
「みんな!!
気をつけて!!
霧が……
記憶を揺らして……
幻を見せてくる……!」
リリアの声も震えていた。
「怖い……
なんで……
こんなに胸が苦しいの……」
セイルの声は冷静だった。
「光の継承者。
この霧は……
“あなたの記憶”にも触れようとしている」
エルミナの声はかすかに震えていた。
「……どうか……
自分を見失わないで……
この霧は……
心の奥を揺らします……」
トモエは叫んだ。
「みんな!!
声出しぃや!!
うちはここにおる!!」
しかし――
返事はない。
(あかん……
またひとりや)
そのとき――
霧の奥から声が聞こえた。
「……トモエ……
なんで……
あのとき……
助けてくれへんかったん……?」
トモエは息を呑んだ。
(この声……
まさか……)
霧の中から現れた影は――
トモエが“二度と会えない”と思っていた人物の姿をしていた。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
第124話では、
ノルディア編を終えたおばちゃんたちが
新たな舞台“霧の谷”へ向かうため、
白霧の森に足を踏み入れる回でした。
影の冬は終わったものの、
世界にはまだ“別の影”が潜んでいる。
白霧の森は、
影とは違う“心の記憶”を揺らす場所。
そして最後に現れたのは、
おばちゃんが“過去に失った誰か”の姿。
次回、第125話では
白霧の森が見せる“過去の幻影”と、
おばちゃんが向き合う“忘れられない記憶”
が描かれます。
これからも、おばちゃんの物語を
どうぞよろしくお願いいたします。




