第119話:『おばちゃん、“諦めの影”に飲まれそうになる』
孤独の影が光に溶けたあと、
ノルディア中心広場には再び黒い霧が立ち込めた。
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
また霧や!!
今度はなんや!!」
カイルは魔力を探りながら顔を青くした。
「影の濃度が……
さっきより重い……
これは……
“諦めの影”……!」
リリアは胸を押さえた。
「諦め……
なんだか……
胸が沈む……
息が重い……」
セイルは静かに言った。
「孤独の影は“助けを求める声”。
だが諦めの影は……
“声すら出せなくなった心”」
エルミナは震える声で言った。
「……ノルディアの人々は……
長い冬の中で……
希望を失っていきました……
その積み重ねが……
諦めの影を生んだのです……」
トモエは前を見据えた。
(孤独より……
もっと深い影か)
黒い霧が渦を巻き、
トモエの視界を飲み込んだ。
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◆ ◆ ◆
◆ “諦めの街”に立つ
霧が晴れると、
トモエはまた別の街に立っていた。
雪は降り続け、
家々は崩れかけ、
道には誰もいない。
孤独の街とは違う。
ここには――
“諦め”が満ちていた。
ユウトの声が遠くから聞こえる。
「おばちゃん!!
返事して!!」
しかしその声も、
すぐに霧に飲まれた。
(またひとりか……
せやけど……
今度は違う気配や)
そのとき、
足元から声が聞こえた。
『……もう……いい……
どうせ……変わらない……』
トモエは振り返った。
そこには、
雪に座り込んだ“影の人々”がいた。
顔はなく、
身体は崩れかけ、
ただ“諦め”だけが漂っている。
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◆ ◆ ◆
◆ ノルディアの“諦め”が語りかける
影の人々は、
ゆっくりとトモエを見上げた。
『……助けなんて……来ない……』
『……何をしても……無駄……』
『……もう……立ち上がれない……』
トモエは胸が締め付けられた。
(これは……
ノルディアの人たちが……
長い冬の中で抱えてきた“絶望”や)
影たちは続けた。
『……あなたも……
いずれ……
諦める……』
『……誰も……
救えない……』
『……あなたの光も……
いずれ……消える……』
トモエは一歩も引かなかった。
「うちは……
諦めへん」
影たちは揺れた。
『……どうせ……
無駄……』
「無駄やない。
うちは……
何度でも立ち上がる」
影たちはざわめいた。
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◆ ◆ ◆
◆ “諦めの影”が形を持つ
影の人々が溶け合い、
巨大な影の塊となった。
その姿は、
人でも獣でもない。
ただ、
“心が折れた形”そのもの。
カイルの声が遠くから聞こえた。
「おばちゃん先生!!
諦めの影は……
心の力を奪います!!
気をつけて!!」
リリアの声も震えていた。
「おばちゃんさん……
戻ってきて……!」
セイルの声は冷静だった。
「光の継承者。
諦めの影は……
“希望を奪う力”を持つ。
心が弱れば……
飲まれる」
エルミナの声は涙に濡れていた。
「……どうか……
ノルディアの心を……
救ってください……」
影は低く唸った。
『……希望など……
幻想……』
トモエは影を見据えた。
「幻想でもええ。
それでも……
希望は必要なんや」
影は揺れた。
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◆ ◆ ◆
◆ “諦めの影”の囁き
影はトモエに近づき、
耳元で囁いた。
『……あなたは……
誰も救えない……』
トモエは拳を握った。
「救えるかどうかやない。
救いたいんや」
影は続けた。
『……あなたの光は……
弱い……
いずれ……消える……』
トモエは首を振った。
「弱くてもええ。
消えそうでもええ。
それでも……
うちは光を持ち続ける」
影はさらに囁いた。
『……あなたは……
ひとりでは……
立てない……』
トモエは笑った。
「せやから仲間がおるんや」
影は震えた。
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◆ ◆ ◆
◆ “諦めの影”を照らす光
トモエは胸に手を当てた。
(うちは……
ひとりやない)
「ユウトも、
カイルも、
リリアも、
セイルも、
エルミナもおる。
うちは……
仲間と一緒に進むんや」
光が溢れ、
影の塊を包んだ。
影は苦しそうに揺れた。
『……あたたかい……
こんな光……
知らない……』
トモエは静かに言った。
「諦めてもええ。
立ち上がれへん日があってもええ。
せやけど……
それでも前に進みたいって気持ちは……
消えへん」
影は光に溶け、
雪の中へ消えていった。
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◆ ◆ ◆
◆ 試練の終わり
霧が晴れ、
現実の広場が戻ってきた。
ユウトが駆け寄る。
「おばちゃん!!
ほんまに大丈夫なんか!!
めっちゃ心配したで!!」
トモエは笑った。
「大丈夫や。
ちょっと諦めと喧嘩してただけや」
カイルは息をついた。
「諦めの影……
ノルディアの人々の“心の折れ”……
それを受け止めたんですね……」
リリアは涙を拭った。
「おばちゃんさん……
本当に……
すごい……」
セイルは静かに言った。
「光の継承者。
あなたは“諦めの影”を溶かした。
国の影は……
確実に弱まっている」
エルミナは深く頭を下げた。
「……ありがとうございます……
あなたがいてくださって……
本当に……心強い……」
トモエは前を見据えた。
(次は……
もっと深い影が来る)
「よっしゃ。
行こか、みんな。
試練はまだ続くで」
黒い霧が再び揺れ、
次の影が姿を現し始めた。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
第119話では、
“国の影の試練”の第二段階として、
ノルディアの人々が長い冬の中で抱えてきた
「諦めの影」
が描かれました。
孤独の先にあるのは、
声すら出せなくなる“諦め”。
それは国全体の心が折れた証。
そんな影を、
おばちゃんは“希望を持ち続ける強さ”で照らし、
溶かしていきます。
次回、第120話では
国の影の第三段階:
ノルディアの人々が抱えてきた“怒りの影”
が姿を現します。
これからも、おばちゃんの物語を
どうぞよろしくお願いいたします。




