第118話:『おばちゃん、“孤独の影”に包まれる』
黒い霧が渦を巻き、
ノルディア中心広場は一瞬で闇に包まれた。
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
また霧や!!
気ぃつけて!!」
しかしその声は、
すぐに霧に飲まれて消えた。
トモエの視界は真っ暗になり、
足元の感覚すら曖昧になる。
(また……
心の試練か……)
だが、
前回の“心の底”とは違う。
今回は――
“国の影”が相手だ。
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◆ ◆ ◆
◆ “孤独の街”に立つ
霧が晴れると、
トモエは見知らぬ街に立っていた。
いや――
見知らぬはずなのに、
どこか懐かしい。
雪が降り続け、
家々は凍りつき、
道には誰もいない。
ユウトも、
カイルも、
リリアも、
セイルも、
エルミナもいない。
完全な“ひとり”。
(ここは……
ノルディア……?
せやけど……
なんか違う)
そのとき、
遠くから声が聞こえた。
『……誰か……
誰か……
いないの……?』
トモエは振り返った。
しかし誰もいない。
声だけが、
雪の中に響いていた。
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◆ ◆ ◆
◆ ノルディアの“孤独”が語りかける
声は続いた。
『……寒い……
寂しい……
助けて……
誰か……』
トモエは胸が締め付けられた。
(これは……
ノルディアの人たちの声……
長い冬の中で……
誰にも届かんかった叫びや)
雪が舞い、
影が形を成し始めた。
それは――
人の形をした“孤独の影”。
顔はなく、
輪郭は揺れ、
ただ“寂しさ”だけが伝わってくる。
ユウトの声が遠くから聞こえた。
「おばちゃん!!
どこや!!
返事して!!」
しかしその声も、
すぐに霧に飲まれた。
孤独の影は静かに言った。
『……ひとりは……
怖い……
苦しい……
でも……
誰も……
来てくれなかった……』
トモエは影を見つめた。
「……せやな。
ひとりは……
ほんまに怖い」
孤独の影は揺れた。
『……あなたも……
ひとりだった……
ずっと……
ずっと……』
トモエは息を呑んだ。
(これは……
うちの心にも刺さる言葉や)
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◆ ◆ ◆
◆ “孤独の影”が増えていく
影はひとつではなかった。
雪の中から、
次々と影が現れた。
『……誰か……』
『……寒い……』
『……助けて……』
『……ひとりはいや……』
声が重なり、
街全体が泣いているようだった。
トモエは拳を握った。
(これは……
ノルディアの人たちの“積み重なった孤独”や)
孤独の影たちは、
トモエに向かって手を伸ばした。
『……あなたも……
ひとりになる……』
『……誰も……
あなたを助けてくれない……』
『……あなたの心も……
凍る……』
トモエは一歩も引かなかった。
「うちは……
ひとりやない」
影たちは揺れた。
『……嘘……
みんな……
いなくなる……』
トモエは首を振った。
「うちは知っとる。
ひとりは怖い。
寂しい。
しんどい。
せやけど――
うちには仲間がおる」
影たちはざわめいた。
『……仲間……?』
「せや。
ユウトも、
カイルも、
リリアも、
セイルも、
エルミナもおる。
うちは……
もうひとりやない」
影たちは震えた。
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◆ ◆ ◆
◆ “孤独の影”を抱きしめる
トモエは影のひとつに近づいた。
影は怯えたように後ずさった。
『……来ないで……
どうせ……
捨てるんやろ……』
トモエは静かに言った。
「捨てへん。
あんたらは……
ノルディアの人たちの心や。
うちは……
その痛みを無視せぇへん」
影は震えた。
『……痛い……
苦しい……
寂しい……』
トモエは影を抱きしめた。
冷たい。
凍りつくほど冷たい。
でも――
その奥に、
確かに“人の心”があった。
「大丈夫や。
あんたらはひとりやない。
うちがここにおる」
影は光に包まれ、
ゆっくりと溶けていった。
他の影たちも、
次々と光に変わっていく。
『……ありがとう……』
『……あたたかい……』
『……ひとりじゃ……ない……』
街に静けさが戻った。
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◆ ◆ ◆
◆ 試練の終わり
霧が晴れ、
現実の広場が戻ってきた。
ユウトが駆け寄る。
「おばちゃん!!
無事やったんか!!
めっちゃ心配したで!!」
トモエは笑った。
「大丈夫や。
ちょっと孤独と喧嘩してただけや」
カイルは息をついた。
「国の影……
ノルディアの人々の孤独……
それを受け止めたんですね……」
リリアは涙を拭った。
「おばちゃんさん……
本当に……
すごい……」
セイルは静かに言った。
「光の継承者。
あなたは“孤独の影”を抱きしめた。
それは……
国の影を溶かす第一歩」
エルミナは深く頭を下げた。
「……ありがとうございます……
あなたがいてくださって……
本当に……心強い……」
トモエは前を見据えた。
(次は……
もっと深い影が来る)
「よっしゃ。
行こか、みんな。
試練はまだ続くで」
黒い霧が再び揺れ、
次の影が姿を現し始めた。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
第118話では、
“国の影の試練”の第一段階として、
ノルディアの人々が長い冬の中で抱えてきた
「孤独の影」
が描かれました。
個人の影とは違い、
国全体の痛みが積み重なって生まれた影は、
より深く、より冷たく、より重い。
そんな影を、
おばちゃんは“抱きしめる”ことで溶かしていく。
次回、第119話では
国の影の第二段階:
ノルディアの人々が抱えてきた“諦めの影”
が姿を現します。
これからも、おばちゃんの物語を
どうぞよろしくお願いいたします。




