第113話:『おばちゃん、“氷の王”の声を聞く』
吹雪の試練を越え、
トモエたちは氷の峠の中腹を抜け、
ついに頂上へと向かっていた。
雪は深く、
風は鋭く、
空気は凍りつくほど冷たい。
しかし――
吹雪は止んでいる。
ユウトが息を吐きながら言う。
「おばちゃん……
なんか……
空気が変わったで……
さっきまでの吹雪が嘘みたいや……」
カイルは魔力を探りながら頷いた。
「影の濃度が……
急に安定しています。
これは……
“何かが待っている”気配……」
リリアは胸に手を当てた。
「怖い……
でも……
さっきより心は落ち着いてる……
なんでだろ……」
セイルは静かに言った。
「吹雪の試練を越えた者だけが、
この領域に入れる。
ここは……
“氷の王”の間近」
エルミナはローブを握りしめた。
「……皆さん……
どうか……気をつけてください……
氷の王は……
古い影の“門番”……
そして……
ノルディアの守護者でもあります……」
トモエは眉をひそめた。
「守護者……?
影の味方やないんか?」
エルミナは首を振った。
「いいえ……
氷の王は影の味方ではありません。
ただ……
“古い影”が眠る場所を守っているだけ……
その力は……
時に人を拒むのです……」
トモエは前を見据えた。
(つまり……
敵やないけど、味方でもない……
そんな存在か)
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◆ ◆ ◆
◆ 氷の峠・頂上 ―― “静寂の白”
しばらく進むと、
視界が開けた。
そこは――
白い大地が広がる、
静寂の頂上だった。
風は止み、
雪は降らず、
空は薄い青。
ユウトが目を丸くした。
「おばちゃん……
ここ……
なんか変や……
静かすぎる……」
カイルは魔力を探った。
「魔力の流れが……
完全に止まっています……
まるで……
“時間”が凍っているみたいだ……」
リリアは震えた。
「怖い……
でも……
綺麗……
なんだか……
息をするのもためらうくらい……」
セイルは静かに言った。
「ここは“氷の王の領域”。
この静寂は……
王の力そのもの」
エルミナは深く頭を下げた。
「……氷の王よ……
どうか……
私たちをお導きください……」
その瞬間――
空気が震えた。
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◆ ◆ ◆
◆ 氷の王の声
空が揺れ、
雪が舞い上がり、
白い光が集まり始めた。
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
なんか出てくるで!!
でっかい!!」
光が形を成し、
やがて――
巨大な“氷の王”が姿を現した。
人の形をしているが、
身体は氷でできており、
瞳は深い青。
その存在感は圧倒的で、
ただ立っているだけで空気が震える。
氷の王は静かに言った。
『……光の継承者よ……
よくぞここまで来た……』
トモエは一歩前に出た。
「うちらはノルディアを救いに来たんや。
通してくれへんか?」
氷の王は首を振った。
『……通すことはできぬ……
お前たちが……
“心の温度”を示すまでは……』
ユウトが叫ぶ。
「また心の温度か!!
どんだけ心好きなんや!!」
カイルは冷静に言った。
「氷の王は……
“心の凍結”を最も恐れる存在。
だからこそ、心を試す……」
リリアは震えた。
「怖い……
でも……
進まなきゃ……」
セイルは静かに言った。
「光の継承者。
あなたが試される番です」
エルミナは祈るように言った。
「……どうか……
氷の王の試練を……
越えてください……」
トモエは深呼吸した。
(心の温度……
うちは……
まだ凍ってへん)
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◆ ◆ ◆
◆ 氷の王の試練 ―― “心の凍結”
氷の王が手をかざすと、
トモエの足元に“氷の鏡”が現れた。
鏡の中には――
トモエ自身が映っていた。
しかし、
その姿は“完全に凍っていた”。
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
鏡の中のおばちゃん……
凍ってる!!」
カイルは息を呑んだ。
「これは……
“心が完全に凍った未来”……
古い影に飲まれた姿……!」
リリアは涙をこらえた。
「そんなの……
そんなの……
おばちゃんさんじゃない……!」
氷の王は静かに言った。
『……光の継承者よ……
お前の心が凍らぬことを示せ……
さもなくば……
この峠を越えることはできぬ……』
トモエは鏡に向かって歩いた。
鏡の中の“凍ったトモエ”が言う。
「あんたは……
いつか心が折れる。
誰かを守れなくなって……
自分を責めて……
凍りつくんや」
トモエは首を振った。
「うちは折れへん。
守れへん時が来ても、
それでも前に進む。
うちは――
誰も置いていかへん」
鏡の中のトモエは揺れ、
やがて砕け散った。
氷の王は静かに言った。
『……心の温度……
確かに感じた……
お前の心は……
まだ凍っていない……』
氷の王が手を下ろすと、
雪が舞い、
道が開けた。
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◆ ◆ ◆
◆ 氷の王の言葉
氷の王はトモエたちを見つめた。
『……ノルディアへ行くがよい……
しかし……
古い影は……
お前たちが思うよりも深い……
そして……
“光の継承者よ”……
お前の心にも……
まだ眠る影がある……』
トモエは息を呑んだ。
(うちの心にも……
影……?)
氷の王は続けた。
『……古い影は……
“心の底”に潜む……
お前がそれを見つめる時……
真の戦いが始まる……』
そう言うと、
氷の王は雪となって消えた。
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
なんかめっちゃ意味深なこと言われたで!!
心の底ってなんや!!」
カイルは真剣な顔で言った。
「古い影……
おばちゃん先生の心にも……
何かあるということ……?」
リリアは不安そうに言った。
「そんな……
おばちゃんさんの心に影なんて……」
セイルは静かに言った。
「誰の心にも影はある。
それをどう扱うかが大事」
エルミナは深く頭を下げた。
「……皆さん……
どうか……
ノルディアへ……
私たちの国を……
救ってください……」
トモエは前を見据えた。
(うちの心の影……
古い影……
全部まとめて向き合ったる)
「よっしゃ。
行こか、みんな。
ノルディアはもうすぐや」
虎柄シャツが風に揺れ、
おばちゃんは峠を越えて歩き出した。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
第113話では、
氷の峠の頂上で“氷の王”が登場し、
おばちゃんの心の温度が再び試されました。
氷の王は敵ではなく、
古い影を封じるために存在する“門番”。
その言葉は、
これからの旅がさらに深い領域へ進むことを示しています。
次回、第114話では
ついにノルディアの国境へ到達し、
影の冬に覆われた街の姿が明らかになる回
が描かれます。
これからも、おばちゃんの物語を
どうぞよろしくお願いいたします。




