第111話:『おばちゃん、“氷の影”の牙を見る』
氷の精霊の門をくぐった瞬間、
空気が一変した。
冷たい。
痛いほど冷たい。
まるで空気そのものが刃になったような寒さ。
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
なんやこれ!!
さっきより何倍も寒いで!!」
トモエは息を吐いた。
白い息がすぐに凍りつきそうなほど冷たい。
「ここが……
“氷の峠”か……」
カイルは震える手で魔力を探った。
「魔力の流れが……
完全に乱れています……
影の冬の中心に近づいている証拠です……」
リリアはマフラーを押さえながら言う。
「寒い……
寒いだけじゃない……
胸がぎゅってなる……
なんで……?」
セイルは静かに言った。
「氷の峠は、
“心の温度”を奪う場所。
体だけでなく、
心まで凍らせようとする」
エルミナはローブを握りしめた。
「……皆さん……
どうか……気を強く持ってください……
この峠は……
古い影の“外壁”です……」
トモエは前を見据えた。
(ここからが本番やな)
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◆ ◆ ◆
◆ 氷の峠の登攀 ―― “凍てつく大地”
峠の道は細く、
雪と氷に覆われ、
一歩踏み外せば崖へ落ちるような危険な道だった。
ユウトが足を滑らせそうになりながら言う。
「おばちゃん!!
足場がツルツルや!!
これ、ほんまに登れるんか!!」
トモエはユウトの腕を掴んだ。
「しっかり踏ん張りぃや。
焦ったらあかん」
カイルは地面に手を当てた。
「氷が……
ただの氷じゃない……
魔力が混ざってる……
“影の氷”です……!」
リリアは震えた。
「影の氷……
触るだけで……
心が冷える……」
セイルは頷いた。
「影の冬の影響を受けた氷は、
心の温度を奪う。
長く触れれば触れるほど、
心が凍りつく」
エルミナは杖を握りしめた。
「……皆さん……
どうか……
無理をしないでください……
この峠は……
ノルディアの民でも恐れる場所です……」
トモエは前を見据えた。
(せやけど……
うちは止まらへん)
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◆ ◆ ◆
◆ 氷の影の気配
峠を登り始めてしばらくすると、
風が急に止んだ。
ユウトが首をかしげる。
「おばちゃん……
急に静かになったで……
なんか嫌な感じや……」
カイルは魔力を探った。
「影の濃度が……
急に上がっています……
これは……
“何かが近い”……!」
リリアは震えた。
「怖い……
胸が苦しい……
なんで……?」
セイルは静かに言った。
「氷の峠には“氷の影”が潜む。
古い影の欠片が、
氷と混ざって生まれた存在」
エルミナは顔を強張らせた。
「……皆さん……
気をつけて……
氷の影は……
とても危険です……」
トモエは拳を握った。
(来るな……
これは……
影の気配や)
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◆ ◆ ◆
◆ 氷の影 ―― “白い獣”
その瞬間――
雪が舞い上がり、
白い影が飛び出した。
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
なんか来た!!
でっかい!!」
それは狼のような形をしていた。
しかし、
身体は氷でできており、
目は青く光り、
息は白い霧となって漂っている。
カイルが叫ぶ。
「氷影獣……!!
氷の峠に現れる影の魔獣です!!
凍影狼よりも強い……!」
リリアは震えた。
「こんなの……
勝てるの……?」
セイルは静かに言った。
「氷影獣は、
“心の温度”を奪う攻撃をしてくる。
油断すれば……
心が凍りつく」
エルミナは杖を構えた。
「……皆さん……
絶対に気を抜かないで……
この獣は……
古い影の“門番”です……!」
氷影獣が吠えた。
その声は、
まるで心を凍らせるような冷たさだった。
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
どうするん!!」
トモエは一歩前に出た。
「決まっとるやろ。
うちが守るんや」
氷影獣が飛びかかる。
トモエは手を広げ、
光を放った。
「――あんたら、うちの仲間に手ぇ出すんやない!!」
光が氷影獣を包み、
その動きを止めた。
しかし――
氷影獣は凍りついたまま、
砕けずに耐えている。
カイルが叫ぶ。
「おばちゃん先生!!
効いてますが……
凍影狼よりも耐久が高い!!
完全には浄化できていません!!」
リリアは震えた。
「どうしよう……
このままじゃ……!」
セイルは静かに言った。
「光の継承者。
“心の温度”をさらに強く……
あなたの光を……
もっと温かく……!」
トモエは深呼吸した。
(心の温度……
うちは……
みんなを守りたい)
「うちは……
絶対に凍らへん!!
みんなを守る心は……
誰にも奪わせへん!!」
光がさらに強くなり、
氷影獣は砕け散った。
雪が舞い、
静寂が戻った。
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◆ ◆ ◆
◆ 氷の峠の中腹へ
ユウトが駆け寄る。
「おばちゃん!!
すごい!!
倒したんや!!」
カイルは息をついた。
「氷影獣を……
光だけで……
浄化した……
おばちゃん先生……
やはり強い……」
リリアは涙を拭った。
「よかった……
本当に……よかった……」
セイルは静かに言った。
「光の継承者。
あなたの心の温度は……
まだ凍っていない」
エルミナは深く頭を下げた。
「……ありがとうございます……
あなたがいてくださって……
本当に……心強い……」
トモエは峠の上を見上げた。
(古い影……
うちは必ず眠らせたる)
「よっしゃ。
行こか、みんな。
峠の中腹はもうすぐや」
虎柄シャツが風に揺れ、
おばちゃんは再び歩き出した。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
第111話では、
氷の峠の本格的な登攀が始まり、
“氷影獣”という新たな脅威が登場しました。
心の温度を奪う氷の影。
古い影の門番。
そして、峠の先に待つさらなる試練。
おばちゃんは、
心の温度を保ちながら、
仲間たちと共に前へ進みます。
次回、第112話では
氷の峠の中腹で起こる“吹雪の試練”と、
仲間の心が揺らぐ瞬間
が描かれます。
これからも、おばちゃんの物語を
どうぞよろしくお願いいたします。




