第109話:『おばちゃん、“氷の峠”の気配を感じる』
恐れの霧を抜けたあと、
トモエたちは北の森の最深部へと進んでいた。
木々は黒く、
枝は氷の刃のように鋭く、
風は心の奥まで冷たさを運んでくる。
しかし――
霧はもう薄い。
ユウトが胸を張って言う。
「おばちゃん!!
なんか……
さっきより空気が軽いで!!
森の出口、近いんちゃう!?」
カイルは魔力を探りながら頷いた。
「ええ……
影の濃度が急に下がっています。
恐れの区画を抜けた証拠です」
リリアは胸に手を当てた。
「ほんとだ……
さっきまで胸がぎゅってしてたのに……
今は少し楽……」
セイルは静かに言った。
「心の試練を越えた者だけが、
この先へ進める。
あなたたちは……
確かに“選ばれた者”です」
エルミナは深く息を吸った。
「……皆さん……
本当に……ありがとうございます……
あなた方がいなければ……
ここまで来られませんでした……」
トモエは笑った。
「礼なんかいらん。
あんたの国を救うんが、
うちらの旅や」
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◆ ◆ ◆
◆ 森の出口 ―― “白い光”
しばらく歩くと、
前方に白い光が見えた。
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
出口や!!
森の出口や!!」
トモエは頷いた。
「よっしゃ、行こか」
光の中へ踏み出すと――
そこは一面の雪原だった。
白い大地。
白い空。
白い風。
しかし、
その白さは美しさよりも“冷たさ”を感じさせた。
カイルが震える声で言う。
「ここが……
北の地の入口……
“氷の峠”の手前……」
リリアはマフラーを押さえた。
「寒い……
森よりずっと寒い……
息が白い……」
セイルは静かに言った。
「ここから先は、
“影の冬”の本格的な領域です。
心も体も、
常に冷えにさらされるでしょう」
エルミナは雪原を見つめた。
「……この先に……
ノルディアがあります……
ですが……
その前に“氷の峠”を越えなければ……」
トモエは雪を踏みしめた。
(ここからが本番やな)
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◆ ◆ ◆
◆ 氷の峠の気配 ―― “風の声”
雪原を歩き始めると、
風が強くなった。
冷たい。
鋭い。
心の奥まで刺さる風。
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
なんやこの風!!
森の中よりずっと冷たい!!」
カイルは顔を青くした。
「これは……
“氷の峠の風”……
影の冬の中心から吹いてくる風です……!」
リリアは震えた。
「怖い……
なんか……
風の中に……
声が混ざってる……」
セイルは頷いた。
「聞こえるでしょう。
あれは“古い影の囁き”です」
エルミナは杖を握りしめた。
「……この風は……
人の心を凍らせます……
どうか……気を強く持って……」
トモエは風に向かって歩きながら言った。
「うちは負けへんで。
こんな風、ミナミの冬よりマシや」
ユウトが笑った。
「おばちゃん、ミナミの冬はこんな寒ないで!!」
トモエは笑い返した。
「せやったな」
しかし――
その瞬間だった。
風の中から、
低い声が聞こえた。
『……戻れ……
戻れ……
ここは……
おまえたちの来る場所ではない……』
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
なんか喋った!!
風が喋った!!」
カイルは震えた声で言う。
「これは……
古い影の“前触れ”……
まだ本体ではありませんが……
強い……!」
リリアは涙をこらえた。
「怖い……
でも……
進まなきゃ……」
セイルは静かに言った。
「光の継承者。
この声は“試し”です。
あなたたちが進む覚悟を問う声」
トモエは拳を握った。
「覚悟なら、
とうに決まっとる」
風がさらに強くなり、
雪が舞い上がる。
しかしトモエは一歩も引かず、
前へ進んだ。
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◆ ◆ ◆
◆ 氷の峠の姿
やがて――
雪の向こうに巨大な影が見えた。
ユウトが目を丸くした。
「おばちゃん!!
あれ……
山か!?
めっちゃでっかい!!」
カイルは息を呑んだ。
「これが……
“氷の峠”……
ノルディアへ続く唯一の道……!」
リリアは震えた。
「こんなの……
登れるの……?」
セイルは静かに言った。
「登るしかありません。
古い影の領域へ行くには、
この峠を越えるしかない」
エルミナは深く頭を下げた。
「……どうか……
皆さんの力を……
貸してください……
ノルディアを……
救ってください……」
トモエは峠を見上げた。
(古い影……
うちは必ず眠らせたる)
「よっしゃ。
行こか、みんな。
氷の峠へ」
虎柄シャツが風に揺れ、
おばちゃんは雪原を踏みしめて歩き出した。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
第109話では、
北の森を抜け、ついに“氷の峠”が姿を現しました。
恐れの霧を越えた先に広がる雪原。
風に混ざる古い影の囁き。
そして、ノルディアへ続く唯一の道――氷の峠。
ここから先は、
影の冬の中心へ向かう本格的な旅になります。
次回、第110話では
氷の峠の“最初の壁”と、
おばちゃんたちを試す“氷の精霊”
が描かれます。
これからも、おばちゃんの物語を
どうぞよろしくお願いいたします。




