第106話:『おばちゃん、北の森で“最初の試練”に出会う』
北の地ノルディアへ向かう朝。
街はまだ薄暗く、
冷たい風が静かに吹いていた。
ユウトが荷物を背負いながら言う。
「おばちゃん!!
準備万端や!!
今日は絶対に遅れへんで!!」
トモエは笑った。
「そらよかった。
旅は最初が肝心やからな」
カイルは地図を確認しながら言う。
「北の森までは半日の道のりです。
森に入れば……
魔力の流れが乱れ始めるはずです」
リリアはマフラーを巻きながら震えた。
「うぅ……
もう寒い……
北の地って……
どれだけ寒いの……」
セイルは静かに言った。
「北の森は“影の冬”の影響を受けています。
気温だけでなく、
心にも冷たさが染み込む場所です」
エルミナは白いローブを揺らしながら言った。
「……皆さん……
本当に……ありがとうございます……
ノルディアのために……」
トモエは肩を叩いた。
「礼なんかいらん。
困っとる人がおったら助ける。
それがうちの流儀や」
エルミナは少しだけ微笑んだ。
---
◆ ◆ ◆
◆ 北の森の入口 ―― “空気の変化”
街を出てしばらく歩くと、
遠くに巨大な森が見えてきた。
木々は黒く、
葉は凍りつき、
風は冷たく鋭い。
ユウトが震えながら言う。
「おばちゃん……
なんか……
空気が急に冷たくなったで……」
カイルは魔力を探った。
「魔力の流れが乱れています……
影の気配も……
微弱ですが確かにある……」
リリアは胸に手を当てた。
「なんだか……
心がざわざわする……
これが……
“影の冬”の影響……?」
セイルは頷いた。
「北の森は、
古い影の“外縁部”です。
ここから先は、
心の揺れが強くなるでしょう」
エルミナは静かに言った。
「……この森を抜ければ、
ノルディアの国境です……
どうか……気をつけて……」
トモエは深呼吸した。
(ここからが本番やな)
---
◆ ◆ ◆
◆ 森の中 ―― “心を凍らせる風”
森に足を踏み入れた瞬間、
空気が一変した。
冷たい。
痛いほど冷たい。
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
なんやこれ!!
風が……心まで冷える!!」
カイルは顔を青くした。
「これは……
“心を凍らせる風”……
影の冬の特徴です……!」
リリアは震えながら言う。
「寒いだけじゃない……
なんか……
悲しくなる……
胸がぎゅって……」
セイルは静かに言った。
「この風は、
“心の弱い部分”を刺激します。
影に飲まれやすくなる……
危険な風です」
トモエはユウトの肩を抱いた。
「大丈夫や。
うちがおる」
その瞬間――
森の奥から、
低い唸り声が響いた。
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
なんか出てくるで!!」
---
◆ ◆ ◆
◆ 最初の試練 ―― “凍影狼”
木々の間から現れたのは、
氷のように白い狼だった。
目は青く光り、
息は白い霧となって漂う。
カイルが叫ぶ。
「凍影狼……!!
影の冬に現れる魔獣です!!
心の冷えに反応して襲ってくる!!」
リリアは震えた。
「そんな……
いきなり魔獣……!?」
セイルは静かに言った。
「これは“試練”です。
古い影の領域に入った者が、
最初に出会う存在……」
エルミナは杖を構えた。
「……皆さん……
気をつけて……
この狼は……
“心の温度”を奪います……!」
凍影狼が吠えた。
その声は、
まるで心を凍らせるような冷たさだった。
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
どうするん!!」
トモエは一歩前に出た。
「決まっとるやろ。
うちが守るんや」
凍影狼が飛びかかる。
トモエは手を広げ、
光を放った。
「――あんたら、うちの仲間に手ぇ出すんやない!!」
光が狼を包み、
その動きを止めた。
狼は苦しそうに震え、
やがて静かに消えていった。
ユウトが叫ぶ。
「おばちゃん!!
すごい!!
倒したんや!!」
カイルは驚いた顔で言う。
「凍影狼を……
光だけで……
浄化した……!?」
リリアは涙をこぼした。
「おばちゃんさん……
やっぱり……
すごい……!」
セイルは静かに言った。
「光の継承者の力が……
以前よりも強くなっています」
エルミナは深く頭を下げた。
「……ありがとうございます……
あなたがいてくださって……
本当に……心強い……」
トモエは笑った。
「まだまだこれからや。
行こか、みんな」
森の奥へ進むと、
冷たい風が少しだけ弱まった。
(古い影……
うちは必ず眠らせたる)
虎柄シャツが揺れ、
おばちゃんは北の森の奥へと歩き出した。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
第106話では、
北の地へ向かう旅が本格的に始まり、
“影の冬”の影響を受けた北の森で、
最初の試練となる凍影狼との戦いが描かれました。
世界の涙が止まった後でも、
まだ救われていない場所がある。
その現実を前に、
おばちゃんは再び歩き出します。
次回、第107話では
北の森のさらに奥で起こる“心の迷い”の試練
が描かれます。
これからも、おばちゃんの物語を
どうぞよろしくお願いいたします。




