第105話:『おばちゃん、“古い影”の名を聞く』
北の地の巫女・エルミナが現れてから一夜。
街は穏やかだが、
その空気の奥に、
どこか“緊張の糸”が張りつめていた。
朝の光が差し込む中、
トモエの家では、
いつもの朝食が並んでいた。
ユウトがパンを頬張りながら言う。
「おばちゃん!
今日のスープ、なんか“旅の味”するで!!」
トモエは笑った。
「そらあんた、今日は旅の準備やからな。
気合い入れたんや」
カイルは真面目な顔で言う。
「北の地は……
この街とは比べものにならないほど寒い場所です。
魔力の流れも乱れ、
影が濃くなりやすい」
リリアは不安そうに言う。
「エルミナさん……
昨日、すごく悲しそうだった……
あの人の国……
どれだけ大変なんだろう……」
セイルは静かに言った。
「“古い影”が動き出したのなら、
北の地は今、
世界のどこよりも危険でしょう」
トモエはスープを飲みながら言った。
「せやけど……
行かなあかん。
あの子が助けを求めとるんやから」
ユウトは拳を握った。
「よっしゃ!!
おばちゃんと一緒に行くで!!
北の地でもミナミでも、
どこでも行ったる!!」
トモエは笑った。
「頼もしいなぁ、ユウトは」
---
◆ ◆ ◆
◆ エルミナの話 ―― “古い影”とは何か
朝食を終えると、
エルミナが静かに家を訪れた。
白いローブは昨日よりも少しだけ温かい色を帯び、
その瞳には決意が宿っていた。
「大原トモエ様……
準備は……できましたか?」
トモエは頷いた。
「せや。
あんたの国のこと、教えてくれへん?」
エルミナは深く息を吸い、
静かに語り始めた。
「北の地――“ノルディア”は、
古くから“影の冬”に悩まされてきました」
カイルが眉をひそめる。
「影の冬……
昨日も聞いた言葉ですが……
具体的には?」
エルミナは続けた。
「影の冬とは……
“古い影”が目覚めた時に起こる現象です。
空は曇り、
風は止まり、
大地は凍りつき……
人々の心は、
ゆっくりと影に飲まれていく」
リリアは震えた。
「そんな……
そんなの……
冬じゃない……
呪いだよ……」
セイルは静かに言った。
「古い影……
世界の涙よりも前から存在する影……
それは“世界が生まれた時の影”とも言われています」
ユウトが目を丸くした。
「世界が生まれた時の影!?
そんなもん、どうやって倒すんや!!」
エルミナは首を振った。
「倒すことは……できません。
古い影は“世界の一部”です。
ただ……
“眠らせる”ことはできます」
トモエは腕を組んだ。
「眠らせる……
どうやって?」
エルミナは静かに言った。
「光の継承者の力が必要です。
あなたの光なら……
古い影を再び眠りにつかせることができる」
トモエは息を呑んだ。
(世界の涙を止めた力……
次は“世界の影”を眠らせるんか)
---
◆ ◆ ◆
◆ 北の地へ向かう準備
エルミナは地図を広げた。
「ノルディアへは、
“北の森”を抜け、
“氷の峠”を越えなければなりません」
カイルは地図を見て顔を青くした。
「この距離……
普通の旅では数週間……
しかも氷の峠は危険すぎます……!」
リリアは不安そうに言う。
「寒さ……
大丈夫かな……
私……凍っちゃうかも……」
ユウトは胸を張った。
「大丈夫や!!
おばちゃんがおる!!
おばちゃんのスープ飲んだら、
どんな寒さでもへっちゃらや!!」
トモエは笑った。
「せやな。
うちのスープは最強や」
エルミナは微笑んだ。
「……あなたたちなら……
きっと……
ノルディアを救える……」
---
◆ ◆ ◆
◆ 旅立ちの前夜 ―― “影の気配”
準備を終え、
夜になった。
トモエは外に出て、
静かな街を見渡した。
(明日から……
また新しい旅が始まるんやな)
そのとき――
風が揺れた。
冷たい風。
北から吹く風。
トモエは眉をひそめた。
(なんや……
この風……
ただの寒さやない)
風の中に、
かすかな“影の気配”が混ざっていた。
ユウトが家から顔を出した。
「おばちゃん!!
どうしたん?」
トモエは空を見上げた。
「なんでもない。
せやけど……
明日は気ぃ引き締めて行こな」
ユウトは笑った。
「任せとき!!
おばちゃんと一緒なら、
どこでも行けるで!!」
トモエは微笑んだ。
(北の地……
古い影……
うちは……
ちゃんと向き合わなあかん)
夜空には、
北の星が静かに瞬いていた。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
第105話では、
北の地へ向かう準備と、
“古い影”という新たな脅威の存在が描かれました。
世界の涙が止まり、
街に平和が戻った今だからこそ、
次の影が静かに動き出す。
エルミナという新しい仲間、
北の地ノルディア、
そして“影の冬”。
物語は再び、
新しい章へ踏み出します。
次回、第106話では
北の森への出発と、
旅の最初の試練
が描かれます。
これからも、おばちゃんの物語を
どうぞよろしくお願いいたします。




