9.
「お父様。マララインにオーディン殿下が赴くとはなぜですか?」
私は、オーディンがマララインに魔獣退治のため勅命が出た事を聞き、急ぎ公爵邸へ帰った。前世ではユワナ公爵家に支援要請が来ていて、私が言い出した事だった。それなのに、なぜ?
「エミリー。これは王命で今更どうにも出来ない。お前が殿下を心配するのは分かる。だが、マララインには殿下の力が必要なんだ」
「どういうことでしょう?」
「魔獣とオークの暴動に民も兵士も疲弊している。勿論、支援のため我々公爵家の騎士団も向かう。だが、それだけでは民は納得しない……多くの命を失って、帰る家もない。そんな民の一部では王族への不満も出てくるだろう」
「だから、ユラの民の不満を鎮めるために、オーディンが向かうのですか」
「そうだ」
私は目を瞑り前世の記憶を思い出す。2度と、あのような事になってはいけないのに。それを避けるために彼らの未来を変えようとしていたのに。
……やはり、最期は変えられないのか。
「エミリー。大丈夫だ、オーディン殿下もその側近達も日頃からよい関係を作り、訓練を欠かしていない。陛下もそれを知っていて向かわせるんだ」
「そうですが……」
「信じよ。それしかお前にはできない」
信じる、なんて難しいことだろう。
確かにオーディン達は、ロードやケインも交えて訓練を欠かさず、そして前世とは違い皆の関係も良い。今回は、もしかしたら死ぬような出来事は起こらないかもしれない。
でも、万が一、彼らが命を落とす事があれば……。
ゾッとした。全く同じようにはならないかもしれない。けれど、やっぱりあの場所には行かせたくない。そう思ってしまったのだ。
どうすればいい?
でも、何も良い考えが浮かばなかった。
そして、あっという間に出発の時が来た。
「オーディン、その、無理はしないで」
「エミリー、大丈夫だよ。僕には皆んながいる」
そう言ってオーディンはジャスティン、レイン、ケイン、ロードを1人ずつ見た。最後に後ろに控えていたプリシア様を見ると、プリシア様は私に一礼して真っ直ぐ前を向く。
その瞳は、前世でも見た。きっと、彼女も民を救うために志を持って向かうのだろう。
「では、行ってくるよ」
彼らはマララインへ旅立った。
きっと前世のようにはならない、そう言い聞かせていても悪い考えは拭えなかった。
「やっぱり私も行く」
「お嬢様がですか?そこまでせずとも、彼らは大丈夫です」
「絶対はないわ」
「当然です。でも、それが戦いなのです……生きるために日頃から我々は訓練しているのです。それなのにお嬢様が行けば、彼らを信じていない、そう捉える事もできます」
「……だって……」
彼らを信じる信じないとは別に、私はあの地に行かねばならない理由がある気がしていた。
だから、私はコンラッドには内緒でマララインへ経とうと思っていたのだが。そんな簡単には幼い頃からの護衛を撒くこともできずに、簡単にコンラッドに捕まる。
「お嬢様」
「…………」
「はぁ、分かりました。でも私が危険だと判断すれば、あなたの指示など関係なしに逃げますからね。あなたを失うなど……真っ平ごめんですから」
私もあなたを失うのはごめんよ。だから、今度こそ間違わないように行動しなければ。
私はユワナ公爵騎士団の制服に袖を通す。それだけで身が引き締まる思いだ。公爵家の紋章を背負っているからには、下手な行動はできない。
そして、私はコンラッドと共にマララインへ経った。




