7.
そして、今、私とオーディンの目の前には2人1組でチームを結成し、おもちゃの剣を握って対峙している男達。
ケインとジャスティン、レインとロードの険悪な仲での組合せで、しかも剣を握るケインとレインは目隠しされており、仲間の声と気配を頼りに戦うしかない状況。
「ケインっ、何してるんだ!ちゃんと私の声を聞けっ」
「で、ですがジャスティン様……視覚が閉ざされていれば、そんな小細工のような作戦無意味ですよっ」
「お前っ、私の考えた作戦を小細工などと……」
「ほらほら、ケイン、仲間を信用しないとお前が負けるぞ〜。ジャスティン卿も信頼されるような声かけをしないと」
コンラッドが腕を組んで審判として側でちゃちゃを入れている。
「ロード、俺のどの方角にどれくらいの距離で敵がいるか正確に言えっ!!」
「はぁ?そんなの知りませんよっ!視覚がなくても気配で分からないんですか?レイン様は意外とポンコツですね」
「野生の猿みたいなお前と一緒にするなっ」
わぁわぁ喚く一同をオーディンは呆れた顔で見ている。
「……大丈夫か?あれ」
「大丈夫よ。勝ち負けもそうだけど、その過程が大事なの。見て、皆勝つために必死になって、身分なんて関係ないくらい仲良さげだわ」
「あれを仲が良いと言うのか?」
「子供の遊びが1番仲良くなれる近道よ」
「……あいつらが持つと、遊びの剣もそうでなさそうだが」
「そこは目を瞑って」
ケインとレインがじりじりと動く。
「レイン様ー!左方向に、多分ですけど物干し1個分くらい先にいます」
「何だそれはっ!」
「えっ、物干し竿知らない?これだからお坊っちゃんは〜」
「ロード、その口の利き方、勝負が終わったらお前を叩きのめしてやる」
「いいですね、絶対負けない自信ある」
そうこうしているうちに、ケインがじりじり近寄る。
「ケイン、いいぞ。もう少し前だ、それから3歩右へ進むんだ」
「あ、レイン様、今斜め右後ろにいますよ〜」
「はぁ!?」
ロードの言葉に反応してレインが後ろに振りかぶる。だが、それを予想していたケインは素早く反対に移動しており、振りかぶっていたレインの背中に思いっきり剣を叩きつけた。
「いっっ」
パシンっというなかなか良い音を響かせて、レインは膝をついた。
「勝者、ケイン、ジャスティンチーム!」
ケインが目隠しを外して、驚きと尊敬の眼差しでジャスティンを見た。
「凄い。こんなにも子供みたいな簡単な作戦で勝てるなんて」
「だから言っただろう?私の言う通りなら勝てるって」
「何て言ったんだ?」
レインが悔しそうにジャスティンを睨んだ。
「俺たちみたいな互いを良く思ってない関係でチームを組むなら、まずは信頼を得た方が勝つのは当たり前だ。そして、有難い事にケインは文句はいいつつも素直さがある。だから色んな人から吸収してここまで成長したんだ……その性格通り私の作戦通りに動いてくれたのが大きかった」
そして、ジャスティンはにやっと口角を上げてレインとロードを見た。
「その反面、ロードは剣の腕はずば抜けているが素直さは皆無、協調性など期待できないくらい一匹狼だ。戦では突破するにはいいが、その後の作戦では手を焼くタイプだな。それに単細胞ってほど野生の感で生きているから……剣の技、戦いの技、一つ一つ殿下をお守りするために、努力して叩き込んできた几帳面なレインには、やりにくい相手だ。感でふわっと言われても分からないからな」
「単細胞って、ひでぇ言い方」
ロードが不貞腐れる。
「ロードが剣を持っていたら負けてたな。それだけ、ロードは全てにおいてセンスがある。ただ、作戦とか細かいことは苦手だから、考えずに発言すると思ったんだ……その通り、何も考えないロードの声だけを頼りに焦ったレインは振りかぶった。ただ、それだけだよ」
ジャスティンの策に見事に嵌っただけ。それでも、3人の性格を踏まえて、簡単な策を用意できるジャスティンはやはり優秀だ。
「ジャスティン……君、ケインとロードの事調べてたのか?」
オーディンが戸惑いながら聞く。
「殿下、当たり前ではないですか。貴方に近づく奴らが本当に安全か信頼できるか。それを把握するのも側近の役目ですから。あなたをお守りするために当然のことです」
「ジャスティン……」
オーディンが泣きそうな申し訳なさそうな顔でジャスティンを見た。
「レインだって同じですよ。その努力は相当なものです」
レインは頬を掻いて言う。
「こんな戦いを見せてしまっては、まだまだ殿下に相応しくありませんよね」
「レイン、そんなこと、ない」
「いや、あります。もっと学ぶべき事はあります」
そう言ってレインはロードを見た。
「君みたいにずば抜けたセンスのある騎士は俺の周りにはいない。だから、良ければ俺の訓練に付き合ってくれないか……?」
「俺は剣が握れてオーディン殿下をお守りできるなら、それでいいからな」
「ケイン、君も一緒に訓練しよう」
「は、はいっ」
そうやって3人で訓練する日々が始まった。
それを見たら、一つ未来を変えることができたと思えた。
あんな悲劇にならないように、私は責任を持って彼らの未来を守ると決めているから。
私とオーディンの関係も以前ほど冷えたものではなくなった。彼は私の声を聞いて、優しく接してくれる。昔みたいに仲良かった時を思い出して、私は胸が暖かくなる。
最後のように冷たい目で見られていない。それだけで、安心できた。
だけど、私は知っている。今はオーディンも私を婚約者として扱ってくれているけれど、プリシア様と出会えば、それもなくなるって。
また邪魔な私は再び悪女と言われるのだろうか。それでも、2人が本当に愛し合っているなら、潔く身を引く覚悟だった。それだけ、あの日の彼らの絆は強かったと感じていた。




