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4.

 

 そして、今、私は婚約解消の話し合いをしているのだ。

 

 「お2人が恋仲になり婚約解消を告げられたこと。これはエミリーへの、我が公爵家を侮辱しているも同然です。それなりの謝罪と誠意を見せてもらわねば気が済みません」

 「それは勿論そうだ……それ相応の慰謝料に2人への罰も考えよう」

 「父上っ、確かに私も悪いです。ですが」

 「悪いと分かっておりながら、なぜ我慢できなかった?結婚後に愛妾として迎えることもできたはずだ」


 オーディンが顔をしかめて黙り込み、プリシア嬢は涙目で下を向く。


 「慰謝料はオーディンの私財から支払う。そして、オーディンは臣下として公爵家を叙爵するが一世代のみだ」

 「父上……私を王族から除籍するのですか?」

 「その覚悟ではなかったのか?」

 「ですが……」

 「王命である婚約を己の我儘で反故にするんだ。それなりの覚悟がなくて、お前は何がしたかった?愛を選ぶのだろう?」

 「父上、私は幼い頃より王となるため努力してきました。それをこんな簡単に……」

 「お前は幼い頃より尽くしてきたエミリーを、そんな簡単に裏切ったのだ。自分の行いを振り返りなさい」


 国王陛下が疲れた顔でオーディンへ語りかける。

 オーディンは絶望に顔を歪ませた。でも、私はもっと絶望を味わって欲しかった。


 「陛下。お言葉ですが、オーディン殿下に挽回するチャンスを与えてはどうでしょうか」

 「……エミリー?何を考えている」


 目を細めて私を見るオーディンを真っ直ぐ見て私は言った。


 「聞くところによれば、オーディン殿下は優秀な側近を自ら探し出して育てている模様です。その志は尊く、自らの力を示したい、まるでそう言っているようではないですか」

 「ふむ。それで?」

 「最近の報告によれば、北の砦、マラライン領の一部地域ではオーク達が暴れて人里を荒らし、民や兵士は疲弊しています。そのため、我が公爵家にも支援要請がありました。そうですよね?お父様?」


 お父様は私が言わんとしている事を察して補足した。


 「ふむ……そうですね。丁度よいではないですか。殿下の側近である者は魔法と剣技に長けている。それにそこのプリシア嬢は治癒魔法が使える。4人で行って、砦の指揮を取ればいいのでは?陛下?……オーディン殿下一同にも行って頂くのです」

 「北の砦に……」


 オーディンは息を呑む。

 北の砦。国1番の危険な場所であり、そこでも問題になっているのがマラライン領のユラ地区だ。オークと魔獣がひっきりなしに現れては人を殺していく。

 自然の神とするユラの女神を信仰していたユラ地区。そこに何かあったのではと考えられたが、魔獣達の活動が激しくなった理由は分からずであった。最近になってより活動が激しくなり、その残酷さは耳を塞ぎたくなるほどのものだった。


 「私は、オーディン殿下がそれなりの覚悟を持って婚約解消に踏み切ったと考えています。ですが、陛下も仰った通り、私が尽くした時間を考えるとそれは屈辱です。ならば、オーディン殿下にもそれなりの覚悟を見せて頂きたいのです……あなたが選んだ志を同じくした人と、どんな窮地でもやれるという覚悟を見せて欲しいのです」

 「私達を試すのか?」

 「あなたは言いました。用意された道を歩くより自分で選んで己の力を証明したいと……それが証明できればいいのではないですか?」


 父も賛同する。これだけ公爵家を蔑ろにされて腹の虫が収まらないのだろう。そして、そんな残酷な場所へオーディン殿下自ら行くとは思ってはいないはず。きっと、無理だと懇願するのを予想しての事だろう。


 だが、皆の予想は大きく外れた。


 「……分かりました。マララインに赴き私達でその地を救って見せましょう。きっと、4人で帰って来ます」


 プリシア嬢も震えて泣き出すかと思いきや、強い眼差しで頷いた彼女に、私は引け目を感じた。

 どうして彼らはそんなにも、何かを信じて強く進もうとする事ができるのだろうか。


 強く手を握り合っている2人を見て、私は苛立ちを覚えた。彼らを追い込んで後悔させるつもりなのに、

なぜか私達が彼らを追い込んでいる、そんな気がして仕方がなかった。


 

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