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13.

最後は明るめに。


 国王陛下の謁見室で厳かな空気の中


 と思いきや、煌びやかな大広間で私達は跪き首を垂れていた。私の回復に合わせて慰労会を開こうと予定されていたみたいなのだ。


 そんな中、私は跪きながら言う。


 「僭越ながら陛下、褒美とは違いますが私の願いを聞いては頂けないでしょうか」

 「願い?ユラでの一番の功労者だものな、聞こうぞ」

 「ありがとうございます」


 私は顔を上げてオーディンを真っ直ぐ見て言った。


 「私とオーディン殿下の婚約についてなのです。この婚約を白紙に戻して頂きたい、そう考えています」


 会場がざわつく。

 だが、陛下は至って冷静だ。

 

 「何を思ってそう考えた?」

 「私は、ユラへ行き彼らの力になりたいと思っているのです」

 「ユラにか。ふむ、ユワナ公爵。娘がそう話しているが?」

 

 お父様が進み出て私の横に跪く。


 「はい、陛下。突然の娘の不敬を私から謝罪致します。しかしながら、ユラの地での魔獣の暴動には私ども公爵家の管理不足があってのこと……娘もその責任を感じての事なのでしょう。ただ、だからと言って王家との婚約を白紙に戻すなどできますまい。どちらかに非があるのであれば、話は違うでしょうが」

 

 私は父を見る。まさか、ここまで話を合わしてくれるとは思っていなかった。

 昨日、ユワナ公爵家とユラとの関係について聞いた。マラライン領は何代か前に血縁関係になっているため、今回、ユワナ公爵家へ支援要請が来たのだ。だだ、ユラに関しては何も教えてもらってなかった。

 私はユラでの起きた出来事(前世の事は伏せて)をおおまかに話した。そしたら、お父様は溜息をつきながら話してくれた。私のルーツについて。


 私は両親の子ではない。

 そう告げられた時、何となくそんな気もしていた。


 父と母には子がなかなか出来なかった。そこで、父はユラに婿に行った従兄弟夫婦から産まれた私を引き取ったのだ。従兄弟夫婦は流行病で亡くなった後だった。

 つまり、養子として私は公爵家に入った。

 両親と血の繋がりがなくても、ユワナ公爵家の血縁でもあるため、王家に嫁ぐのは問題なかったらしい。

 

 『血の繋がりはない。だが、私達はお前を本当の娘として思っている。だから、出来れば私達の近くにいて欲しいし、危険な場所には行って欲しく無い』


 父の寂しそうな顔を見て胸が熱くなった。

 もしかしたら、出て行けと言われるかもと思っていたのに、返ってきたのは私の意見を尊重する返事だった。


 『ユラでのお前と殿下を見た時、とても信頼し合って良い関係を築いたのだと思ったよ。でも、そこには愛はない……愛がなくてもと言ったのは私だったが。だが、この期に及んでになるな、お前がオークと戦う姿を見て、命を落とすかもしれないと最悪の自体を想像して後悔した。もっと好きに自由に生きさせる事はできないのかと……』


 私は横にいる父の言葉を思い出して涙腺が緩みそうになる。

 

 「陛下。娘はユラへ行かせてその地をまかせたいと思います。砦が安全だと鷹を括り民を危険にさらしたのも、私どもの気の緩みが原因ですから……責任を取らせて下さい」

 

 砦の兵士不足に頭を悩ましていた長老の元へ都合よく現れた男2人。兵士不足もであるが、一からユラを立て直す必要があると考えたのだ。

 それに、時間を戻してくれたユラの女神のためでもある。


 「しかし、それなら婚約はしたままでも良いのでは?2人ともまだ15だ。3年ほどで帰ってくれば良いのだ」

 「ですが、陛下。娘と話して思ったのです。私達はもっと我が子と話をする必要があるのでは、と」

 「私達……か」


 陛下はオーディンを見て言った。


 「オーディン。お前はどう考えているのだ?」

 「陛下……いや、父上」


 オーディンも跪き言った。


 「エミリーは私にとって大事な人には変わりありません。ただ、私達2人の間に家族のような愛はあっても、それ以上のものはありません」

 「それで良いではないか」

 「私もユラで命の危機を感じた時に思ったのです。愛する人と一緒にありたい、一度きりの人生後悔したく無い」


 オーディンがプリシア様を見て言う。周りはプリシア様を見てはひそひそと顔を寄せ合っている。

 このまま彼女が悪い印象を持たれるのは良くない。


 「父上は私に褒美をくれると仰いました。ですから、今ここで言います。愛する人と一緒になれるチャンスを下さい」


 真っ直ぐにプリシア様を見て言うオーディン。プリシア様は目立たぬよう気丈にしているが、握りしめた手が震えている。


 「やっぱり殿下を誘惑したのね」

 「大人しいフリして案外、やり手みたい」

 「エミリー様がお可哀想……きっと身を引かれたんだわ」


 そんなコソコソ話が聞こえる気がして、私はこれはもう最終手段に入るべきだと立ち上がった。


 「エミリー?」


 父とオーディンが不思議そうに見てくる。


 「陛下。先ほどのユラへ赴きたい理由についてですが、本心はまた別にあるのです」

 「ほうほう、それはなんじゃ?」


 なぜか陛下が楽しそうなのは気のせいか。

 私は歩き出す。オーディン一行がいる方向、そして馴染みの人の前で止まった。

 


 「お嬢様……?」

 

 訝しげな顔のコンラッドを無視して私は声を張り上げた。


 「私、エミリー・ユワナは私の護衛騎士、コンラッド卿との愛のため、オーディン殿下との婚約を解消する事を望みます!!」

 「はぁ?何言ってんだ、お嬢様」

 「エミリーっ!!!それは一体どう言う事だっ」

 「ひゅう〜、コンラッドやるなぁ。独身はお嬢のためだったか」


 慌てふためくコンラッドに、動揺とショックの父、そして、楽しげに囃し立てる我が公爵家の騎士達。


 オーディンはぽかんと口を開けて立ち尽くしている。

 そんな彼に私は片目を瞑って悪戯に微笑んだ。


 「私も()()()()()()()()愛を選びたいと思います!人生一度きり、大切な人のために、その人が幸せでいれるように!!」


 「いやいやいや、待てお嬢。勝手がすぎるぞ」

 「嫌なの?コンラッド」

 「い、いや、そういうわけではない。この場をどうするんだ……ほら、もう俺を少女趣味だと言い始めている」

 「揶揄ってるだけよ」

 「エミリーっ!!!待ちなさい、コンラッド、これはどう言う事だ!?」

 

 お父様が額に青筋を立てて向かってくる。


 「あ、俺死んだ」

 「コンラッド、ちょっと失礼」


 私はコンラッドの襟首を引っ張って頬に口付けた。


 「なっ、」

 「文句なら後で聞くわ」


 頬を抑えて固まるコンラッド。

 ショックで頭に手を当ててふらつくお父様。

 ますます囃し立てる我が騎士達。

 プリシア様が目をぱちくりさせて、口を押さえている姿が何とも可愛らしい。

 私はコンラッドの首に手を回して耳元で彼にしか聞こえないように言った。外野がまた歓声をあげる。


 「早く、今よ。逃げるの!」

 「……」


 コンラッドは諦めたのか勢いよく私を横抱きにする。

 

 「オーディン!!後は任せたわっ!!」


 オーディンは、はっとしたように意識を持ち直して慌てて叫んだ。


 「え、エミリー!任せるって……」

 「それくらい頼んだわよ、彼女のこともねっ!」


 オーディンは顔を歪めて泣き笑いの表情をする。

 後ろで満足そうに笑う陛下。陛下の人が良くて命拾いしたかしら。


 「エミリーっ!!」

 

 オーディンに呼ばれて彼を見た。2人で手を繋ぐ姿を見れて私は満足だ。

 私はコンラッドに抱えられながら満面の笑みで言ったんだ。


 「オーディン、幸せにね!さようならっ!!」


 今度こそ、満面の笑みであなたと別れる。

 私とコンラッドは歓声と揶揄う声の中、扉を駆け抜ける。

 

 人生一度きりしかないから。

 譲れないところは、譲らないでいきたいじゃない。

 ばいばい、幸せにね。



 最後は笑顔でさよならを         完。

 

 


 〜〜〜〜


 「それで?俺の人生どうしてくれるんですか」

 「私が責任を持って面倒みるわ」

 「あんなにちっこかったお嬢に言われてもねぇ」

 「子供扱いしないで。もう、大人よ」

 「あぁ、だから困るんだ」

 「へっ!?」

 「まぁ、一生そばでお嬢様をお守りするのも悪かないな」

 「……私より先に死なないでよ」

 「それは、時と場合によりますね」

 「コンラッドがいなくなるのは、ごめんよ」


 「……分かってます。今度はもう1人にしませんから」


 

              今度こそおしまい。

 

だいぶ最後は駆け抜けた感が……。

ユワナ公爵家には歳の離れた弟がいます、実子です。なので後継は大丈夫。その後、エミリーとコンラッドは2人でユナへ行き、生涯仲良くユナに尽くしました。オーディンは後始末に奔走しましたが、彼の人柄と築いた信頼、優秀な側近により無事、高位貴族に養子に入ったプリシア様と結婚しました。

私の中では、後悔、愛、人生という題で書いたのでヒューマンドラマにしてます。そうなっているのかは自信ないですが、難しいですね。


お読み頂きありがとうございました!

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