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第5話 骸

お待たせしました。第5話です。

榊原は眉をひそめながら問うた。


「カムイ、それはどういうことだ?」


カムイは一歩前に出て、真剣な声で答えた。


「そのままの意味に決まってるだろ。俺の村を取り戻すために、そこにいる妖怪たちを倒しに行くんだよ」


榊原はその目をじっと見た。カムイの決意は本物だった。


「お前、文章をちゃんと読んだのか?『派遣された侍の帰還者はゼロ』と書いてあっただろ。霊を習得したばかりのお前が行っても、返り討ちに遭うだけだ。もっと真剣に考えろ」


その言葉に、カムイの眉が逆八の字に下がった。


「それだと...今までの修行の意味がねぇじゃねぇか...自分の故郷を見捨てて、妖怪の好き勝手にさせるのが“真剣に考えること”か?」


榊原は言葉を詰まらせた。もう一度、カムイの目を見つめる。そこには、怒りと闘志が燃え上がっていた。


榊原は、カムイのその姿に、かつて親しかった“誰か”の面影を重ねていた。


「……カムイ、お前も賢くなったな」


榊原は口の端を少し上げ、深いため息を吐いた。


「最後の修行だ。明日、お前の村にいる妖怪を倒しに行け」


その言葉を聞くと、カムイは拳を強く握り、笑顔を見せた。


夜は更けていき、榊原は翌日の戦いに備えて、いつもよりも大量の夕飯を作った。


ガツッ! ガッツ! ガッツ!


それをカムイは、獣のようにむさぼるように食べた。


榊原は、いつになく真剣な口調で言った。


「明日の戦に備えてだ。今日はたらふく食え」


カムイは骨付き肉にかぶりつきながら応じた。


「んなもん、言われなくても分かってるさ」


魚に猪肉、山菜や汁物――皿に盛られた食事は、数分もしないうちにカムイの腹の中へと収まっていった。


そんな彼を見ながら、榊原がぽつりと口を開く。


「なぁ、カムイ。お前はこれから初めて妖怪と本気で戦いに行く。だから、その前に一つだけ知っておいてほしいことがある」


カムイは残りの骨を皿に置き、真剣な眼差しで榊原の言葉に耳を傾けた。


「妖怪ってのは基本的に獣…いや、“一匹狼”のように、単独で動くのが原則だ。だから侍が妖怪を斬るってのは、人を斬るのとは違う。正当防衛として認められてる。だから、罪には問われねぇ」


「おう」


「だがな…この日本に、妖怪でありながら“組織”で動いてる連中が一つだけいる。それが――骸軍むくろぐんだ。むくろという妖怪を筆頭に、多様な妖怪を率いる集団だ」


カムイの眉がピクリと動いた。


「じゃあ…もしかして、そいつらが――」


「そうだ。報告書にもあった通り、お前の村を襲撃した黒幕は骸軍だ」


「骸…」


その名を口にしたカムイの表情には、確かな怒りが浮かんでいた。


榊原は静かに続ける。


「お前が明日向かう場所は、骸軍の拠点の一つになっている。そこにいる連中は、おそらく全員手強い。だから――気をつけろよ、カムイ」


そのとき、カムイの心に芽生えたものは、恐怖ではなかった。


自分の終点を見つけた彼の胸には、強く、激しい感情が渦巻いていた。


それは――憎しみ。そして、揺るがぬ闘志だった。


翌朝


カムイは榊原が握ってくれたおにぎりを3個食べた後、刀を持って出かけようとした。


「お前、そんなボロボロな衣装で行くつもりか?」


カムイが首を下に傾け、服の状態を確認した。修行の時に傷つけ、泥も所々付いていた。


「いっけね、服なんて気にしてなかったから忘れてた」


「ちょっと待て」


榊原が小屋奥へと進み、倉庫から何かを取り出す。


「これをやる」


榊原の手の上にあったのは、綺麗に畳んであった一般の侍が着る半上下であった。カムイは榊原の手の傷を見て、榊原がカムイのために縫っていることを察した。


「(お母さんか師匠は...)」


カムイはその半上下を下から上まで着た。そして、刀を背中に背負う。カムイはその瞬間今までの自分とは違う...まるで力が漲ってきたような気分になった。


榊原「似合ってるじゃないか」


カムイ「当たり前だろ?」


そしてカムイは朝の日差しを浴びながら、目的の場所まで歩く。しかし...


「カムイ!」


カムイは榊原の呼びかけに反応して後ろを振り返る。

榊原「お前は強い。負けるなよ」


すると、カムイはふっと笑い声を発しながら息を吐く。


「当たり前だろ?」


そしてカムイは後ろを振り返ることなく、勇気と復讐心を胸に山の麓まで歩いていった。


榊原はカムイの後ろ姿を見送り、口角をあげて、空を見上げた。


榊原「今、息子はお前らしくなったぞ...親父」


一方カムイは...


「……」


山の麓にたどり着いたカムイは、静かに佇んでいた。

彼の目の前には横に伸びる一本道。かつて自分が生まれ育ったはずの村の気配は、そこには微塵も残っていなかった。


「……俺の村……どこだ……?」


ぽつりと漏らすその声には、混乱と喪失感が滲んでいた。


辺りを見渡しても、見覚えのある景色は何ひとつ見つからない。無意識のうちに、カムイは過去を辿るように目を伏せた。


(……俺が目を覚ました時、師匠の家にいたんだよな。その前に、何があった?あの事件が起きたのは……もう半年くらい前だっけか)


頭の中にこびりついた闇を手繰り寄せるように、カムイは記憶を探る。


その時──


ザーッ……という、水が流れる音が風に紛れて聞こえてきた。


カムイがはっとして音のする方に顔を向けると、そこには横幅二メートル半はあろうかという川が流れていた。水は深く、冷たく、どこか陰のある流れだった。


(川……?)


その瞬間、何かが引っかかる。


心の奥底に、薄く残された“何か”が刺激された。


「……っ!」


記憶の断片が稲妻のように脳裏を貫いた。


──あの時。妖怪に囲まれ、命の危機に瀕した自分を救うために、あの侍・植田が背中を蹴り飛ばしてくれた。


そして自分は──おそらくこの川に落ちたのだ。


「そうか...分かったぞ」


微かに残った記憶の糸を掴み取ったカムイは、すぐさま川の逆流の方角へと歩き出し、川沿いを遡っていった。そこにきっと、故郷の痕跡が残っているはずだ。


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