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第1話 妖怪奇襲事件

はじめまして、マユゲマンです。

妖怪狩りカムイを不定期連載しますので、お願いします。あと初心者ですので、もし何か改善して欲しいところがあればご指摘お願いします。

日本には昔、"妖怪"と呼ばれる、人間を殺し、喰らう——生物とは程遠い存在がいた。普通の人間が妖怪に刃を突き立てようが、銃で撃ち殺そうとしようが、倒すことは不可能だった。

しかし……その妖怪に対抗できる者たちも存在した。

彼らを――「侍」と呼ぶ!



「コラァァ、カムイィィ! また魚を盗みやがったな!!」


男の怒鳴り声が、村の奥まで響き渡った。小魚を二匹、素早く店からかすめ取ると、声の主から逃げるように駆け出す少年。それは、この村で“悪ガキ”として知られる少年 -カムイだった。


「ヒヒッ、悪いなおっさん! これが俺の“仕事”なんだよ。ありがたくもらっていくぜ!」


カムイはそう言いながら男を挑発し、路地裏へと身を滑らせるように消えていった。


「グヌヌヌヌゥゥ……!!」

怒りに満ちた男の唸り声に、隣で見ていた女性が苦笑する。


「あなた、もういいわよ」


「はぁ……まったく……」


男は深いため息をつき、ゆっくりと店内の椅子に腰を下ろした。


「今日もお疲れさま。演技、上手だったわよ」


「これで何度目だよ、あいつの“盗み”に付き合うのは。……まぁ、こうでもしねぇと、あいつ、生きていけねぇからな」


「ええ……。カムイは、父も母も亡くして、知らない家に引き取られて……あの子、生きるのに必死なのよ」


スタッ、スタッ、スタッ——

周囲を見渡しながら、人目を避けるようにカムイは歩き、自宅のある村はずれへと向かっていた。


「おっ、カムイじゃねぇか!」


「げっ、その声は……」


声のする方を見ると、農民よりも少し上等な和装を身にまとった二人の男が姿を現した。


紅林くればやしに、植田うえだ……」


「今日も元気そうだな。おっ、その魚は俺たちへの献上品か?」


紅林がにやりと笑いながら、カムイの手に握られた魚を奪おうとする。

その手をカムイが素早くはたいた。


「やめろよ! 欲しいなら自分の給料で買え!」


「ハハッ、それはすぐにでも欲しいもんだ! それにしても、この村は最高だぜぇ」


「は?」


「だってよ、自然は豊かだし、米もうまけりゃ酒もうまい。妖怪の出現も、もう十年以上報告がねぇって話だ。のんびり暮らすにはもってこいだ!」


紅林は笑いながら、隣の植田の肩を叩いた。


「で、俺たちはこの村にいるだけで、“妖怪退治の英雄”扱い。しかも本部からは高給が支給される。最高だろ、なぁ植田?」


「……ああ」


「チッ……お前ら、甘い汁吸って生きてるだけじゃねぇか。今日、もしヤバい妖怪が出てきても知らねぇからな!」


カムイは吐き捨てるように言うと、二人から距離を取り、そのまま路地裏へと姿を消した。


「へっ、どうやらあいつ、俺たちに嫉妬してるようだな!」


だが、いつも無口な植田が、ぽつりと呟いた。


「違う……カムイは、俺たちを見下しているんだ。こんな怠けた暮らしをしてるようじゃ、“侍”の名が泣く」


紅林は、意外そうに植田を見た。


「……そうかよ。ま、いい。とにかく、見回りだ。今日も妖怪なんざ出やしねぇと思うがな!」


二人は商店街へ向かって歩き出す。


ガラガラ——


「ただいまー」


カムイの声が響いたのは、村の外れにぽつんと建つ古びた家。周囲に人の気配はない。そこがカムイの“家”だった。


「ゴホッ、ゴホッ……おかえり」


布団に伏せた義母が、弱々しくカムイに微笑みかける。カムイはその枕元に、小魚を一匹置いた。


「また、自分で獲ってきたの? 偉いじゃない」


その言葉に、店から魚を盗んだことを思い出したカムイは、一瞬「ギクッ」とした表情を浮かべ、冷や汗をかく。


「ま、まぁな! おばさん、とにかくゆっくり寝てろよ! 次はイノシシでも狩ってくるから!」


そう言って、家を飛び出していく。


「……ごめんね、カムイ。母親なのに、何もしてやれなくて」


「“母親”なんて言うなよ。……おばさんだろ?」


言い残すと、カムイは静かに戸を閉めた。義母はその背中を、ただ布団の中から見送るしかなかった。 


カムイは山の麓まで足を運び、イノシシを探して森の中を歩き回っていた。しかし狩りの経験などなかった彼にとって、それは容易なことではなかった。ようやく一頭のイノシシを仕留めたときには、すでに日は沈み、あたりは闇に包まれていた。


「よっしゃ! とうとう捕まえた! 今日はイノシシ鍋だい!」


カムイは誇らしげにイノシシの脚を棒に括り、肩に担いで村へ向かう。


——が、その時。


「……ん? なんだあれ?」


村が近づくにつれ、赤く揺らめく光が視界の隅に映った。


「祭りでもやってんのか? いや……そんな日じゃなかったよな?」


次の瞬間、鼻腔を突いたのは、肉が焼ける匂い。そして、漂う黒い灰。赤い光の正体は、村中を焼き尽くす業火だった。


「おい……嘘だろ!?」


カムイは、思わずイノシシを放り投げ、走り出した。 

「火事……? いや、こんな広範囲に燃えるなんて、ただの火事じゃねぇ!」


燃え盛る炎をかき分け、彼は義母の待つ自宅へと向かう。


到着した瞬間、目の前に広がっていたのは——


「……っ! あぁっ……!」


無残に崩れ落ちた家屋。かつての“家”は、もはやその姿をとどめていなかった。


「お母さん!!」


叫びながら、カムイは崩れた瓦礫に手をかける。そのとき、背後から声がした。


「カムイ! 無事か!?」


「紅林!? 家を……瓦礫をどかすのを手伝え! 母さんが……!」


「くっ……!」


紅林と植田もまた、絶望を悟ったような表情で手を貸す。


三人で瓦礫をどけていくと、そこに現れたのは——黒く焼け焦げた一本の手だった。


「母さん!! しっかりしろ!!」


ようやく引きずり出したその姿は、もはや人の原型を留めていなかった。全身は炭のように焼け爛れ、潰された頭部からは、眼球と脳が飛び出していた。


「うぅっ……ヴッ……!」


カムイは拳を握り、地面を何度も叩いた。涙が、悔しさと共に流れ落ちる。


その時―。


タッ……タッ……タッ……

紅林が、微かな足音に気づき、すぐさま刀を抜く。


「……っ、今度は何だ……?」


カムイが顔を上げると、そこには獣とも人ともつかぬ異形の群れがいた。


「出やがったな……妖怪……!」


紅林が唸るように言う。


「妖怪!? あれが……!?」


カムイの目に映るそれらは、生き物の形はしていたが、人とも獣とも違う、禍々しい気配と“邪気”を纏っていた。


(あいつらが……村を……!)


紅林は静かに決意する。


(今はまず、カムイを逃がす。それが最優先だな。)


「……カムイ。俺が奴らを引きつける。お前は植田と一緒に逃げろ」


「は!? ふざけんな!! 俺も——」


カムイの抗議を無視して、植田が彼を抱え、駆け出す。


「健闘を祈る」


「離せ!! 俺も戦う!放せって!!」


紅林が頷くと同時に、妖怪たちの元へと走り出す。


植田「紅林を信じろ。あいつは強い」


そのまま植田とカムイは村の端まで向かって行った。


一方紅林は...


「ヴォラァァァ!!」


紅林が刀を振り下ろす。妖怪の一体が斬られ、黒い内臓をぶちまけながら灰となって消えていく。


「まだ……霊は残ってる!」


周囲を見回す紅林の目に、一体の“人型の妖怪”が映った。長い金髪を腰までたなびかせ、人のような姿をしていた。


「……人型妖怪ひとがたようかいか。だが、倒せる!」


紅林は叫びながら、その妖怪へ向けて駆け出す。


「カムイと植田は逃げ切ったか?……俺は……絶対に守ってみせる……! 大切な人を——」


グサッ


気づいた時には、妖怪は紅林の背後にいた。胸を貫く長槍。紅林は苦悶の声を漏らし、血を吐いた。


「……なっ……何が、起きた……?」


「……これがカムイの仲間の実力か」


妖怪は冷たく呟き、次の瞬間——

グサッ

頭部に突き立つもう一本の槍。紅林の瞳から、光が失われた。刀が地面に落ちる音が、やけに遠くに聞こえた。


その頃、カムイと植田は——


タッタッタッタッ……!


「あと少しで、村の門だ!!」


目の前には、燃え尽きた村の門。


だが——


「……止まれ!」


植田がカムイの襟を掴み、足を止めさせる。


「えっ……!?」


門の前に、大量の妖怪が待ち構えていた。


「囲まれたか……この数は、さすがに……」


植田は呟きながら、刀を構える。


「無理だってのか!? でも紅林は、俺たちのために……!」


カムイの言葉に、植田は何も返さなかった。ただその手は、わずかに震えていた。


そして——


「……やれ」


誰かの命令と共に、巨大な妖怪が口を大きく開いた。

そこに集まる光——熱。


カムイは、死を悟った。


——だが。


「……カムイ、健やかに生きろ」


「……え?」


ドンッ


突き飛ばされた衝撃。カムイの体が宙を舞い、そのまま崖の下へと落ちていった。


「……!!」


落下する間際、彼は見た。


——植田が、火柱に包まれる光景を。


そして、冷たい川に沈んだカムイの意識は、静かに闇に落ちていった。


1665年9月11日、とある農村にて焼かれた家の残骸と大量の焼死体が発見された。死亡者64名。行方不明者3名。政府はこれを「妖怪奇襲事件」として、組織的に行動している妖怪の奇襲だと各地に報道し、国民は妖怪の恐怖を知った。


一部の文章を改変することもありますのでご了承ください。

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