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第一章「砂漠の巨獣」4

 軍基地からそう遠くない約一キロのところにあるマンションの一室にクレハは住んでいる。ファミリータイプの部屋に、一人暮らし。都市政府から指定されて住んでいる部屋だが、大きな空間に一人分の家具しかないので寂しさを感じる。


 ローテーブルに買ってきた惣菜を広げ、一人香りの強い麦酒を氷割りで飲む。


 寂しくてテレビをつけてチャンネルを回しても、今日あった戦闘のニュースなんてものはなくて、くだらないバラエティや、音楽番組や話題のアニメや漫画にドラマの特集番組しかない。どこか違う世界にいる感覚になる。


 住民は都市の外で今日戦闘があったことすら知らない。


 自分達の生活範囲で見ることがないから、内部で平然と過ごしている人たちは、あの透明な膜の向こうで今日も彼らが戦ったことを知らないのだ。


 彼らの存在すらも……。


 ほとんどの人は、レフォルヒューマンの存在を知らない。軍関係者やその家族くらいなものだ。一般人で知る人は僅かだろう。


 レフォルヒューマンは、瀕死の怪我を負った兵士がなることが多い。障害の具合にもよって決まるが、一般的に自力での生存が不可能な人間に適用される。


 コールドスリープ下で延命措置が採られ、その後、失った箇所の機械化による補填。再生医療によって合成された特殊な臓器の移植。それと脳の一部の機械化。最後に措置が採られる前のすべての記憶の削除。


 レオンもそうやって身体を機械化した。そして残った戸籍情報も破棄された。


 だから、彼も世間的にはもう亡くなった人間として扱われている。死ぬはずだった人間に、もう一度人生を歩ませられるほど、連邦には余裕がないから、蘇った人は死ぬまで兵器として生きることが強要される。それが現実だ。


 連邦支配域の南部には広大な砂漠があって、そこには巨大な機械獣が彷徨っている。それらが度々、侵攻してきているのに、何もなしに平和が維持されるわけがない。そこには必ず犠牲が存在する。でも生きているほとんどの人が、それを理解せずに生きている。


 そこに憤りを感じてしまう。


 クレハは麦酒をぐびっと飲み干すとグラスをテーブルに打ちつけた。ガラス製でも、幸い分厚い方なので割れることはない。中の氷がことんと勢いよく飛び出した程度だった。けど、やり場のない憤りは消えない。


 彼らは何のために戦っているのか。何のために兵器として生きているのか。クレハにはわからなかった。


 酒の影響なのか、焦燥が大きくなってきた。


 ふと見やった、ローチェストの上に置いたフォトフレームには、彼らと撮った写真がはまっている。レヴィンスとクレハ、そしてレオンの三人でとった写真。軍大学に入学した直後にとった写真だ。赤茶の髪でそばかすのある男子がレヴィンス。赤みがかったマロンブラウンの髪を肩の後ろに降ろした少女がクレハ。黒髪と黒の瞳の少し線の細い体躯の少年。


 もう手につかむことができない未来が頭をよぎった。


 —————彼はもう……いないのに……。

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