6話【懐かしく思うこと】ト【理想郷】
白鳥に地元の夏祭りに誘われた当日の夜、真珠星は薄紫色の生地に紺色の紫陽花の柄がデザインされた今日の為に買ったばかりの浴衣を着ている。肩につくかつかない程度の長さの髪を気合いで小さなお団ごを作ってヘアアレンジしてみた。
真珠星「髪型変じゃないかな」
不安な顔で何度も手鏡で確認している。白鳥の隣にいても違和感ないように少しでも大人っぽく見せようとしているようだ。
神社の入口前で白鳥を待っていると手を振る黒のTシャツその上から腰まである薄い白のカーディガンを羽織り、Gパンを穿いたラフな格好の男性が見えた。
心臓の音がドキッ!と大きく聞こえた真珠星は必死に冷静を装っている。
白鳥「遅れたかな?」
真珠星「い、いえ。待ち合わせ時間ピッタリです」
白鳥「そう、よかった。遅れたらどうしようかと思ったよ。可愛い浴衣姿の真珠星ちゃんを1人ぼっちで待たせるのは罪だからね」
真珠星は顔が茹であがった蛸の様に真っ赤になり俯いた。普段可愛いなどと言われないので照れてしまう。何か、何か言わなければと思いつつも言葉が出ないので、はにかんだ笑顔を見せる。
神社の境内の中と外に出店している屋台を一通り見て、気になった屋台をいくつか回った後、足に違和感を覚えた。ズキッ!?と足の親指の付け根が痛む。こんな些細なことでせっかくの夏祭りを台無しにしたくない。そう思い真珠星は痛みを我慢してしばらく歩いていた。
すると白鳥は何かに気づき突然––––––。
白鳥「背中に乗って!」
真珠星「えっ!?急に何ですか!?」
真珠星は動揺していた。焦っている白鳥を見るのは初めてだった。
白鳥「早くッ!?」
真珠星「は、はい」
白鳥の背中におんぶされた真珠星は人気の少ない境内の中にあるベンチに降ろされた。その後白鳥は鞄から絆創膏を取り出し真珠星の履いている、下駄を脱がした。真珠星の顔はまた赤くなったと同時に今度は情けない気持ちになる。どうやら白鳥は真珠星の異変に早々に気づいていたらしい。
白鳥は真珠星の足の親指の付け根に絆創膏を貼りまた下駄を履かせた。
白鳥「これ以上祭りは無理だから帰ろう」
真珠星「だ、大丈夫です。平気です!」
白鳥「ダメだよ、無理しちゃ。真珠星ちゃんがいくら平気と言っても僕が平気じゃないよ。だから帰ろう」
真珠星「はい……」
白鳥は真珠星を再び背中におんぶして真珠星を家まで送り届けた。
家に着くと兄の源星が出迎えた。事情を説明して白鳥は自宅に帰った。
自室に戻り涙が溢れる。そして勢いよくベットに浴衣のままバタリと打つ伏せで倒れ真珠星は心の中で嘆いた。
『うっう……私の足のバカァ、私のせいで夏祭りが……あの人に告白するチャンスがぁあ……』
と高校生になった今、懐かしく思うことを酪農体験場所から少し離れた休憩所で萌香達に、笑い話であるように話していたのだった。
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萌香達が入学する数年前の話。
萌香の担任が新任教師になったばかりの頃、教員だけの朝礼が行われていた。
校長「おはようございます。さて、先週連絡した通り本日からアデレード先生の代任を紹介します。酒枡先生〜」
酒枡「先ほどご紹介に預かりマシタ。酒枡リオンと申しマス!担当は英語デェス。よろしくお願いマァス」
時折カタコトな日本で話す酒枡という教師は、アメリカ生まれアメリカ育ち。父親が日本人ということもあって、日本の事を知りたいと思い。日本語学校を卒業後、日本の大学で教員免許を取得したそうだ。
挨拶の後酒枡はとんでもない発言を皆の前で発表する。
酒枡「最後に一言言わせて下サイ!私、酒枡リオンはこの学校で私の求める理想郷を作り上げたいと思っていマス!」
数年後酒枡の副担任になる教師が目を輝かせて尋ねた。
副担任「どういった理想郷ですか?」
酒枡「アメリカスクールのような服装、髪型、髪色全てにおいて自由な学校を作ろうと思いマス」
その場に居た1人を除く教師全員は凍りついた。
温厚な校長が後にも先にもこの時初めてブチギレたのは酒枡ただ1人だけだったという。
6話End
お題【懐かしく思うこと】24‘10/31
【理想郷】24‘11/1