36話【みかん】ト【新年】
ゲリラ豪雨が止むまでカフェで休憩中の萌香、真珠星、委員長の3人は萌香の注文したデザート【みかんシャーベットムース】について議論し始めようとしている。注文したテーブルにデザートが運ばれると3人は一口ずつ食していく。
その前にまずは【みかんシャーベットムース】について簡単に説明しよう。
皿の上に2種類のみかんが山の形状をしたヨーグルトムースの上に乗っているだけである。2種類と言っても実は同じみかんで、ただ調理法が違うだけだ。一つはみかんを丸ごと凍らせた『冷凍みかん(1個)』、残り一つは缶詰でよく見る『みかんのシロップ漬け』の果肉が5〜6つくらい冷凍みかんの上とムースのまわりに飾られている。
議論が始まった。萌香は真剣な目で2人を見つめる。
萌香「2人の評価は星いくつ?あたしは星5!」
真珠星「私は星2かな」
委員長「私は星4ね」
萌香「えぇ〜。2人共低くなぁい?」
真珠星「そうか?私は普通だな思った。……あと私、知覚過敏だから冷た過ぎるのはちょっと辛いんだよ」
萌香「その割には冷たい飲み物飲んでるじゃん!」
真珠星「それとこれは別なの」
委員長「私も普通に美味しいと思う。けれど……」
萌香「まさか!?委員長も知覚過敏?」
委員長「えっ?!ふふふ((笑))……違うわ。私が思うに少しインパクトが薄いっていうか……物足りなさを感じるのよ。ヨーグルトムースの中にもみかんの風味があっても良いんじゃないかなって」
真珠星「なるほど。じゃあこういうムースはどうかな」
真珠星が提案したのはヨーグルトムースの中にみかんの果肉を混ぜてみるという案だった。
委員長「穂先の提案だとみかんの食感が3つ味わえそうね。そう言えば輪通さんの星5という評価はどうして?」
萌香「う〜ん。チョ〜ウ美味しかった!それにみかんが大〜好きだからだよ」
萌香の答えがシンプルかつ個人的好物だった、その2点で星5の評価をしたようだ。
評価が出揃ったところで3人は『みかんシャーベットムース』議論は幕を閉じた。
食べ終えた頃外は再び日差しが降り注ぎはじめていた。
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今から約10年前、伊多孝雄が萌香達の通う高校の校長に赴任する前の話。
新年の元旦から伊多家では親戚が続々と集まって男達は真昼間から宴会を始めていた。昭和感が抜けない大人達が多く台所は『男子禁制』となっている。
男達が酒盛りを楽しんでいる間、母や嫁そして娘達等女性陣はお酒やおつまみを作ったり配膳していた。おせちがあるのだが、違うものが食べたいと父が言い出したからだ。
私は親戚の従兄弟や叔父達に囲まれながら空いたグラスを見つけてはお酌している。
孝雄「兄さん遅いな……」
そう思っていた矢先玄関から男性の大きな声が聞こえた。
男性の声「ただいま〜!」
その声は3つ年上の兄、藤雄だった。玄関からまっすぐ宴会場と化しているリビングに現れた。
隣には金髪の女性が兄と腕を組んでいる。皆、兄とその女性に注目した。兄は両親に向かって一言放つ。
藤雄「父さん、母さん。俺、隣にいるフィラと結婚するから!よろしく〜」
この場にいる全員が藤雄の突然の結婚発表に驚いた。私は驚きのあまり持っていたビール瓶を落としそうになった。
孝雄「に、兄さん。本気なの?」
藤雄「本気さ、そうじゃなきゃフィラをこの場に連れて来ないさ」
藤雄は笑っていた。
孝雄「で、でも邦恵さんは……」
邦恵さんは兄が20代前半にデキ婚した相手である。兄が言うには邦恵さんとは2年前に離婚しているようで、子供の親権は邦恵(前妻)さんが持った。子供といってもすでに成人(20歳)を迎えているので教育費を支払う義務はないそうだ。因みにフィラさんと兄は仕事関係で知り合ったらしくお互い再婚同士になるという。
フィラさんは兄の腕から離れ母と父のところへ行き挨拶をしている。その後親戚の1人1人にカタコトの日本語で挨拶を交わした。
父は「勝手にしろ!」と言って緩くなった日本酒の入った徳利を手にして直に呑み干した。
36話End
お題【みかん】24‘12/30
【新年】25‘1/2




